P2Mクラブ
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DX時代に期待されるPMプロフェッショナル
~DXを先導し、組織の変革を支援する実践アプローチ~

株式会社ピーエム・アラインメント 佐藤 義男 : 1月号

 12月の「P2Mクラブ」には16名が参加し、講演後の質疑応答も活発でした。
以下にその講演内容を紹介します。

1.要旨
 企業のDX推進は、プログラム&プロジェクトによって実行されます。このため、DX時代はPMプロフェッショナル(プログラム&プロジェクト・マネジャー)に期待される役割が変化しています。PMプロフェッショナルがDXを先導するためにはイノベーション創出を支え、さらに従来に加えて社会課題の解決を通じて組織の変革を支援するためのスキルを発揮すべきです。
 本講演では、DX推進を先導し成功するための実践アプローチとして、次の内容を解説しました。
  1. (1) DX成功の3つの鍵
  2. (2) DX時代のPMプロフェッショナルの対応
  3. (3) イノベーション創出のためのチェンジ・メーカーとなれ
  4. (4) 迅速型プロジェクトの対応が急務
  5. (5) 企業の社会課題の解決に対応
  6. (6) 組織の目的を具現化する戦略的アプローチ
  7. (7) まとめ

2. DX成功の3つの鍵
 DX成功の鍵は次の3つです。
  1. (1)本質の理解
    IT業界の方は先進デジタル技術に目が行きがちだが、先進デジタル技術が先ではなく、実現の鍵はビジネス変革(ビジネスモデル変革とともに、組織を変革し、競争上の優位性を確立する)です。
  2. (2)組織アジリティ向上
    組織アジリティとは、DX推進に重要な組織文化・風土への取り組みです。「デジタルの取り組みに関する調査」(JUAS)によれば、DX推進に重要な組織文化・風土で特に重要な取り組みを聞いたところ、5割以上の企業が以下の4点を挙げている。しかし、DX推進に必要な組織文化・風土で重要な取り組みを達成している企業は多くない。特に、「迅速な意思決定、柔軟な実行」の達成割合は、4.4%です。これは日本の経営トップのリーダーシップが発揮されていないことを示しています。
    「デジタルの取り組みに関する調査」(JUAS)
    このため、経営トップのリーダーシップ、全社横断での取組みが有効です。また、このビジネス環境の変化に迅速に対応する手法が、アジャイル型開発アプローチです。
  3. (3)DX先導できる人材育成
    DX時代では、AIなど先進デジタル技術の普及や自動化の進展で、人間の仕事が失われる(技術的失業)と言われています。またDX推進における課題が、「DXを進めるための人材が不足」です。DX成功の鍵は人材にある、と言えます。このため、企業変革の意識付け、企業風土や推進リーダーを育てるため、全社のマインドセット(挑戦を促し失敗から学ぶプロセスを迅速に実行し、継続できる仕組み)を構築する必要があります。さらに企業はリスキリング(新スキルの獲得)の取り組みで、先進デジタル技術や関連技術に通じた人材を増やすべきです。

3.  DX時代のPMプロフェッショナルの対応
 では、PMプロフェッショナルはどう対応すべきでしょうか?
  1. (1)PMプロフェッショナルは、ビジネス・イノベーションやアジャイル開発等のマルチスキルに対応すべきです。また、対応できなければ、DX時代を生き抜けない。
  2. (2)DX時代のPMプロフェッショナルはDXを先導し、組織の変革を支援する責務がある。
    DX時代はプログラム&プロジェクト・マネジャーに期待される役割が変化している。従来はライン・マネジャーが「自社の投資の方向を確認」し、プロジェクト・マネジャーと「自社の投資の最適状態を確認」する。しかしDX時代は、「正解がない」という今まで経験したことの無いプロジェクトに取り組むために、このビジネス変革への対応が急務です。
  3. (3)PMプロフェッショナルは、2つの領域(新商品・サービスの創出と業務プロセスの改革・自動化)に貢献すべきです。

 さて、次からはDX推進を成功するために必要な4つの提言をします。

4.イノベーション創出のためのチェンジ・メーカーとなれ
 チェンジ・メーカーとは変化に適応し、変化を創り出すこと、です。
  1. (1)「変化に適応」とは
    新事業を実現する適応型マネジメント・アプローチ(ビジネス環境や技術の変化に柔軟に対応するアジャイル・プロジェクトマネジメント)をする。また、DX時代は変化に適応する組織アジリティが求められており、PMプロフェッショナルは、組織の変革を支援する責務がある。
  2. (2)「変化を創り出す」とは
    多様性や新たな価値観を取り入れ、価値創造にチャレンジできる(多様性はイノベーションの触媒だ)ことです。また、新技術活用の目利きになって新たな市場への進出、社会ビジネスも視野に入れた新たな市場/ビジネスが創造できる。さらに、課題に対応して解決のアイデアを創出し、プロジェクトを立上げ、ビジネス・イノベーションで新たな価値を創造する人である。

4.1 ビジネス・イノベーションへの対応
 今、ビジネス・イノベーション創出を支える「ビジネス・プロデューサー」(PMAJのビジネス・イノベーションSIGで定義)が期待されています。このため、次の対応が必要です。
  1. (1)革新的発想法(デザイン思考やデック思考)で競合他社、顧客でさえ気づかなかった「アイデア」を提示する。
  2. (2)個人が自律的に行動するチームにより、価値観(個人)の違いや共同作業を知ることで共感し、協調する自律・協調型の組織が必須。この効果的なチームを作るには、メンバーが目的や価値観を共有するためのリーダーシップが必要です。

    図は、プロジェクトを創り、成功するフレームワーク例(ビジネス・イノベーション実現に適用できる手法)を示しています。
  1. ① 課題抽出し、解決のアイデアを創出
    デザイン思考のイノベーションプロセスは、仮説からスタートし、調査-分析-統合-実現化を回す。人間中心アプローチで課題抽出し、解決のアイデアを創出する。
    デック思考は、自由発想(認識、仮説設定、発想、アイデア選択)です。
  2. ② アジャイル型開発はビジネス・イノベーションを促進する
    特に、超上流でのデザイン思考とアジャイル型開発の融合は重要です。「デザイン思考」でユーザーの課題を抽出し、解決のアイデアを創出する。アジャイル開発で、プロトタイプとして構築・実証する。
  3. ③ ビジネス・イノベーション実現を支えるプログラムマネジメント(P2M)
    超上流から保守運用までの全ライフサイクルを支援するのが、プログラムマネジメントです。また、P2Mのミッションプロファイリング(プログラムの初期過程で現状の複雑現象から洞察力によって見抜いた問題をミッションとして明確にする)の課題発見型の方法論として「デザイン思考」を活用することを薦めます。

ビジネス・イノベーション実現を支えるプログラムマネジメント(P2M)

5.迅速型プロジェクトの対応が急務
 DX推進では、迅速型プロジェクト(スピード重視のアジャイル型開発アプローチ)対応が急務です。
 アジャイル型開発を担うスクラムマスターは、ファシリテーター的役割を発揮し、自律したチームを支援します。スクラムマスターによりプロジェクト・マネジャーの役割は、「指揮命令型」から「自律・協調型」となります。さらに、アジャイル型開発は、従来型開発とは組織文化が違う。このため、失敗を恐れない環境づくりを実現すべきです。
 図は、アジャイル開発の体制と3つの役割の例を示します。
  1. ① プロダクトオーナー
    何を開発するか決める。
  2. ② スクラムマスター
    スクラムプロセスを上手く回し生産性を高める責任を持つ。
  3. ③ 開発チーム
    実際に開発業務に携わるメンバー。

アジャイル開発の体制と3つの役割の例

6.企業の社会課題の解決に対応
 今、企業はSDGs(持続可能な開発目標)をやらないと生き残れない、と言われています。政府は「SDGsアクションプラン2021」を推し進めるが、SDGsをコストとみる企業もあります。しかし、ビジネス・イノベーションを通じて持続的な経済成長と社会課題解決を目指すビジネス機会であり、企業はSDGsを活用すべきです。SDGs達成に、プログラム&プロジェクトマネジメントは欠かせないのです。このため、PMプロフェッショナルは対応すべきです。
 ここではSDGs17の目標のうち、SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」実現のアプローチ(例)を紹介します。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)まとめた世界の1.5度以内に抑える方策と実現アプローチ例は次の通りです。
  1. (1)再生可能あるいは二酸化炭素回収・貯留付きの化石燃料などによる二酸化炭素削減が必要。
  • UAEの最大石油会社ADNOCは、水素など再生可能エネルギー製造プロジェクトに取り組んでいる。7月に、「Japan’s Strategic towards Carbon Neutral Society(カーボンニュートラル社会の実現に向けた日本の戦略)」を学びにインターンシップとして2名が来日し、私は研修「KAIZEN and Management to survive the DX age」を担当し、トヨタ生産方式(TPS)の基本的な考え方と展開、全てのムダの「ゼロ化」を目指すための「改善活動」、そしてTPSを基本としたアジャイル開発とマネジメントについて解説しました。
  • 日揮は、米国などでLNGプラント拡張工事を受注しました。二酸化炭素削減は日本のエンジニアリング会社や製造業の企業にはチャンスでもあります。
  1. (2)低排出電力を動力源とする電気自動車は、陸上輸送について最大の脱炭素ポテンシャルを提供しうる。
  • トヨタは、EV生産拡大に舵を切った(EVの世界販売台数を2030年に350万台)。
  • ENEOSがEV充電網の整備を進める、と発表。

7.組織の目的を具現化する戦略的アプローチ
 ここでは、プログラムマネジメントの対応を説明します。DX時代は、先進デジタル技術を活用した企業変革やビジネス・イノベーションを推進する高度なシステム構築と全体を支えるプログラム&プロジェクトマネジメント力が一層求められています。このため、次の対応が必要です。
  1. (1)全ライフサイクルを支援し、価値創造を実現
    ビジネス・イノベーション実現を支える(超上流から保守・運用までが対象)。
  2. (2)DX推進への対応
    DX時代は変化に適応する組織アジリティが求められており、PMプロフェッショナルは、組織の変革を支援する責務があります。また、ビジネスのスピードや「使いやすさ」重視のシステム化(アジャイル型開発プロジェクト)が欠かせません。

    図は、DX推進を先導する人材の例として、先進デジタル技術やプログラム&プロジェクトマネジメントの関係を示しています。PMプロフェッショナルは、次のことが先導する上で拠り所です。
  1. ① ビジネス・イノベーションやデジタル変革の先導
  2. ② テクノロジー活用のための先進デジタル技術の理解(IoT、AI、ビックデータ、RPA、クラウド、等)
  3. ③ アジャイル型開発はビジネス・イノベーション実現の手段。
  4. ④ ビジネス・イノベーションにリーダーシップは必須
    従来のビジョンや進む方向を示すだけのリーダーシップは通用しない。新しいリーダーシップが必要です。
  5. ⑤ 全体を支えて組織の目的(ベネフィット)を具現化するプログラム&プロジェクトマネジメント(P2M)が欠かせない。

先進デジタル技術やプログラム&プロジェクトマネジメントの関係

 次に、PMプロフェッショナルが貢献すべきDX推進の領域として、「新商品・サービスの創出」のプロジェクト例を紹介します。
  1. (1)航空機エンジン向けIoT運用支援サービス
    本DX推進の目的は、事業部で本質的に解決したい課題を捉えて、事業部の新しい商品・サービスを創出する、ことです。
    従来の整備・再運航は、「航空機整備管理システム」にて3500時間飛行後にエンジン整備・点検(JALは成田空港の整備場、ANAはIHI社が担当)し、再運航していました。現在は、本サービスにて飛行中の航空機エンジンの稼働データを分析して、最適なタイミングで最適な整備を実施しています。これで、航空会社(ANA)の整備の効率を高め、同時に安全運航に貢献しているのです。
    IHI社はビジネスモデル変革が評価され、「DX銘柄2022」に選定されました。
    共通プラットフォーム“ILIPS”を利用したエンジントレンドモニタリング
  2. (2)リーンスタートアップ・アジャイル手法を用いた機関投資家向けETF取引プラットフォーム
    これは、東京証券取引所のリーンスタートアップ・アジャイル手法を用いて新サービスを創出した例です。東京証券取引所にとっては未知の顧客であり、要件も分からない未知の領域へのプロジェクトです。
    まず、ETFビジネス開始に際し、課題を発見したのです(これまでの取引に無かった、海外投資へも展開する)。本プロジェクトの特徴は、次の通りです。
  • 目的
    日本金融機関のETF(上場投資信託)取引慣行のデジタル化を促進・実現。
  • 新規性
    二社一体(東京証券取引所と富士通)のチーム組成による、リーンスタートアップ・アジャイル手法を用いて新サービスの創出。
  • 新規事業への繰り返し型モデル(顧客発見・顧客検証)の適用
    「なぜ作るか?何を作るか?」が主眼のリーンスタートアップに対して、「どう作るか」という新製品・サービスの構築面に際してはアジャイル開発を、顧客体験を「どう作るか?」に際してはデザイン思考の手法を組み合わせて実践した。
  • 貢献度
    100社以上の金融機関の参加を果たし、ETF売買に関するDXに寄与した。
    機関投資家向けETF取引プラットフォーム

8.まとめ
  1. (1)DX時代のPMプロフェッショナルはチェンジ・メーカーになるべきだ。
  2. (2)プロジェクト・マネジャーは変更をマネジメントし、プログラム・マネジャーは変更を先導すべきだ。
  3. (3)DX推進と価値創造の実現アプローチとして、全体を支えて組織の目的を具現化するプログラムマネジメント(P2M)が欠かせない。

 最後に、PMプロフェッショナルの皆さんがDX推進を先導し成功を支援する期待に応えるための参考になれば幸いです。

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