関西例会部会
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第161回 PMAJ関西例会 報告

PMAJ関西KP 千秋 久子 : 5月号

開催日時: 2023年1月20日(金) 19:00~20:30 (懇親会~21:00)
開催場所: オンライン(Zoom)開催
テーマ: 「DX推進者が知っておきたい「起承転結」人材モデル」
講師: 伊達 渡 氏/PMAJ関西
参加者数: 40名 (スタッフ、講師含む)

1. はじめに
 変化の激しい時代において市場における競争優位性を維持し続けるため「DX(デジタルトランスフォーメンション)」を掲げた活動が盛んだが、思うように推進できないことがある。本講演では、DXの定義、DX推進に有益な「起承転結」人材モデルの説明、DX推進の難しさを乗り越えるための人材モデルのマインド活用について、わかりやすく丁寧に解説いただいた。

2. 概要
 私の夢(ビジョン)は「やるき100%な開発者集団を創る」である。人生の半分近い時間を費やす仕事を楽しみたい、みんなでわくわくしながら仕事をしたい、という背景から夢に選び、夢の実現に向けて、これまでの仕事で得られた複数のスキルやノウハウ、PMAJで得られた知見を様々な場面で実践している。

2.1 起:私の考えるDXとは?
 経済産業省DX推進ガイドライン(現:デジタルガバナンス・コード)のDXの定義は、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」である。会社のトップ層で実践するものではなく、これを自分事化することを考える。

2.1.1 「企業がビジネス環境の変化に対応」、「顧客や社会のニーズ」
 オムロン創業者の立石一真氏が提唱した、科学と技術と社会の三領域をサイニック的に動かした相互作用から未来を予測するSINIC(サイニック)理論によると、社会は、工業社会→最適化社会→自律社会へと変化していく。実際に2005年以前は工業社会で、大量生産のもの作りで社会形成され、ものを所有するという価値観があった。2005年頃からの最適化社会では、ものが溢れかえって欲しいものが見つからなくなり、体験することに価値が生まれてきた。さらに2025年以降の自律社会になると、体験そのものが溢れ、夢を実現することが価値観として大きくクローズアップされていくと考えられる。

2.1.2 「製品やサービス、ビジネスモデルを変革する」
 製品やサービス、ビジネスモデルの変革には、
  • 顧客の「夢」がある
  • ビジネスパートナー自身も変わる
  • 「体験」に対するプロセスが変わる
必要がある。これは「顧客の夢」を実現するためのプロセスイノベーションであり、DXを進めるためには、顧客の「夢」を明確化し、ビジネスパートナーと共感を持つことが大事である。

2.1.3 「業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革」
 企業、組織、プロセス、企業文化・風土、の関係は、企業の中に組織が存在し、プロセスの一つ一つが業務である。企業、組織とプロセスの中心に必ず人がいて、企業や組織と関わっている。企業や組織は個人では変えられない部分もあるが、プロセスがベースとなってそこに業務があり、自分が業務を実施することによって組織や企業が成り立っている。
 業務、組織、プロセス企業、文化・風土は、
  • 「自分」が存在する
  • 自分の「周り」がかかわっている
  • プロセスがすべてのベースにある
 「自分」がまず変革し、「周り」を巻き込むプロセスイノベーションが最終的な変革につながる。自分を「変革する」ためには、自分自身の「夢(目標)」を持つことが大事である。自分の「夢」を語って、周りと共感しながらプロセスを変革していくのである。

2.1.4 私の考えるDXの定義
 「自律社会」の中で「自分の夢」や「顧客の夢」を実現するために、データとデジタル技術を活用し、自分の「周りの人/組織/会社」と共感しながらプロセスイノベーションを起こして優位性を確立すること。これがDXを自分事化した定義である。

2.2 承:起承転結人材モデルとは?
 起承転結人材モデルとは、オムロンの竹林一氏が2013年頃に提唱した、起・承・転・結の四つの特徴を持つ人材がそれぞれ重なり合うとイノベーションが生まれるという考え方である。起=妄想設計、承=構想設計、転=機能設計、結=詳細設計、と当てはめられ、イノベーション、望遠鏡・創造力を持つ起・承では、トライ&エラーを繰り返しながら作り上げていくことが必要である。対して、オペレーション、顕微鏡・実行力を持つ転・結では、QCDを立てて実行して行くことが大事である。
 また、ニーズ・シーズから要求(アウトプットによって得られるアウトカム)を引き出し、従来のQCDを軸に置いたプロジェクトの中でアウトプットを出し、運用する、というアウトカムをベースとしたPMのモデルがある。このPMモデルを、
  • ニーズを作る = 起
  • アウトカムとしての要求を作る = 承
  • QCDおよびKPIに落とし込んで計画化する = 転
  • 実際にプロジェクトをやりとげる = 結
と、起承転結人材モデルで置き換えて考えることもできる。
 なお、起承転結人材モデルでDXが失敗する要因として人材のミスマッチがある、と言われる。実際には起・承・転・結の四種類の人材が潤沢にいるわけではなく、例えば、ある人が起に配置されても起の適性があるかはわからない。起承転結モデル人材の解釈を組織論にとらえると、一推進者として、状況や場面に応じて起・承・転・結の役割を演じると解釈すれば、その役割の人材がいなくとも上手く推進できると考える。

「起承転結」人材モデル(各説明)、起承転結人材モデルとPMとの関係

3.3 転:DXと起承転結人材モデルの親和性
 DXにおいて、起承転結人材モデルを意識し推進するためには、
  1. ① 「自分の夢」「顧客の夢」を実現したいか?を問う = 起
  2. ② 「周りの人/組織/会社」の共感が必要 = 承
  3. ③ 「プロセス」分析が大事。全体最適でプロセスを見直す = 転
  4. ④ 「夢物語」に終わらず、最後までやり切ること = 結
の4つのポイントがあり、起承転結との親和性がとても高い。これらのポイントに、実現するにあたって必要な能力の要素が含まれており、DX推進の際には「起承転結」を意識するとうまくいく、と考える。

2.4 結:私の「起承転結人材モデル」活用事例
 技術者教育に明け暮れる中で、「DX」に興味を持ち、社内でデジタル化を推進する動きがあり「DX推進リーダー」に抜擢された。起承転結を意識しながらリーダー業務を進め、運用を開始できた。
 その際に具体的に考えたこと、実践したことは次のとおりである。起では、「夢」を意識して足りないものを欲する、「他」を意識して刺激を受け、発想する力を付ける。承では、「夢と現実のギャップ」を課題設定に含め、BAの視点(アウトカム)の旗を立てて、概念化する。さらに、ステークホルダー全員のアウトカムを丁寧に説明して参画を促し、ステークホルダーの関与度によってあえてひいきをして、巻き込む力を付ける。転では、暗黙知を拾い上げてコンセプトを作り、ステークホルダーに納得させるための分析する力が必要である。その際に、戻れない、やるしかないという危機感を植え付けて最終的なゴールまで持ってくる、貫徹する力も必要である。結では、総論賛成、各論反対にならないよう、Why(目的)とWhat(やること)のギャップ(How)を埋める。それが進む中で、改善を要望された際には「アウトカム」に立ち返り考える、ということを実践してきた。
 DXを進める上で、起承転結の考えはとても有効であることがわかった。これからもさらに事例を重ねて、起承転結を回しながらDXを起こしていく。

3. まとめ
 2025年の自律社会に向けて、より個々の「夢」を持つことが重要になる。DX推進者は、「自分の夢」を共に語り合い、周りの人/組織/会社と共感し、共創することでプロセスイノベーションを起こすことで、DXがうまくいく。DXプロジェクトを進めていく中で、「起承転結人材モデル」を参考にして、各場面で「やり方/必要な力」を意識することで、DXプロジェクトを成功に導けると信じている。皆さんも、やるき100%で夢を実現させてみませんか?私も共感/共創する!
 本講演のゴール:「起承転結」マインドをもって、DXを推進すればうまくいく!

4. 感想
 DX推進に有益な「起承転結」人材モデルについて、やるき100%の熱い思いを持って詳しく説明いただき、DX推進を自分事としっかりとらえることができた。特に、起承転結モデルは、人材のモデルにとどまらず、この世の中において、時間や工程など複数の起承転結サブシステムのスパイラル的な集合体のモデルであるとも感じた。夢を持ち、周りと共創することでVUCAの時代を乗り越えていけると確信した。

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