例会部会
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「例会第300回記念大会」報告②

中前 正 : 4月号

PMAJ例会部会では、2月28日に例会第300回記念大会を開催しました。当日参加いただいた皆さまにはあらためてお礼申し上げます。
当日は2名の講師をお招きし、2本立ての講演形式で進行しました。ここではそのうち2人目の講演について報告します。

【データ】
開催日: 2025年2月28日(金)
テーマ: 「脱炭素社会の実現に向けたエンジニアリング会社の役割と貢献」
講師: 千代田化工建設株式会社
フロンティアビジネス本部・技術開発部部長
森上 賢 氏

◆ はじめに

各種プロジェクトに従事し、常日頃から社会情勢の変化やビジネス環境の動向にアンテナを張っている皆さまにおいては、近年「脱炭素社会」や「カーボンニュートラル」というワードを耳にする機会が増えてきたことと思われます。そんな中、これらの動向が自身のプロジェクトにどう関わってくるのか、あるいはこれらの取り組み事例が自身のマネジメント手法の何らかのヒントになるのではないか、などと想いをはせる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで今回の例会では、この分野をリードする千代田化工建設より、脱炭素技術を中心にした技術開発案件を推進、遂行している森上賢氏を講師にお招きし、その取り組み内容を紹介いただくとともに、エンジニアリング会社としての役割や貢献のあり方についても提言いただきました。以下、要点を抜粋して紹介します。

◆ 講演内容(抜粋)

・ 脱炭素(カーボンニュートラルCN)の潮流、動向

昨今、地球上のあらゆる地域で人間の活動の影響による極端な気候変動が生じている。そんな中、世界ではカーボンニュートラル目標を表明する国や地域が急増しており、CO2排出削減と経済成長の両方の実現を目指すグリーントランスフォーメーション(GX)に向けた大規模な投資競争が激化している。

日本では経済産業省が中心となり、14の重点分野を選定して2050年のカーボンニュートラル実現に向けて高い目標を設置して計画を推進していく「グリーン成長戦略」が策定された。また革新的な技術開発に対して継続的な支援を行うグリーンイノベーション基金(予算額2.0兆円)が整備された。

・ 脱炭素社会に向けた千代田加工建設の技術開発、社会実装の取り組み

千代田化工建設では脱炭素・カーボンニュートラルの実現に向け、水素を中心にしたクリーンエネルギーを「つくる」「はこぶ・ためる」「つかう」の3段階からなる水素サプライチェーンの形成に取り組んでいる。

「つくる」においては、トヨタ自動車と共同で世界最高レベルの競争力をもつ水電解システムを開発することについて合意した。今後、早期に大規模供給体制を立ち上げて急速に拡大する水素市場に対応していく。
「はこぶ・ためる」では水素供給国(中東やインドなど)と水素輸入国(日本や欧州など)で構成されるグローバルサプライチェーンの構築を探索している。また供給側での水素化(トルエンと水素を結合させてMCHに転換)と需要側での脱水素(触媒を利用してMCHから水素を分離。トルエンも得られる)を循環させる「LOHC-MCH」システムの実証試験や、低コストでの輸送が可能な水素エネルギーキャリアであるアンモニアの従来法に比べ低温低圧条件による合成および新規分解技術の開発を推進している。
「つかう」の事例としては、水素とCO2からメタンを合成(メタネーション)する試験設備や、同じく水素とCO2から合成燃料(e-fuel)を得る実証設備の建設受注などがある。また発電排ガスからCO2を分離回収する技術やグリーンケミカルを生産する技術の開発にも取り組んでいる。

・ エンジニアリング会社の役割と期待

脱炭素は今や全世界の喫緊の社会課題である。そして脱炭素社会はエネルギーや化学製品を安定的に供給できる「プラント」を通じて実現できる。また新たな技術やアイデアを安全かつ効率的に、そして大規模化や自動化などの要素も取り入れて普及させていく「社会実装」のノウハウも求められる。

将来に向けての課題としては、技術面では太陽光を利用した有価物の生産アプローチや生産プロセスの開発、またDXやAI技術をプラントに組み込むことにより最適運転を導くことが挙げられる。社会面では要素技術を有する大学や企業をつなげて解決案を提案したり、農業やバイオ医療分野に化学工学手法を適用・提供したりすることが挙げられる。これらへの取り組み方にエンジニアリング会社としての存在価値が見出せるものと考える。

◆ 講演を聞き終えて

私が所属するIT企業ではエネルギー分野に直接的な関わりはないものの、社会情勢の変化や新技術の登場により、間接的にコスト増加やスケジュール遅延などの影響を及ぼす可能性があります。そんな中、脱炭素の世界的な潮流やこの分野をリードする企業の取り組みを知ることができた点は有益でした。また企業として掲げたパーパスやビジョンと密接にリンクさせながらさまざまな技術開発や社会実装を計画的、持続的に遂行していく姿勢にも共感しました。当日参加された皆さまは、何かヒントになることはありましたか。

例会では、今後もプロジェクト・マネジャーにとって有益な情報を提供してまいります。引き続きご期待ください。

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