理事長コーナー
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イノベーションを起こす政策

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :1月号

 新年にあたり、皆様のご多幸と繁栄をお祈り申し上げます。今年もPMAJをご支援いただきますようお願い申し上げます。また、秋恒例のPMシンポジウムは今年で20回目を迎え、記念すべき大会とすべく企画中です。そのような年の初めに、P2Mの原点を振り返り、これからのプログラムとプロジェクトの方向を考えてみたい。

 P2Mの英文は、Program and Project Management for Enterprise Innovation である。イノベーションを起こすためのプログラムとプロジェクトの統合マネジメントだ。2001年にP2Mが世に出た頃、バブル崩壊後の日本は経済が停滞し、成長路線に乗れない焦燥の時代であった。その停滞感を克服するための一つ方法論として経産省の支援を得てP2Mはデビューした。企業価値の向上にはイノベーションが欠かせないというコンセプトだ。

 P2Mが誕生した頃、ITバブルが崩壊した米国では、産業界・学界・政府・労働界が連携して競争力向上に向けた活動を始めていた。そして、2004年12月に「イノベートアメリカ」が発表された。IBMのCEO、サミュエル・パルミサーノとジョージア工科大学の学長、ウエン・クロウが共同委員長となり、400名を超える各界リーダーに依り、15か月の検討の末、この提言書が公表された。日本の製造業に押され気味であった米国経済が再び技術重視の政策に転換するきっかけとなった。それだけでなく、「サービス・サイエンス」という無形資産の価値創造の重要性が初めて紹介された。その趣旨は、「米国の復活は、経済成長の実現であり、その原動力となるのがイノベーションである。それを実現させるためには、現状を理解し将来を描き、そのギャップを明確にした上で新しい戦略を立てることだ」。

 イノベーションを継続的に生むことでのみ経済成長を続けることが出来るとした米国は、提言された「人材、投資、インフラ」の三政策を実施した。勿論、この三項目とも直ぐに成果が出る政策ではない中長期の戦略だ。ITバブルが弾けたとは云え、インターネットなどのIT利用技術の発展が加速し、ビジネス環境が激変し始めた。その中では、たとえ巨大な予算をもった国家が特定の目標を政策化して強力に進めても、その目標は期待通りに達成されるとは限らない。達成されても早期に陳腐化すると云う。21世紀に入った米国経済の結果は、約2%の成長を続けている。他の先進国と比較し、適切な政策であったと云える。

 この「イノベートアメリカ」は、日本のイノベーション政策にも大きな影響を与えている。2005年の「イノベーション25」戦略から始まり、特に2013年以降は、成長戦略の一環として2016年の「科学技術イノベーション総合戦略2016」まで継続している。日本政府の成長戦略も、科学技術政策はイノベーションの推進政策と一体運営が基本とされ、毎年、「人材、投資、インフラ」に該当する項目が必ず含まれている。ちなみに、この政策の中には、「プログラムのマネジメント」や「プログラムマネジャの育成」の重要性が記載されており、この政策を支える研修にPMAJからも講師を派遣している。

 さて、政策の多くは、達成すべき目標を設定して、それを実現する予算を獲得し、翌期以降に実施する「目標指向型の政策立案」だ(坂村健「変われる国・日本へ」@アスキー新書)。しかし、時空間を超えるIT技術の急激な拡大により、ビジネス環境は急変し、これに冷戦後のグローバル化の進展が更に輪を掛け変化を加速している。この様な時代でも「目標指向型」の政策は効果的な成果を出せるか、疑問視され出している。これを克服し、変化に対応する「環境適応型」が必要だ。

 1990年代から米国で始まっているアジャイルプロジェクトマネジメントは、この環境適応型のIT開発方法論だ。「アジャイル開発」といわれ、小型で短期のプロジェクトを素早く廻すイメージだ。成果がすぐに見えるので、結果をみて修正を加え、環境の変化に追随する。その分、試行錯誤的要素も多分に含まれ難しい点もあるが、「適応すること」が焦点だ。現在は、主に「ITサービス」に適用されているが、徐々に「モノの分野」に広がる動きが出て来ている。新たな適用分野は、IT技術を組み込んだ、IoTやロボットへの利活用への挑戦だ。

 「適応」させるという動きは、プログラム・プロジェクトのマネジメントの方法論に影響すると思われる。PMAJでは、この変化を正確に把握し、将来のプロジェクトマネジメントの方法論の変動傾向を確認するために、2016年秋から「アジャイル開発」の研究を始めた。PMI® のPMBOK® 改訂6版では「アジャイル」が含まれている。また、次なるP2M改訂へも影響を与える可能性が高まっている。PMAJからは、まず、「アジャイル開発」の簡易な紹介書を今春出版することにした。興味ある無しに関わらず、是非、手に取り一読することをお勧めしたい。次なる、この世界の大きな変化を感じ取っていただくために。

以 上

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