「日本の宇宙開発ベンチャーを巡るいくつかの動き」(その2)
イーロン・マスク氏が設立したスペースX社のロケット「ファルコン9」は、それまでの世界の宇宙ビジネスを根底から変革した。最近の日本も宇宙開発スタートアップが100社以上できていて、活発な活動をしています。
今回は、その動きの中から衛星コンステレーションに関わる企業の動きを紹介し、今後、数回に亘って、日本の宇宙開発スタートアップ企業動向を紹介します。
〇衛星コンステレーション (*1)
衛星コンステレーション(星座)とは多数の小型衛星を一体的に運用する形態のことです。アメリカの測位衛星(GPS)はカーナビで世界初のコンステレーションを実現させた事例で、現在24機で運用されています。
軍事、測量、建機、車両の管理、衛星から地球を撮影して地上の動きを監視するものや地殻変動などの分析を行なうリモートセンシングなどで使用されています。
小型というのは1,000kg以下の衛星のことですが、開発コストが比較的抑えられるうえ、開発期間が短く、打上げ機会を増やしやすいことから、航空宇宙の老舗企業ばかりでなく、ベンチャー企業も参入しています。
スペースXは2019年5月よりスターリンク衛星の打ち上げを本格的に開始し、2023年7月の時点で4,746機を打ち上げており、世界で稼働している人工衛星の約半数にあたると言われています。
特に、有名になったのは、ロシアのウクライナ侵攻が始まって間もなく、イーロン・マスクはウクライナの要請に応えるかたちでスターリンクを提供しました。
(参考:スターリンクをつかってみよう。)
ウクライナでは数日で電話とインターネットを復旧させることができたといわれています。
また、海上の船舶からもビデオ通話ができるほどの快適なインターネット環境が整います。
地上36,000kmの静止衛星には通信遅延(往復で0.3秒)という短所がありますが、スターリンク衛星は、地上に近い550kmに複数の衛星を打ち上げて連携させるため、遅延が少なく地球のあらゆる場所で通信が行えるメリットがあります。
このため、ソフトバンクグループが筆頭株主となっているOneWebやAmazonなどはすでに衛星コンステレーション事業を行っています。また、最近KDDIが衛星スマホサービスを開始しました。
(図はKDDIのホームページより) |
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〇シンスペクティブ(株) (*2) (*3)
シンスペクティブ(株)は、2018年2月創業の慶応大学発の企業で、小型SAR衛星を独自開発し、その衛星コンステレーションを運営する会社です。SARは、マイクロ波を衛星から地表に向けて照射するレーダーによる観測で、反射してきた波を解析することで地表の状況を映像化します。光学カメラと異なり、夜間でも悪天候下でも撮像できます。
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SAR衛星:Synthetic Aperture Radar(合成開口レーダー)を搭載した人工衛星。
天候や昼夜の影響を受けにくいので、災害状況の把握や資源管理などで利用されています。 |
JAXAのSAR開発は古く長く技術蓄積を行ってきましたが、最近では地球観測衛星(だいち)で大きな成果をあげています。2011年の東北大震災の時には、「だいち」1号による緊急観測を行い、津波により浸食された領域の正確な把握を行い、地盤変動や土砂災害、建物被害などの解析結果を政府や国内の防災機関に提供しました。下図では、左が震災前、右が震災後、津波による海水浸食の様子がはっきり見えます。
「だいち2号」では、令和6年の能登半島地震における緊急観測を1月1日夜間に行い、国内防災機関に地盤変動や土砂災害、建物被害などの解析結果を提供しています。
シンスペクティブ(株)は、2021年2月に小型SAR衛星(100kg級)を打ち上げ、画像の取得に成功。それ以降、自社の実証商用機「StriX(ストリクス)」を連続して打上げ、2024年12月には、6機目の衛星を打上、画像の取得に成功しています。2030年までに30機の衛星群(コンステレーション)を構築することを目指しており、低軌道を周回する30機のコンステレーションにより、世界のどの地域で災害が発生しても、数時間以内に観測することが可能になることを目指しています。
同社は、2024年6月には累計資金289億円を調達しています。 (*4)
また、2024年12月に三菱電機(株)は、シンスペクティブ株式会社と衛星コンステレーション構築および日本の安全保障に資する衛星画像販売に関する戦略的パートナーシップ覚書を締結、12月16日に出資を行ったと以下を発表しました。 (*5)
従来の衛星では、朝と夕方の観測しかできなかった観測を、コンステレーション技術と安価な小型衛星開発技術により連続観測ができる地球周回軌道に衛星配置ができるようになりました。
このため、小型SAR衛星の応用範囲が格段に広がっていく状況になっています。技術の発展により難しかったSAR衛星技術を民間企業が比較的容易に利用し様々な応用を世界中で始めたようです。
最近、防衛省はSAR衛星を活用したいわゆる反撃能力を構築する一環で「攻撃目標の探知・追尾能力の獲得を目的とした衛星コンステレーションの構築」に取り組むようになっています。
この業務は、2025年度から公募に着手、2027年度中の本格運用開始を予定するとのことで、シンスペクティブ株式会社などの参加が有望視されています。ようやく民間の時代に入ったようですね。
参考文献
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