PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (147) (リスクマネジメントと失敗の構図)

向後 忠明 [プロフィール] :1月号

 前月号でプロジェクトライフサイクルとリスクの各段階の関係を図に示しましたが、それぞれの段階のリスク事象への対処も異なり、そのインパクト(リスク発生による損害額)は異なってくると説明しました。
 ここで、各段階においてのリスク事象への対応の失敗とその原因との関係について話をします。
 プロジェクトの失敗には主に下記に示すような原因があります。

  1. ① 提案・受注時での要因
    プロジェクト受注時のリスク判断が最重要である。
    失敗プロジェクトの多くはこの時点での検討不足に起因することが多くそれも危機的な問題発生の原因ともなる。
    すなわち、曖昧な顧客要件に対する状況分析(すでに課題解決におけるKT法で説明)も怠り及び関連する問題分析の怠りからくる問題提起も曖昧に終わり、受注交渉の際には顧客の言いなりに契約し、リスクを次のフェーズに持ち越す場合である。
  2. ② 社内体制及びプロジェクト計画不備による要因
    プロジェクトを取り巻く環境及び要求に対応する制約条件を考慮しない計画はロードマップの無い険しい道を支援なしに進むと同じである。
    この結果は時間と金の無駄使いであり、疲労するだけでよい結果は得られない。
    経営者または管理者の無理解、教育体制の不備、人材教育不足、手順の整備不足などがその原因に挙げられる。
  3. ③ リスクマネジメント能力不足による要因
    プロジェクトプロセスにおけるリスク要素を体系的に認識したうえで、実際のプロジェクトの場でポイントを抑え、何が原因となっているか、その原因の元は何かを探り、適切な対応策をとる必要がある。
    すなわち、人によってリスクの見方がまちまちであるが、自身の能力または経験で解決できる事象であればそれはリスクとならないが、そうでない場合にはリスクとなります。
    そのためにリスクマネジメントに関する知識、リスク対応策に関する知識そしてリスク情報や先輩の意見が必要となります。この項はSWOTが重要なツールとなります。

 それでは本題のリスクマネジメントとは :
  1. ① プロジェクトに起こると予想されるどの事象が、リスクとしてそのプロジェクト業務のどこに影響を与えるかを特定する。
    すなわち、PJ特性とそれを取り巻く状況を考慮し、自社・自分の経験の有無、技術、人材、協力会社の特性等々を考慮し、過去のデータベースやベテランの意見を聞きながらその特定を行う作業です。
  2. ② リスクがどの程度の確率で起こり得るか、そして、どの程度の影響力を持つかを評価・定量化し、問題事項はプロジェクト初期で特定し、リスク分析の結果、契約条件、保険そのほかの対応策により定性的な提示を行い、定量的な指標があれば契約金額などで示す。
  3. ③ その対応策を策定し、それには「予防対策」と「発生時対策」がある。予防対策の基本は契約書またはPJ計画書にて対処する。発生時対策は予防対策漏れか突発事項のどちらかであり、いわゆるコンテンジェンシーを意味する。コンテンジェンシーの測定は非常に難しく、会社における経験値やトップ判断により、ポリティカルに決定することになると考えられる。
  4. ④ プロジェクト実行期間中にそのリスクのポジションがどのように変化するかを常に見て対応する。この場合、リスクポジションの変化は顕在化したリスクであるので、問題は潜在しているリスクをどのように見るかが問題となる。
    要するに、リスク源やリスク事象がどのようにプロジェクト業務の中でどこに影響を与えるかを特定し、その対応策を文書化することが必要ということです。

 すなわち、“あるべき姿と実際の姿”との間にギャップが発生するような可能性がある場合、例えば「起こりそうなまずいこと」「不安なこと」「心配なこと」と思ったらプロジェクトを取り巻く状況や要求を分析し、リスクとして取り上げることです。この時はできうる限りプロジェクト関係者の知識や経験または各種データを利用して関係事項をリストアップしていくことが必要です。すなわち、
1) 基礎情報
  1. ① プロジェクト記録(過去の類似プロジェクトにおけるトラブルをまとめたもの)
  2. ② 個人ノウハウ(類似プロジェクトでの経験者の意見)
  3. ③ リスク集(プロジェクトにてのトラブル及びその是正(対応例)をまとめたリスト
  4. ④ 使命(ミッション)または顧客要件(RFP)に求められる真の要件に関するゼロベース思考による発想。
    (Note : RFP Request For Proposal 顧客の要件定義や条件を詳細に示した書類)

2) 分類
 リスク(事象)の特定が出来たら、その事象の除去すべきリ真のリスク原因を想定・列挙し、対応策を評価・分析し、改善処置(対応策)を示す。(リスク対応策はその影響度により、例えば①深刻(H)②中程度(M)③軽度(L)などに分けておくと良い) リスクの特定とは基礎情報を基にプロジェクトの今ある現状を分析し、プロジェクトで直面する問題の所在を抑え、課題を明確にすることである。すなわち問題の具体的な「課題化」により「何をどう分析し、どこから手をつけるか」を理解しなければならない。
 リスクの特定はプロジェクトを取り巻く環境及び自社の強みや弱みを考えたSWOT分析によってリスク事象の判断をすることも方法の一つである。そして、その結果を上記2)に従い、分類し対応策を示す。
 以降、リスク事象の特定そしてその対応策についての話をしていきます。この手法はすでにゼネラルなプロ136から143にて説明のMT法に従って整理していきます。
 1) リスク事象の特定
プロジェクトの特性及び各種条件と基礎情報から関心事の列挙を行い、対象及び内容により、分離・統合し、関心事の課題化(ステートメント化)を行う。
リスク事象の特定

3) リスクの対応策
 対応策とは予測される不慮の事態や「心配事」 をどのように事前の対策に結び付け、それらの影響を最小限にするかの手を打つことである。
そのためには
  1. ① 状況分析の結果得られたステートメント(リスクの特定)の範囲を大きくとって対極的に分析するか、範囲を絞って具体的、詳細な分析をするかを決める。
  2. ② 次に「問題が発生しそうな危ないところ」を内的要員及び外的要因の双方のポイントから確認し、集中的、重点的に検討する。
    そこで抽出された問題事項を「発生確率(P)」「おきた場合の影響(S)」を評価する。

リスクの対応策

次回、2月号では「原因の想定と予防措置」に入ります。
皆々様、良い正月をお過ごしください。

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