今月のひとこと
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 同性婚法制化問題 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :4月号

 3月の終盤になって寒い日がぶり返すなどして、桜(ソメイヨシノ)の開花が遅くなりましたが、漸く春らしくなってきました。ここ数年、春と秋が短く、夏と冬が長くなっています。直ぐに夏がくるのかもしれませんが、暫し短い(かもしれない)春を楽しみたいと思います。

 同性婚を認めない民法等の規定は憲法違反だと主張する訴訟で、「損害賠償は認めないが違憲ではある」との高裁判決が出たとニュースに出ました。同性婚に関する訴訟は全国で6件あり、そのうち違憲あるいは違憲状態だとの判断が地裁段階で5件出ており、3月14日は初の高裁判決でした。
 この問題に関して、この欄で軽々に論ずるのは適切ではありませんが、そのプロセスに気になったところがありますので、少々触れてみたいと思います。
 一つは問題のテーマとなっている「婚姻」とは何かについて、定義が定まらないままに議論が進められているのではないかという点です。訴訟という形式をとっているためにやむを得ないという面があるとは思いますが、法律の条文をどう解釈するかという議論になっており、ニュースを読んでも非常に分かり難いのです。また、世界的に見ても結婚せずに一人暮らしを選択する人の割合が増えており、日本でも1人世帯の割合が全世帯の4割だということですので、婚姻についての社会における位置づけとか考え方といったものも変化しているはずです。法律の条文解釈をもっぱらにしていたのでは、そういった状況についての考慮がされているのかも見えにくくなっています。訴訟という形式をとっての活動なのでやむを得ないとは思いますが、婚姻とは何かについて、大多数の人が賛同するような合意(コンセンサス)を形成するための活動が並行して行われていなければ、解決にはたどりつけないのではないかと思います。
 次は、訴訟(国家賠償請求訴訟)という形式を取っていることから、活動の中で様々な不利益や損失を訴えている点に関してです。具体的な訴文については承知していませんが、原告や支援者の方々が活動を伝えるために作成した文書を読んで気になりました。家族を持つ世帯には、国民年金における第3号被保険者(保険料は配偶者が負担しているので非扶養者である本人は払わなくてもいい)とか、所得税の扶養控除など様々な優遇制度があります。同性同士のカップルには婚姻が認められていないのでこうした恩恵にあずかれないということを不利益だとして例示しています。現時点で不利益なのは事実ですが、1人世帯の割合が増加している現状からこの優遇措置を問題視する意見も増えており、不利益な事例として挙げるにあたり一考するところがあるように思います。

 プログラムマネジメントを学ぶ私たちは、世の中の仕組みや制度の変革にあたって最初に行うべきなのは「あるべき姿:to be」を描くことだろうと考えます。同性婚法制化問題への対応として、現状では「基本的人権の侵害」の状況を改める手段として同性婚を望む人たちが訴訟を選択されています。原告やその支援者が主張するような緊急の課題だという認識について異論はなく、現状の家族の在り方や社会の在り方についても影響が及ぶ問題だという意見にも同意します。現在は両者が対立しているかのように捉えられていますが、「あるべき姿」が明らかになれば、解決のためのシナリオ作りに取り掛かれるのではないかと思います。
 「あるべき姿」を明らかにせず、解決のシナリオも作成しないまま過ごしてきた事例があります。1946年4月10日女性参政権が認められて初めての国政選挙が行われました。それから80年近く経ちますが、国会議員に占める女性議員の割合が増えていないなど、当時描かれたであろう「あるべき姿」は恐らく実現していません。制度を変えればそれで済むということではなく、制度変更をした後でもいいから家族の在り方や社会の在り方について併せて考え、「あるべき姿」を明らかにして、シナリオを作らなければならなかったということではないでしょうか。
以上

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