PMシンポ便りコーナー
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梅山光広教授に聞く
PMシンポジウム2022特別講演者インタビュー

PMAJ副理事長 佐藤 義男 : 7月号

PMシンポジウム2022 Day2の特別講演「ものづくりの進化で示す日本の強さで未来の暮らしをビジョンする~SDGs未来都市の地域創生と研究開発~」を予定されている石巻専修大学理工学部教授 梅山光広様に佐藤がお話を伺いました。

梅山教授のご経歴は以下のとおりです。
トヨタ自動車では、各種ハイブリッド車、燃料電池車などの研究開発と製品化を担当。
技術統括時代に、CO2低減環境シナリオ、街つくりのコンセプトを検討。
その後、AIを活用したパワートレーン開発手法の研究に従事。
石巻専修大学に転籍後は、SDGsに基づく街つくり、再生エネルギー活用の小型自動モビリティを研究中。

佐藤: トヨタ自動車で新事業を経験して得た「匠の技と新しい価値との融合を、データサイエンスを駆使して探求しようとする人たちが日本の未来を創る」提言は、心に響きます。どのようなモノづくりを経験したのですか?

梅山: トヨタのものづくりは、設計開発から生産まで、関わる全ての人たちが、良いものを作るために工夫を重ねる毎日であり、できた製品は、いわゆる「匠の技」の賜物です。開発現場では、もしものことが起きたら車は安全に動くかを徹底的に考えて設計し、生産現場では、一つ一つの部品の出来は十分かをさり気なく手を触れて確認するといった具合です。
このような品質をこれからも残していくには、「謙虚に学ぶ姿勢」と「進化しつつあるデータサイエンス・AIとの融合」が欠かせないと思っています。
開発を進める中では理屈では説明できないことも多く、そのようなときにはデータを納得いくまで数多く取りながら性能と品質の確認と設計への反映を行っています。
そのような開発の一つに排気ガスの浄化があります。数多くのデータから最適なエンジン制御パラメータを決めて製品に織り込むのですが、ここに機械学習を適用した研究を仲間と共に完成させました。
データから生成したエンジン燃焼・排気ガスモデルを使い、それまで膨大なデータ検証を繰り返していた作業を飛び越えて排気浄化システムとエンジン燃焼制御をベストマッチさせることに成功しました。
このような進化は、ものづくりの匠の技がまずあって、データサイエンスと融合したからこそ成り立った、日本の強さだと思っています。
これからも日本の匠の技はAIという道具との融合のもとに進化し続けると確信しています。謙虚に学びながらものづくりを積み上げてきたからこその未来が間近に迫っていると感じます。
現在は、自分の趣味であるランニングにも取り組んでいます。簡単なセンサーでランニングシューズからきめ細かいデータを膨大に吸い上げ、自分のベストな走りをAIのモデルとし、ランニング中に走り方をアドバイスしてくれるシステムです。これからも爽やかにランニング記録を伸ばしたいですからね。

佐藤: SDGsに基づく街つくりなど、社会課題の解決に取り組むきっかけになったことは、何ですか?

梅山: トヨタ時代に、クルマは「世のため人のため」との考えで、当時の社長、副社長と共に「人にやさしい街を考えつつクルマの未来を考えよう」という議論がありまして、自分なりに考えてみたのがきっかけです。そのころ道路を眺めると、赤いランドセルを背負って通学する女の子の横をスピードを出して走っていく大型のトラックを見かけ、これでは安心できないと感じました。街中をクルマがスピードを出して横切っていく構造はそもそも違うのではないかと思いました。人優先の区域を作るべきであり、クルマは速く走れるのだから迂回すればいいじゃないかとの考えです。
日本はずいぶんクルマ社会になり、街の形も変わってしまいました。かつてお城やお寺を中心に人が集まって賑わった日本のまちをいろいろ調べてみて愕然としました。そこで自分なりのアイディアで、人が歩いて出合いながら、時には小さな電動モビリティで移動するような人優先のエリヤを描いてみました。検証の手段はなかったので、当時あったシムシティというゲームソフトで試したりして考えを作って各方面に提案していました。当時は街を変えるなんて無理だといって誰からも取り合ってもらえなかったのですが、意外に早くその時が来たという感じです。
もう少し先には、循環経済を完成させて困る人をなくし、みんなで切磋琢磨してアイディアを出し合って未来を作っていくまちづくりをしたいと考えています。

佐藤: 今回の講演の思いを聞かせて下さい。

梅山: 日本の文化には世界にはない、人にやさしくまじめで謙虚に物事を見つめているからこそできていることがいっぱいあります。
世界が憧れるのは当然と思います。しかしながら今の日本はそれらの良さを忘れてしまい、自信を失って臆病に見えます。
昭和の延長や世界の動向にとらわれることなく、困難な時代ではありますが日本文化に自信をもって世界から頼られる存在としての活躍が期待されていると感じます。
苦労することもあるでしょうが、それも生きがいになるのではないでしょうか。そして次の世代に残していくものは何かをみんなで考える時が来ていると思います。

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