PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (161) (プロジェクトマネジメントと契約)

向後 忠明 [プロフィール] :3月号

 今月号は契約にかかわるプロジェクトリスクについて話をします。
 プロジェクトリスクには、契約条件とプロジェクト実行中での実態条件との違いから発生するリスク、すなわちプロジェクト実行前の人為的行為によって発生するリスクと契約後のリスクがあります。
 勿論、それぞれ複雑に絡んだリスクも発生するが、プロジェクトリスクは事前に経験則、すなわちリスク対応表や識者の意見等を参考にして予測できるものもあることから、“段取り八分”で十分な体制と事前検討により、よほどひどい契約締結またはハプニングが起きなければかなりのリスクは避けられるでしょう。
 その一例を以下に示します。
  1. ① 顧客優先の営業と実行者のプロジェクトマネジメントサイドの意見の食い違い
  2. ② 経験不足や独りよがりの契約条件の取り違えや入れ忘れ
  3. ③ 契約を軽く見た条件設定の甘さや条文の不備
  4. ④ プロジェクトマネジメントと法務担当とのミスマッチ
 よって、契約書は手順に従い、契約書作成に習熟した法務担当者とよく話をし、作成し、最終的には顧客確認を取っておく必要があります。
 なお、顧客確認はいわゆる契約交渉によって行われることであり、お互いの意見の擦り合わせも必要であり、請負側の独りよがりな提案だけで通るわけではありません。
 以下にプロジェクト遂行上のリスクに相当するものは、自身の過失、顧客又は請負業者に起因するリスク、その他不可抗力的リスクや商務的リスクがあります。

<顧客自身によるリスク>
―要件定義が不明確な仕様または要求
―人、物、金に関する見積もり違いやその配分ミス
―業務/仕事の範囲の間違えまたは不明確な規定
―発注要求条件および契約条件の不明確な規定
―プロジェクト規模や複雑さそして契約条件を考慮しない人材配置
―顧客側企画(内容)にマッチしない不適切なコンサルタント採用
―作業場の技術的・商務的ミス
―コスト偏向による請負業者選択

<請負業者によるミス>
―上記顧客自身の過失等の顧客情報の見逃し及び検討不足
―営業とプロジェクト実行者間のコミュニケーション不足
―スケジュールと業務内容、範囲、業務量のミスマッチによる業務進捗遅延
―プロジェクト業務量の把握ミスによる赤字決算
―プロジェクトマネジメント能力の欠如による業務遅延と採算割れ
―品質管理能力不足による欠陥作業、欠陥製作品の納入
―顧客要求条件に達しない能力
―安易な契約条件

 その他、プロジェクト実行中での契約書に示された一般約款にかかわる顧客及び請負側が守らなければならない注意事項や定義に違反することなどがあげられます。
 下記がその代表的なものであるが、お互いの注意事項や定義には関連性があるのでその意味をよく理解したうえでプロジェクトの運営を行う必要があります。
その代表的な定義や注意事項を以下に示します。
  1. ① 秘密保持
    ある取引を行う際などに企業間で締結する営業秘密や個人情報など業務に関して知った秘密を第三者に開示しないとする契約。機密保持契約、守秘義務契約ともいう。
    本件は下記の②及び③にかかわる問題となるので要注意です。
  2. ② 一時停止(Suspension )作業や工事を一定期間停止することを言う。
    作業や工事実施の停止には様々な原因があるが一般的に顧客の指示によって停止される場合である。この場合、請負業者に対し、補償の請求権及び一定期間の作業や工事の停止についての契約解除権を与える旨を規定する場合が多い。
  3. ③ 解除(Termination),
    契約当事者の意思表示で契約関係を消滅させることを言う。契約関係の消滅が契約時点までさかのぼるのか、あるは将来についてのみ消滅させるのかがあるが一般的には後者が多い。
  4. ④ 契約不履行(default)
    契約の義務及び過失により履行しないことを言う。例えば契約上の期日を守らないとか指示に従わず誤った行為等やるべきことをやらない場合をいう。本件は②及び③にかかわる事象なので十分注意を要する。
  5. ⑤ 保証 (Warranty)
    契約の目的物に関する品質、数量・使用などについてそれが契約に適合するものであり、瑕疵がないことを担保することを言う。本件もプロジェクト実行側の能力が問題でこの事象による障害が多い場合②及び③につながる話になる。
  6. ⑥ 変更(Variation)
    契約目的物の変更、追加、削除のことを言う。ただし変更にかかわる事象が契約書の定義に示されない理不尽なものである場合は請負側がコスト負担に責任を持つ。また顧客側も同様な要求をした場合はコスト負担に責任を持つ。
  7. ⑦ 不可抗力 (force majeure)
    Act of god (契約当事者が事前に予測できない自然現象)も含むがより幅の広い範囲を含む内容であり例えば労働争議や戦争、内乱、暴動、政変、そして国による輸入禁止等思いもよらない事象に対するリスクを言う。
    本件は基本的に解除(Termination)、及び一時停止(Suspension)の前提となるが、この件は顧客及び請負側双方が現在起きている事象が不可抗力かどうか起きている事象の証拠を明確にして対応をしていく必要がある。
  8. ⑧ 瑕疵担保責任(Defect Liability)
    契約に基づいて供給される機材あるいは作業などの欠陥があった場合、一定の条件でそれを補修、取り換え、またはやり直しを行う請負業者の責任のことを言う。本件も②及び③にかかわる事象なので十分注意を要する。
  9. ⑨ 紛争の解決(settlement of Dispute)
    本件プロジェクト実行側の能力が問題でこの事象による障害が多い場合②及び③につながる話になる。
  10. ⑩ 仲裁
    当事者の合意に基づき、第三者の判断による紛争解決を行う手続きを言う。本件⑨に関係する定義である。
    契約の内容に関して見解の違いや紛争が生じたときに備えて、解決するルールを予め、取り決めておくことを言う。
    本件は上記にも述べたあらゆる事象に直結するので基本は契約書に定義や上記にて説明したことをお互いに話し合いで納めることができない場合、例えば弁護士または裁判による仲裁といった紛争解決のルールを設定しておくことが重要である。

 上記に示す一般約款に述べられる用語のほかにプロジェクトの種類によってはさらに多くのものがありますが、その内容も多岐にわたり関係する用語も膨大なものとなり、これをすべて取り上げるにはよほど専門的な法律的知見が必要となります。
 いずれにしても一般約款にて使用される用語はプロジェクトの規模、種類を見極め、内容を理解したうえで法務担当者と議論の上で採用していくことが必要でしょう。

 以上までが契約にかかわるプロジェクトリスクについての話でしたが、さらにプロマネには海外プロジェクトや大型プロジェクトにかかわるさらに高度な知識が求められます。
 例えば大型プロジェクトや公共事業そしてそれに関係するファイナンスとのかかわりが出てくるプロジェクトまたは事業等もあり、これらには、これまでと異なった契約等もあります。来月号からはこれらについて話をしてみたいと思います。

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