例会部会
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「第230回例会」報告

PMAJ例会部会 原 宣男 [プロフィール] :3月号

【データ】
開催日: 2018年1月26日(金) 19:00~20:30
テーマ: 「プロジェクトのKFSはコミュニケーション」
 ~おもてなし講習で実践したコミュニケーション手法の紹介~
講師: 倉地 重夫 氏/SNKコンサルティング 代表
講師略歴及び講演概要:  
   こちら のリンク先の例会案内をご覧ください。

【はじめに】
 2013年の東京オリンピック招致で世界に紹介されて以来、色々なところで使われている言葉「おもてなし」ですが、伊東市では観光客の減少に歯止めをかけるべく2011年に「おもてな師マイスター制度」を設け、観光ガイドの養成に力を入れてきました。講師はP2Mの知識を生かして、この制度の再設計や講習に携わってきており、今回はその講習の内容について、P2Mコミュニケーションマネジメントに絡めて説明頂きました。以下にその概要を紹介します。尚、当講演にはマナー教育の第一人者である岩下宣子氏も同席され、講演途中でご挨拶頂きましたことを付記致します。

【講演概要】
 以前働いていた会社では、私は入社時にはエンジニアであったが、米国から帰国後はアライアンスビジネスに従事、その際、PMAJの前身と関わりP2Mの手法を活用した。その後、顧客サポートや品質監査などを行い、定年退職してコンサルティング会社を立ち上げ、伊東市に流れついた。伊東市は市全体の「おもてなし力(人間力、専門力、ガイド力)」の向上を目的とした「伊東温泉おもてな師マイスター制度」を平成23年(2011年)に創設した。翌年、その講習会に参加したところ、その内容がまだきちんと体系だっていないものであった為、これは自分でやるしかないと、P2Mのノウハウを加えて制度の再設計などを行った。

 「おもてなし」とは、お客様の「不安、迷い、気分」を、「気配り、目配り、心配り」をもって「安心、決心、満足」に変えるものである。
 例えば、伊東駅に初めて降り立った観光客がいたら、お客様の迷いを察知し、笑顔で話しかけて、何気ない会話で潜在するウォンツを探り、その人のウォンツに合った観光地(城ケ崎の吊橋など)を紹介する。特にいちばんその人に合った行き方を教え、何が見どころで何が面白いか、帰りはどうしたらよいか等、お客様が安心して楽しんでもらえるようアドバイスするのである。
 実は「おもてなし」をしている人は、相手のウォンツに共感し、最高のパフォーマンスで感動的に応えることで、ファン(リピータ、フォロワー)を作っているのである。

 「おもてなし」と「マナー」の違いは何か。「マナー」は「作法・礼儀」で、相手に不快感を与えないことが目的で、実行できないと恥をかくが、「おもてなし」は「心」で、相手に感動を与えるものであり、できなくてもリスクは無い。
 感動は、対価を求められずに期待以上のものが得られた際、記憶に残るものである。この記憶に残すことが重要である。

 「おもてなし」のステップはP2Mのコミュニケーションマネジメントに類似している。例えば、Communication skills & stylesでは、①真摯に誠意をもって聴く姿勢、②話しやすい場で話して、会話を遮ったりしない、③自分の固定概念や感情で判断しない、④内容に対する質問をする、⑤結論を急がない、⑥会話では名前を呼び、聞くときは視線を離さずに、と述べているが、これはまさに「おもてなし」の姿勢である。

 コミュニケーションのステップでは、相手が思っている事、望んでいる事を知る必要があり、相手との会話の中で、Ⅰ.要求の探索、Ⅱ.反応の確認、Ⅲ.要求の分析、Ⅳ.対応策の提案、Ⅴ.選択と方針決定という順番で、相手の行きたい所、見たい所、したい事の情報を得て、相手にアドバイスを与えるのだが、相手との間で情報ギャップ(知覚ギャップ、解釈ギャップ、評価ギャップ)をどう埋めるかが重要である。「おもてなし」も同様である。
 そこでコミュニケーションの手法をもとに、おもてなしのステップを整理してみた。
 (以下、詳細は割愛します。)
Ⅰ. 「要求の探索」ステップ
  事前準備
  →前始末:自分を知ろう、お客様を知ろう、○○だろうというお客様の先を行く初対面の第一印象
  →心豊かに:お出迎えの準備、人もモノもピカピカに磨く、感動の出会いへ
Ⅱ. 「反応の確認」ステップ
  潜在ウォンツの顕在化、コミュニケーションは五感で
  →聴き上手:話しやすい雰囲気で、お客に合わせて聴く、お客様の喜ぶ会話を
Ⅲ. 「要求の分析」ステップ
  一歩先まで深読み、「Yes」と「No」の間も読む、言語以外(表情、視線、時間)の反応
  →共感と提案:プロとしての提案、お客様が選択しやすい提案、感動的な+α提案
Ⅳ. 「対応策の絞込と提案」ステップ
  イメージを持たせる、二者択一で絞込み、サプライズ
  →プレゼン:お客様の言葉でイメージの世界に、臨場感を持って“わくわく”と、お客様の要望の合致度の確認
Ⅴ. 「選択と行動方針の決定」ステップ
  お客様が主役、決定に共感、賛同
  →決定:感性のアンテナを鋭く、不安をなくそう、決定したお客様は待たせない

 お客様が何が欲しいかを見つけることは非常に重要である。
 新幹線販売員の茂木さんは、何故売り上げ日本一になったのかというと、一般的に車内販売員は進行方向に向かう時はカートを押して進むのだが、彼女は進行方向に引いて進むのである。こうすることによって、お客様の顔が見れて、お客様のちょっとした仕草を見落とさず、お客様との何気ない会話で、お客様が欲しそうな商品を見つけてもらい、結果として売り上げを増やしているのである。短時間のコミュニケーションで「おもてなし」のステップを実行しているのである。

 「おもてな師マイスター」講習を受けた人に今までとどう変わったか聞いてみたところ、多くの回答が「クレームを受けるのがいやでなくなった。」とのこと。クレームを真摯に向き合って聞くことで、お客様の不満や潜在している要求を正しく捉えられて、それを解消すればファンが増えるからである。
 ファンになって頂くことが最高の「おもてなし」。プロジェクト運営もファンを作ることが大切である。

【所感】
 「おもてなし」については、色々な方々が講演されていますが、P2Mに絡めて説明されたのは本講師がはじめてと思います。気になってP2M(改訂3版)の「コミュニケーションマネジメント」を再読してみたのですが、講師が講演された版から多少改訂されているものの、確かに「おもてなし」の考え方に通じるものがありました。P2Mが机上の空論ではなく、実際に役立つマネジメント手法であるという良い例と思います。「おもてなし」のステップについて、たいへんわかりやすくご講演頂きました講師に感謝いたします。

【例会からのお知らせ】
 我々と共に部会運営メンバーとなるKP(キーパーソン)を募集しています。参加ご希望の方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。
以上

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