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PMプロフェッショナルへの歩み―13
前月号で説明の香港から帰国後に与えられたミッションの一つは:
“国際規格ISO9001に従って、NI社組織全体を企業品質の向上を目的とした体制となるように”とのことでした。
しかし、このミッションに沿って動き出すといっても帰国したばかりの筆者にとっては初めてのことであり戸惑うばかりでした。そこで早速、この規格についての情報を図書館や知人から得ることでその概要を知ることに専念しました。その結果、これはプロジェクトマネジメントの一要素である品質マネジメントに近いものであることがわかりました。また、この情報収集の過程でISO9001に関する資料が日本規格協会から英文対訳本の形で出版されていることも知り、本屋にてこの規格に関する本を入手し、読み進めるうちにこの規格は以下に述べる内容のものであることがわかりました。
すなわち、この規格の冒頭に“組織固有の要求事項を満たす組織の能力を本規格に沿って計画、実行そしてその結果のフォローを組織自身が内部で消化し、そのフォローの結果を審査登録機関である外部機関の評価によってその企業が国際的この規格に沿ったものとして認められたものとして評価される”とのことでした。
そのため、この規格は、顧客要求事項を満たすことにより顧客満足を向上させるため品質マネジメントシステムを構築し、実施し、その結果の有効性を改善するといった一連のプロセスアプローチが必要であるとしています。
すなわち、企業組織全体の品質マネジメント体質の向上を活動の目的とした国際規格であり、昨今の2000年度版の内容ではプロジェクトマネジメントに近いようなプロセスアプローチに改定されたものです。この規格の活動体系は日本で発展した総合的品質管理に近く単に製造部門またはプロジェクト部門での製品の品質を対象とするものではなく、最終の顧客満足を得るための会社の組織や業務全体の品質管理を対象とするものです。
このように考えてみるとこれまで多くのプロジェクトにおいて実施してきたプロジェクトにおける品質を対象とした品質管理活動によく似ていてプロジェクトの各プロセス段階で如何に製品の不適合を管理するかといった予防機能としての計画とコントロールと同類の機能と感じました。このように規格の求めている内容が筆者の得意分野のプロジェクトマネジメントに酷似した業務プロセスであり、筆者もこのミッションの達成には問題ないような気がしてきました。
すなわち、このISO 9001に述べられている品質マネジメントは単一プロジェクトに要求される狭義の品質マネジメントではなく、規格内容をよく見ると筆者に与えられたミッションは会社全部門を対象とする業務全体の活動のどこの部門をとっても金太郎飴のごとく本規格に述べられている事項に沿って業務が実行されるようにしなければならないということのようです。
この規格の内容及び目的を考えると筆者のこれまで実践してきた単一のプロジェクトを対象とする狭い範囲のものでなく活動範囲が会社全部門を対象とするものであり、その責任にはかなり重いものがあると感じました。
そこで筆者は品質保証部長として会社全部門に対しての指揮命令に関する権限移譲をもらい全社各部門からの担当者を各部門から責任者を任命してもらい、各部の業務プロセスをISO9001基準に沿って各対象部門をまとめる責任を持ってもらうように依頼しました。
もちろん筆者も自部門内に各部に対応した担当者を置きまた各部の担当社員と連携して作業を進められるようなプロジェクトチームを組成し、各人とはISO 9001規格に述べられている品質マネジメントについて定期的に関係者全員と議論し、不明点のないように心がけながら作業を進めるようにしました。
すなわち、ISO9001規格による品質マネジメントはすでに述べたような特定の一過性のプロジェクトの品質マネジメントではなく企業全体の業務品質向上を目的としたものであり、各部門の業務内容にも違いがあり、また考え方にも違いがあり、担当者全員に以下を考慮した考えのもとで作業を進めるように指示しました。
すなわち、作業開始前には以下に本規格書の品質マネジメントの規定に示されている一般要求事項とそれに関連する順守すべき項目を熟読し、理解したうえで作業に入ることが肝要だということです。
また、「本規則ではこの規格の要求事項は汎用性があり、業種、及び形態、規模、並びに提供する製品を問わず、あらゆる組織に適用できるようにするが組織や製品によってこの規格の適用ができない場合はその要求事項の除外を考慮してもよい」とあるので例えば営業部門、総務部門等々のように顧客要求や受注活動または製品製造に関係ない部門については規格に順ずることが困難と言ってくる部門もありました。しかし、この規格の要求しているものはサービスの品質の保証により信頼性の確保も企業活動の必須項目であり、顧客がその提示を求めるか、否かにかかわらず会社として品質保証について自信をもって“事”にあたれるようにすることが必要であることを説明し納得させました。
以上のように各部門を統一した品質マネジメントシステムのアプローチでは製品品質の向上のみならず顧客満足と継続的改善が可能となるようなことが重要であり、本作業遂行にあたって下記のような計画を立て作業を進めることにしました。
- ① 顧客要求条件およびそこに求められる暗示的、内包的なニーズの明確化
- ② 組織の品質に関する方針と品質目標の設定
- ③ 組織の役割(責任、権限)分担の明確化
- ④ 組織の役割分担と経営資源の配分
- ⑤ 品質マネジメント各プロセスの有効性と効果測定の方法と指標の設定
- ⑥ 不適合・是正処置の設定
- ⑦ 品質マネジメントの継続的改善のプロセスの確立等々
そして、上記に基づく計画に沿って自社の業務特性を考慮し、Plan, Do, Check, Action の業務プロセスを考慮した全部門の共通マニュアルを整備し、そのマニュアルに従って業務を実行できるように整備しました。
ここまでの作業は1年半程かかりましたが、その後、審査機関(JQA:日本品質保証機構)の審査をISO規格に従って受け、無事合格し、合格通知を審査機関からいただくことができました。
今回のミッションはこれまでの狭義の単一プロジェクトの実行とは異なり多くのそれぞれ異なった業務を行っている各部門をまとめ、ISO 9001規格に従ってまとめていくといったことは初めての経験でした。すなわち、企業レベルの多様な業務を含む総合マネジメントであり業種の異なる業務各部門のおかれた状況を適切に認識した上で本件を成功に導くために最適と考えられる行動を責任者として一貫した考え方の下でマネジメントできたということです。
なお、この当時このISO 9001 規格取得について、建設省の公共工事や世界貿易機関の政府調達協定等による公共工事の発注での入札条件にも関係するといった情報もあり、建設業界や通信業界でもこの規格の取得に前向きの動きが出てきていました。
そのため、Nグループも当社の資格取得の情報を聞き、興味を持ち関係子会社から講演会の依頼が殺到しました。
以上がISO 規格に関する資格取得までの経緯であるが、プロジェクト統括部門の仕事としても前月号で予告した大型案件であるPFI 事業といった規模の大きなプロジェクトも並行して関係していました。
この仕事は下記にも示す地域的広がりの大きな、筆者がまだ経験していないものであるプロフェショナルへの歩み―11にて挙げた以下の一つです。
電気通信事業、鉄道事業、水道事業、高速道路事業、各種インフラ関係
それは上記に示す一つである電気通信事業です。
本件については来月号にてPFI事業とは何か、そしてこのプロジェクトの経緯と筆者の関係について話をしていきます。
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