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「エンタテイメント論」(207)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :8月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

7 本質
●横浜ジョイポリスの所在地、開業年、投資額など
 前号で横浜ジョイポリスの命名の秘話を解説した。命名が適切でないと、命名された新しい商品、製品、サービス、技術、そして事業の「存在」がよく認知されず、商品や製品などが売れず、当該事業までが失敗する。「名は命」である。

 さて横浜ジョイポリスを前号までの各号でエンタテイメント論の「本質」の観点から色々と解説してきた。ついては本号では其の纏めとして総括的に解説したい。

 事業主体者、所在地、 (株)セガ・エンタープライゼス  横浜市中区新山下町1-14-18  開業年 横浜ジョイポリス:1994年7月20日開業(大阪ガルボ:1994年4月14日開業)  ①敷地面積、②延床面積 ① 1万2千m2(3600坪) ② 8300m2(2500坪=メイン・アトラックション館)  ①投資目標額、②売上目標、③入場者数目標、④入場料 ① 70億円、② 36億円(年間・メイン・アトラクション館のみ)、③ 年間100万人目標。
④ 大人 500円、子供250円、2000~3000円のカルラ・カード(何度も活用可能)発売
★初年度の入場者数は目標値を超える120万人、売上高も目標値を超える20%増であった。大成功であった。「川勝さん、失敗したら辞表を書いて頂きます」とセガ社長に言われた事を思い出し、苦笑いした。

 出典・本号掲載の横浜ジョイポリスの絵や写真等は筆者が所有するセガ関係資料から引用。




●横浜ジョイポリスの全体レイアウト




●メイン・アトラクション館
 メイン・アトラクション館には1階、中2階、2階の3層フロアを構築した。

 1階フロアには入場券発売所&改札口、キッズ・ガーデン、メリーゴーランド、カフェブランカ(飲食店)、セガソニック&テイルス、カーニバル・ストリート、レイル・チェイス・ザ・ライドを設置。
 
 中2階フロア―にはアミューズメント機器ゾーンを設置。

 2階フロアにはVR-1(バーチャル・リアリティー式宇宙空間ゲーム機。正式名称はAS-1)、マッドバズーカ、ゴーストバスターズ、アストロノミコンを設置。

●メイン・アトラクション館以外の場所に於ける施設
 飲食店&物販店としてカフェブランカ(メイン館内のみ設置)、モルツクラブ、聘珍楼、マクドナルド、ジョリーパスタ、ZUPPA、カラオケ「ソナゾナ」などを設置。更に東西2か所に300台分の駐車場(有料)とイベント広場を設置。




●1階フロア
1-1 入場券発売所&改札口

 監督官庁に風俗営業法適用を除外して貰う為、デイズ二―ランドと同じ様に入場料金を徴取。メイン・アトラクション館に通じる入り口に入場券発売コーナーと改札口を設置。


 任天堂やナムコ社などの日本のゲーム業界人は、セガ社が入場料を徴収する施設を作った事に驚き、一部から批判の声まで上がった。しかし風俗営業法の適用除外が目的である事を知って益々驚いた様であった。しかしゲーム業界人は、筆者が苦悩・苦闘し、必死で見付けた適用除外法に「タダ乗り」した。

 ナムコ社は、その後、「ナムコランド」を開発・開園させた。しかし同社は同開発&開園に際して筆者への事前や事後の連絡や相談は一切なく、筆者の適用除外法を既知の事として真似した。入場料を徴収せず、汽車もどき乗り物を設置などして風営法の適用を免れ、開園させ、成功させた。筆者は正直なところ頭に来た。しかし業界の発展のためと我慢し、何も主張しなかった。

1-2 シンボル装置の設置
 横浜ジョイポリスの基本コンセプトを象徴するシンボル装置として天才マッド科学者が発明した「BURP(時空位相変調装置)」の大模型を1階フロアの中央に設置した。「この装置が誤作動し、銀河系の人々が大混乱。銀河系連邦軍が混乱の制御に乗り出すと云うゲーム・ストーリー」を設定し、それに呼応した館内の各種のエンタメ・ゲーム装置が動く様にした。


1-3 メリーゴーランド(キッズガーデンも設置)
 風営法適用除外の為、デイズ二―ランドと同様に「メリーゴーランド」を設置。この設置場所を本館に入った直後の場所にする様に部下に命じた。監督官庁関係者が適用除外の現場確認のため横浜ジョイポリスを訪問した時、真っ先に彼等の目に付く様にする為であった。

 彼等への当て付けの措置であった。筆者が必死に何度訴えても彼等は適用排除を認めなかった。そのうっ憤を晴らす為でもあった。そして子供達が楽しめるキッズガーデンもその近くに設置させたのである。


1-4 カフェ・ブランカ
 本館内に来場者が館内で休憩や食事が可能な店を設置。デイズ二―ランド内の飲食店やカフェを真似た。

1-5 セガソニック&テイルス・ショップ
 お土産、プレゼントに喜ばれるセガ製オリジナルの縫いぐるみ、アクセサリーなどを販売する店を設置。
このショップの写真は割愛した。

1-6 カーニバル・ストリート
 来客を1階フロア―で最大規模のアトラクションである「レイル・チェイス・ザ・ライド」に導く為の特別なストリートを設置。本ストリートにセガソニック&テイルスやオリジナルゲームを楽しめるメルヘン空間も作った。また本ストリートでミニ・カーニバル、ミニ・イベントなどを開催出来る様にした。

1-7 バーチャル・フォーミュラー
此れは3次元CGを使ったフォミュラーレースを本格的に体感できるゲームマシン機。全部で8機設置。現在では当たり前のカー・ゲーム機である。しかし当時は日本でも、世界でも最初の最大のゲームマシンであった。大人気を博した。


1-8 レイル・チェイス・ザ・ライド
 風営法適用除外の為、デイズ二―ランドと同様に「汽車」を設置。しかしディズニーランドの汽車と似た汽車では面白くないと考えた。それで筆者はセガ研究開発部隊に要請した。其れは線路を設置させ、何等かの乗り物に客を乗せて走行させ、何か面白いゲームで楽しませる事であった。

 開発部隊は客を闇夜の中を駆け抜けるトロッコに乗せる。王妃を救う為、次々と立ちはだかる山賊や怪物をインタラクティブ(双方向)シューティング機能を持った「銃」で倒す。スリル満点のコースター型アトラクション・ゲーム機がセガ研究開発部隊で開発された。
 更に監督官庁が風営法適用除外を認めざるを得ない様にする為の「命名」まで考えた。考案された「セガ式汽車」は、線路(レイル)の上に乗って(ライド)、対象物を追いかける(チェイス)ゲーム装置であると定義され、その名前を「レイル・チェイス・ザ・ライド」とされた。


●中2階フロア
中2-1 中二階はセガ社のゲーム機開発のテスト・フロア

 セガ社が①開発途上の試作レベル、②完成直後の発売前レベル、③新発売のレベルの3つのレベルのゲーム機を公開し、中2階フロアに設置した。

 その結果、狂信的なセガ・マニュアやセガ・フアンが殺到した。彼等はセガ社にとって最も貴重な顧客層でセガの先進ゲーム技術の理解者であり、セガ・プロダクトへの厳しい評価者でもあった。そしてセガの人材調達の資源にもなった。また彼等とセガ社関係者との表と裏の交流で得た各種情報は、セガ社に貴重なアイデアを生み出した。本フロアをゲーム機開発のテストフロアにした事は良かった。


中2-2 中2階は来訪者を2階フロアに誘導するフロア
 来訪者にもっと楽しい各種アトラクションが2階フロアに存在する事を知らせ、ワクワクと期待させる為の小道を作り、2階フロアに誘導した。

●2階フロア
2-1 AS-1(Advanced System-1)

 AS-1(VR-1は本パークでの呼称)は、セガ社が世界で初めてVirtual Realityの技術を実装化させ、業務用のゲーム機の実用化に成功させたゲーム装置である(社内正式名称)。


 AS-1の機内に入るとヘッドマウント・ディスプレイ(HMD)を着用する。360度全方位を観られる映像とライド(乗り物)が連動して動くシューティング型宇宙ツアー・アトラクション・ゲームである。客はリアリティーたっぷりの異次元的ゲームを楽しめる。

 その後、密閉型でなく、オープン型の「8人乗りのライド」を開発した。客は銀河連邦軍として宇宙船に乗り込み、ビーム銃で敵を攻撃する。下を向くと足の下の更に下にある窓から飛んで来る敵が見える。上を向くと上の敵、左右に向けば左右の敵が見える。ライドは映像の動きと連動して上下左右前後に揺れ、臨場感、リアル感、爽快感は抜群。大ヒットした。


 しかし問題が起った。当時の来場者は「他人が使ったHMDを使いたくない」と云う苦情が多発した。この解決策は1つだけ。筆者は現場の部下達に命じて「消毒用ガーゼ」で毎回HMDを拭かせた。しかし最近の人は誰でも平気で他人が使ったHMDを使う。時代も変わったものだ。


 二階フロアにセガが社運を賭けて開発したAS-1 の他に様々な新型ゲーム装置を設置した。次号ではAS-1の開発秘話、設置された最新鋭のゲーム機などを解説する。

つづく

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