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英語で伝える力

井上 多恵子 [プロフィール] :7月号

「型に沿って話すことで、突然話を振られたときでも、相手にうまく伝えることができる。」―これは、先日観たコミュニケーションに関する動画で、アメリカ人スピーカーが語っていた内容だ。実はこれ、私自身も英語・日本語問わず、コミュニケーション指導をする際に常に伝えている大切なポイントでもある。
日本人は話すときやメールを書くときに、まず背景から語る傾向がある。そのため、相手は「結局何が言いたいのか?」と要点をつかむまでに時間がかかってしまう。グローバルな場では、結論と要点を最初に伝え、その後に背景を補足するという構成の方が、圧倒的に伝わりやすい。「ポイントは3つあります」と冒頭に伝えるだけで、相手の脳は自然と3つの情報を受け取る準備をする―構造にはそれだけの力があるのだ。
アメリカ人はそうした話し方に慣れていると思いがちだが、動画によると、準備されたスピーチでは構造的に話せても、突然話を振られたときにはうまく話せない人も多いという。だからこそ「型=構造」を意識的に持っておくことが重要だと話していた。
動画では、代表的な2つの「話しの型」が紹介されていた。
ひとつ目は、商品やサービスを紹介したいときのフレーム:
課題 → 解決策 → 利点
たとえば私が提供している「グローバル・コミュニケーション・コーチング」の場合、多国籍の人々と働く中で「自分の力を十分に発揮できていない」と感じているという課題に対して、それを解決する手段としてこのコーチングを提供している。そしてその利点は、「どんな場面で、どんな振る舞い・表現が適切か」を理解し、実践できるようになること。単なる教科書的な英語ではなく、リアルな現場で使える実践力を一緒に育てていく。このように構造を意識して伝えることで、理解や納得度が格段に高まる。
よくある失敗は、「私はこんなサービスを提供しています」から話し始めてしまうこと。そうではなく、相手が抱える課題から始め、それに対して自分の提供できる価値を伝えるという順番を意識するだけで、伝わり方が大きく変わる。話し手自身の思考も整理され、ブレずに伝えられるようになる。
ふたつ目は、「事実 → 意味づけ → 行動提案」の三段論法。英語ではFact → So what → Now what。これは相手を動かしたいときに特に有効なフレームだ。
実際、この文章もこの構成で書かれている。まず、「型を使うと突然の場面でも話しやすくなる」という事実を動画で知った(Fact)。それは、私がこれまで伝えてきたことと一致し、「これは改めて大事にすべき視点だ」と実感した(So what)。だからこそ、この記事で皆さんにも共有したいと考えた(Now what)。
実際のコーチングでも、「最近あった出来事を英語で話してください」とお願いすると、「今日は○○がありました」と日記のように事実を並べる方が多い。それ自体は興味深くても、どうしても浅く感じられてしまう。グローバルな場では、「その出来事をどう受け止めて、どう行動したか」という視点が求められる。事実に加え、自分の解釈や意図を言葉にして伝えることで、「考えている人」としての印象を与えることができ、存在感や影響力が増していく。
英語で話す際に「表現が子どもっぽい」「もっと自然な接続詞を使いたい」と悩む人も多いが、まずは構造=フレームを整えることが何よりも大切だ。そこに、自分の考えや意思、選択のプロセスを乗せていくと、伝わり方は劇的に変わる。
たとえ使う表現がシンプルでも、「この人は何をどう考えているのか」が伝わる方が、相手には強く響く。だからこそ、「英語で伝える力」を磨きたい人には、まずフレームを決め、それに沿って話を構成することをおすすめしたい。
その上で各文を作るときには、一から日本語を一つ一つ英語に訳すのではなく、構文を活用すると良い。時間を短縮できるだけでなく、誤訳を避けることができるからだ。たとえば、
  • I think that...(私は~と考えます)
  • It is important to...(~することは重要です)
  • As a result, I...(その結果、私は~しました)
  • That’s why I would like to...(だからこそ、私は~したいと考えます)
こうした構文をあらかじめ身につけておくと、内容に集中する余裕が生まれ、伝わる英語に近づいていく。私のコーチングでも、これらの構文を使って、単語を入れ替えることで例文を作ってもらう練習をよく行う。
フレームと構文、この2つをうまく活用することで、より伝わる・影響力のあるコミュニケーションを実現できる。ぜひ、日々の練習の中で取り入れてみてほしい。

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