第166回関西例会レポート
PMAJ関西KP 樋口 高弘 : 12月号
開催日時: |
2024年10月18日(金) 19:00~20:30 |
開催場所: |
オンラインZOOM |
テーマ: |
「人手不足の解決策は採用だけではない!」
~リスキリングとスキルのシェアリングで従業員を半減させても業務を回せる方法~ |
講師: |
富 光弘( とみ みつひろ )氏/みんまね!合同会社 代表 |
参加者数: |
28名 (運営スタッフ含む) |
1. はじめに
第166回関西例会は、PMAJ関西地域の研究部会幹事を務める富氏を講師に迎えた。日本の人口減少が進む中、プロジェクト推進に与える影響を考察し、従来の採用だけに依存した解決策が限界に達している現状を打破する新たなアプローチを提案された。特に、リスキリングやスキルシェアリング(技能共有)を軸にした戦略について、具体的に紹介していただいた。
2. 講演概要
人口減少期における人手不足がプロジェクト推進に与える影響を以下4点(IT業界に焦点)で考察した上で、根拠となるデータも示しながら、3部のアジェンダ構成で展開・論じられた。
<考察>
- 1) 人口減少と採用難(労働力不足)によるプロジェクトチームの編成変化
・・・従来の採用方法や単純に人月を集めるだけの対策では限界に
- 2) 労働力人口の減少を考慮したプロジェクト推進の方法
・・・従来の雇用(専有)からシェアリングを活用した柔軟な働き方へのシフト
- 3) リスキリングによって複数のスキルを持つ多能工の育成
- 4) 現在では欠かせない生成AIを活用し、業務効率化や自動化を進める必要がある
<アジェンダ>
- 1) 予想されていたはずの人手不足
- 2) PM(プロジェクトマネージャー、以下PM)として意識すること
- 3) これからのPMに求められること
- まとめ
2-1. 予想されていたはずの人手不足
講師は冒頭で、「日本の人手不足は、40年以上も前から予測できていた」と強調した。示された統計データでは、1970年代にはすでに日本の合計特殊出生率*1が2.1を下回り(現在:1.2)、その後の少子化によって労働力の減少が避けられない状況であることが示唆された。しかし、企業はこの現実を直視せず、あくまで採用による労働力確保に依存し続けてきた。
*1 「合計特殊出生率」 : 1人の女性が一生のうちに産む子どもの数の指標
最近の事例として、飲食業界の離職率が年々増加しており、2019年の30%から2023年に至る4年間で40%近くまで増加、スタッフの定着率が大きな課題となっている。特に、IT業界では人手不足が顕著で、求人情報過多(求人サイト、高待遇、即戦力採用など)の状況が見られ、システム開発の遅延や中止が相次ぎ、結果として品質の低下が問題視されている。また、デジタル化の遅れ(中小企業のデジタル化、行政サービスの遅延、経済成長の阻害)など、もはや採用だけでは解決できない問題であり、新たな視点が求められていることが浮き彫りとなった。一方で2030年には800万人減少するとの試算結果が出ており、今後は「人は増えない」ことを前提に考えていかなければならない。
IT業界の人手不足は1960年代から常に言われてきたが、産業構造上の課題として、技術革新が起きると失業者も増加、教育の遅れから技術革新に追いつかない現象が起きている。言い換えれば、新しい技術革新についていけない人が多く、リスキリングができないから人材不足になることが常に発生しているとも言える。
2-2. PMとして意識すること
PMは不人気な職種として、「過度な負担」で敬遠されがちである。若年層がPMを避ける理由として、多くの課題や懸念材料がある。
- 高いストレスと責任の重さ(成功・失敗の責任が大きく、健康や生活に悪影響)
- 長時間労働とワークライフバランスの欠如(仕事以外の時間が確保できず、働き方への不満増)
- 報酬と労力の不均衡(責任や労働時間に対する報酬が不十分で、モチベーション低下)
- キャリアパスの不透明さ(将来の見通しが不明確で、キャリアに対する不安)
- 専門技術職への志向(マネジメント職より専門技術に興味があり、マネジメント職への関心低下)
- 経験不足による自信の欠如(プロジェクト管理に自信がなく、役職への応募意欲低下)
- 組織からのサポート不足(育成支援への不足感があり、若手の成長が遅延)
- 管理業務への興味の低下(書類作成やスケジュール管理に魅力を感じず、管理業務への興味減少)
- テクノロジーの進化による役割の変化(AIや自動化による役割の変化で、PM職への将来性に懸念)
- メンタルヘルスへの懸念(ストレスと長時間労働がメンタルに影響)
このようなことから、PMより技術者志向が増えている状況があることや、前述の人が増えないということを前提とした働き方やマネジメント手法を根本的に見直す必要がある。
2-3. これからのPMに求められること
人手不足の解決するための具体的なアプローチとして、「リスキリング」と「スキルシェアリング」がある。そのアプローチの考え方としては、①(準備)PM業務の断捨離→②今の組織で複数の業務ができるようにする→③業務の自動化(タイパアップ)→④業務のやり方を変える(DXの実現)の流れとなる。このうち肝となる①について、以下7項目毎に効果とリスクを説明された(詳細は配布資料参照)。
- 「過剰な文書作成や報告業務」の断捨離
- 「硬直し計画・進行管理手法」の断捨離
- 「固定的な役割分担」の断捨離
- 「長期的なリスク計画」の断捨離
- 「トップダウン型管理」の断捨離
- 「固定的な勤務時間・場所」の断捨離
- 「硬直した評価制度」の断捨離
- 1) リスキリング
今の6割の仕事は、40年前には無かった。昔からリスキリングがあったが、デジハラの兆しや年功序列の崩壊の状況から、スキルの新陳代謝(→仕事の新陳代謝)として「仕事は変わるのは当たり前」と考えるべきである。
リスキリングとは、既存の従業員に新たなスキルを習得させ、企業の内部リソースを最大限に活用する方法である。一人の従業員が複数の役割を担う多能工を育成することが、人手不足に対する最も効果的なアプローチの一つである。リスキリングによって従業員のスキルセットを多様化させることが今後の企業戦略において不可欠である。具体的には、アパホテルが従業員に複数の業務を任せることで、運営効率を大幅に向上させた事例がある。
リスキリングは、ただ単に新しい技術を習得するだけでなく、従業員が自律的に業務を遂行できる能力を育てるための投資と考えるべきで、長期的に見た企業の成長に不可欠な要素である。
- 2) スキルシェアリング
スキルシェアリングとは、企業が内部で不足しているリソースやスキルを外部から補完する手法であり、外部の専門家やフリーランサーといったリソースを柔軟に利用することで、企業内の人手不足を補うことができる。この方法は、中小企業にとって特に有効である。中小企業はリソースや予算が限られているため、全てのスキルを社内で持つことは困難であるが、スキルシェアリングを活用することで、専門知識を必要な時に、必要な分だけ利用することが可能になる。
具体的な例として、5G技術を活用した遠隔操作による重機の運転や、タイムシェア型の労働者派遣サービス「Timee」などを挙げ、効率的なスキルの利用法である。
- 3) 生成AIによる業務の効率化と自動化
今後、生成AIの導入は避けられない選択肢となり、業務の効率化や自動化における重要な役割を担うようになる。従来の業務では、PMが文書作成や進行管理に多くの時間を割いていたが、生成AIを利用することでこれらの単純作業を自動化し、PMがより創造的で戦略的な業務に集中できる環境を整えることが可能となる。また、生成AIがデータの分析や予測を行い、プロジェクトの進行をリアルタイムで最適化することも可能になってきている。
AIを使うことによって人手不足の解消にとどまらず、AIがプロジェクトチームの一員として機能する未来を描き、「AIはあなたの部下やチームメンバーになる」という、今後の労働環境の劇的な変化が予見されている。
- 4) これからのPMに求められるスキルセット
これからのプロジェクトマネジメントにおいて、単に技術やツールを知っているだけでは不十分であり、柔軟なマネジメントスキルが求められる。従来のトップダウン型管理の限界から、アジャイル手法を採用したフラットなチーム構成や、クロスファンクショナルな役割分担が重要となる。
特にPMにとって、リーダーシップの発揮と同時にAIやデジタルツールを効果的に活用するスキルが今後ますます求められる。リスキリングと生成AIを組み合わせることで、少ない人数でも高いパフォーマンスを発揮できるチームを作り上げることが、これからの企業にとって重要な戦略になる。
2-4. まとめ
今回のテーマでの問題提起と解決の方向性の示唆から、今後取り組むべきこととして、「生成AI」を活用したPM業務の最適化、「リスキリング」を想定とした研修の実施、「シェアリングエコノミー」の調査と準備が挙げられる。
また、これからの人材戦略の方程式として、今までは「パフォーマンス」=単独スキル×「人」であったが、これからは、「パフォーマンス」=DX×生成AI×(マルチスキル×人)」となる。人手不足の解決には、採用だけではなく、技術とスキルの融合による業務改革が不可欠であり、特に生成AIの活用が今後の企業競争において、決定的な要素になる。
3. おわりに(感想)
講演後(懇親会含む)は、参加者からも多くの質問が寄せられ、AI導入に向けた具体的なステップや、リスキリングを効率的に進めるための方法論など、活発な議論が交わされたことから、視聴者の方々の関心の高さが伺えた。IT業界では、過去から慢性的に人手不足が続いているが、現在ではその必要な人材像も大きく変わり、適応能力の幅もより広範囲になってきていることが理解できた。IT業界を前提としているものの、他の業界でもPMという領域では、共通しているのではと思う。超過密な労働環境の改善も迫られる中で、少ないマンパワーで業務を回していくための方向性(戦略や方法論など)も示されたので、大変有意義な共有の場であった。
以上
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