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英語で伝える力

井上 多恵子 [プロフィール] :10月号

  これまで何度か「英語で伝える力」について書いてきた。2025年6月号では「型に沿って話すことで、突然話を振られても相手に伝わりやすくなる」というテーマを扱った。
英語力を伸ばす方法は、YouTubeやネット記事、雑誌、英語スクールなどにあふれている。もう十分に語り尽くされているのではないか、と感じるほどだ。それでも、毎年定期的に雑誌で特集が組まれるなど、英語力についてのノウハウを必要としている人がまだまだいるということを示しているのだろう。だからこそ、ここで改めて、私も書いてみようと思う。2023年以降、毎日のように英語を年齢もレベルも役職も異なる方々に教えてきている実践から、確信していることを。

1. 英語力よりも大切なマインドセット
 ご自身の英語の実力を過小評価している方が多いと感じる。英語である程度話をした後、日本語で補足説明をしたり、せっかく外国の方と話す機会があっても、通訳の方に全部頼ってしまったりする方々たち。英語だけで意図が十分伝わっている時でも、「自分の英語は通じていないのでは」と不安に思うのだろう。だからこそ、教えている人たちに私は繰り返し伝えている。「意図は、英語だけで充分伝わってる。レッスン中には文法などの細かい点を指摘しているけれど、実際に話す際は英語でコミュニケーションすることを恐れないで。」と。英語でコミュニケーションすることに躊躇してしまう方で、お酒が好きな方は、外国人が集まるバーに行ってみるのもお薦めだ。多少酔っていると気が大きくなり、「なんとか雰囲気だけで、会話できました!」と喜んで報告してくれる方もいる。
 そもそも、普段の日本語での会話でも、100%正確に伝わっていることは少ない。曖昧な点は推測したり、そこは飛ばして全体をざっくりと理解して済ませていたりするのが実態だろう。英語の場合も同様だからこそ、多少の文法的な誤りがあっても問題無く伝わることが多い。例えば、3人称単数の -s を忘れたり、(She loves you.をShe love you. と言う)前置詞を間違えたり(I will go there in November.を I will go there on November. と言う)するケースだ。日本語学習中の外国人が「家行きます」と言っても、その時の状況を踏まえて、意味が分かるのと同様だ。
 英語でスピーチなどをする際も、マインドセットが重要だ。以前ある方のスピーチを指導した時は、発音や抑揚に注意しながら、何度も練習を繰り返した。そして、最後に私がお届けしたのは、ある録音ファイル。自分が伝えたい1メッセージを思い出してもらい、そこにフォーカスをして頂くために。スピーチの場に私は行くことはできなかったけれど、スピーチの前に録音を聞き、心を落ち着けて、自信をもって話して頂けたという。
 もちろん、重要な契約や交渉の場などでは通訳を使うことも考慮したい。しかしそういう時でも、挨拶などは、自分の英語で伝える方が、関係性づくりに効果的だ。最近イチローであれ大谷であれ、英語で語る日本人が増えているのは嬉しい。

2. 誤解を減らすために押さえておきたいこと
細かい点は気にしなくていいと述べたが、「伝わる」ための留意点はいくつかあるので、押さえておきたい。
  1. ① 意味が変わる動詞+前置詞
  • Look at = 見る
  • Look for = 探す
  • Look after = 世話する など
  1. ② 単数・複数の違い
    複数の概念が日本語では薄いために、名詞を複数形にしないケースが多い。その場合でも、数をイメージできるtwoやmanyなどを一緒に使うことで、誤解を防ぐことができる。
  2. ③ 誤認識している表現
    クレームという言葉と同じ意味を持つと思って、claimを使う方がいるが、claimは主張するという意味になる。
  3. ④ 複数の解釈があり得る表現
    「1時」が午前1時なのか、午後1時を意味しているのか。認識のズレが生じ得る。

3. 大事なのは、伝える内容と伝え方
 話す際には、何を伝えるか、どう伝えるか、に注力したい。伝え方で言えば、全体の構成と一つひとつの文をわかりやすく、気持ちを込めて伝える。各文をわかりやすくするコツは、短くして聞き手の頭に入りやすくすること。関係代名詞を入れて長い文をつくったほうが、洗練されていると思っている方がいるが、情報を詰め込みすぎた文は理解しづらい。
  1. ① 長い文
    The book that I borrowed from the library, which was recommended by my teacher was so difficult that I couldn’t finish it.
    私が図書館から借りた本は、私の先生が推薦してくれた本であったが、あまりにも難しくて読み終えることができなかった。
  2. ② 短く区切って分かりやすくした文
    I borrowed a book from the library.
    My teacher recommended it.
    私は図書館から本を借りた。それは先生が勧めてくれた本だった。しかしその本はとても難しくて、私は読み終えることができなかった。
 気持ちを込めて伝えるコツは、抑揚や強調、リズムを加えること。英語だと気持ちを乗せづらいという方は、話している内容をイメージしつつ、上手な人の真似をするのが効果的だ。

 以上、皆さんが少しでもより自信をもって、英語でコミュニケーションできるよう、願いを込めて!

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