理事長コーナー
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PBLのすすめ

PMAJ 理事長 加藤 亨 [プロフィール] :2月号

 今、教育の現場で、「プロジェクト」が注目を浴びていることをご存知でしょうか。
 それは、学生が事業としてプロジェクトを実施するという意味ではなく、カリキュラムの中で、自らテーマを設定し、計画を立て、実践し、成果を取りまとめて報告、発表を行うという、プロジェクトの疑似体験を通して能動的に学ぶというPBL(Project-Based Learning)という取り組みが注目を集めているという意味です。
 先日、私は「enPiTシンポジウム」という会議に参加する機会を得ました。enPiT とは、Education Network for Practical Information Technologiesの略称で、2012年度から文部科学省が支援している教育プロジェクトだそうです。
 その特徴は、「実践的な」情報技術の教育プログラムであり、そこで活用されているのが、先ほど紹介した、PBLという事になります。
 enPiTシンポジウムでは、各研究分野でPBLを実践した報告がなされ、その中で参加した学生のインタビューなどが、ビデオ映像で流されていました。印象的だったのは、多くの学生が「参加して良かった」と破顔の笑顔で話している姿であり、PBLの効果を実感することが出来ました。その結果、参加する学生の数が目標をはるかに超えて右肩上がりで増加しているとのことでした。2020年度で文科省の支援が終了するそうですが、このような成果を受けて、PBLのカリキュラムを継続する大学が多いと聞いています。
 実は私は、PBLという意識は無かったのですが、20年以上も同様の活動にかかわった経験があります。
 1990年代後半のある日、当時付き合いのあったA社の営業のSさんが、「加藤さん、こんな研究会があるけど参加してみませんか。」と持ってきたのは「ソリューション研究会」というチラシ。それは、研究会の参加者が10人程度のグループに分かれて、新しい情報技術などについて、自分たちの研究テーマを設定し、1年間をかけて報告書をまとめ上げ、発表を行い、優秀なグループが表彰されるという研究会でした。
 異業種交流会的な要素もあり、新しもの好きの私はすぐに飛びつき、以来20年以上にわたっていて、最初は研究会のメンバーとして、途中からはアドバイザーや幹事役として関わってきました。幹事役としてその研究会で挨拶をする機会も多かったのですが、その際に話していたのは、「研究会の魅力は、一年間を通して目的を達成する充実感を味わえること、他社の人々と一年の活動を通して一生を通した仲間になれること、自分の実力を客観的に知りその後の成長への方向性を知ることが出来ること。」という内容でした。
 そして、それと同じことを、enPiTシンポジウムに参加した多くの学生が、笑顔で語っていました。
 日本は戦後の高度成長期に、品質の良い製品を正確に早く安く大量に生産することで発展を遂げてきましたが、そのために産業構造をはじめ、様々な組織構造が縦割り横割りに機能分化され、狭い技術領域に特化し、内部にクローズした専門技術・専門技術者を育成する文化が形成されてしまったと感じています。
 一方で、現在の技術革新、ビジネス改革はあらゆる領域を超えて、縦横無尽に組み合わされた技術や協力関係によって、革命的な変化を引き起こす方向に変わってきています。このような環境では、クローズした領域の中で解答を出すような方法論は通じず、自ら考え、仮説を立て、外部の技術や技術者を巻き込んだ実践を繰り返して目的を達成していくことが出来る人材が求められています。
 このニーズに応えるため、日本政府も様々な形で、教育の現場でこのBPLの導入を推奨し、定着させようとしており、enPiTもその表れと言えます。
 ところで、このような取り組みは、教育の現場だけで良いのでしょうか。先ほど紹介したA社のソリューション研究会の参加者は、産業界の若い方々が中心ですが、彼らが発表会で見せる充実感にあふれた笑顔は、産業界においてもこのような取り組みが必要であることを如実に語っているように思います。
 PMAJとしては、教育界、産業界を問わず、今後ともこのような取り組みを支援し、その輪を大きく広げていきたいと考えています。
 先月、このコーナーで、「PMAJをプロジェクトマネジメントのテーマパークにする。」と書きましたが、PBLというテーマも、その中のメインの活動として取り組んで行きたいと思います。興味のある方、企業の方々、ぜひ、一緒にやりましょう。

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