アジャイルPMOの役割
企業内には多くのプロジェクトが存在するが、そのほとんどが企業価値創造のための事業活動である。従って企業は、個々のプロジェクトの成果を最大限に引き出し、投資効率を高めなければならない。こうしたことから、社内のすべてのプロジェクトを横断的に統合してマネジメントするための組織として、PMO (Project Management Office : プロジェクトマネジメントオフィス) が設置されていることが多く、アジャイルを全社的に導入する場合にも重要な役割を果たす。
ウォーターフォールが定着した企業が、アジャイルを導入するのは大変むずかしい。その理由をマイク・コーンが著書 (1) の中で述べているように、アジャイルとウォーターフォールは全く違う文化、導入されるアジャイルはウォーターフォールと共存する、組織と個人の変革へのコミットメントが必要、アジャイル導入に関係する部門が多い、継続的改善が要求されるなど、大きな課題がある。
全社的なアジャイル導入の進め方として、変革型リーダーシップで有名なジョン・コッターの 8 段階変革プロセス (危機感、変革推進チーム編成、変革ビジョン、ビジョン承知徹底、ビジョン導入支援、短期的成功、変革の継続、定着) を踏襲した方法 (2) が薦められる。セールフォースドットコム(3) やエリクソン(4) などで適用され、実績を上げている。この 8 段階変革プロセスの第2ステップで、専任の推進チームをつくって変革に取り組むことを推奨している。PMOが存在する企業においては、PMOの中に専任のアジャイル導入推進チーム (アジャイルPMO) を作って推進することが薦められる。企業内へのアジャイルの導入に際し以下のような課題に遭遇することがあるので、その解決のためアジャイルPMOの役割は重要である。
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顧客がアジャイルに消極的
原因は、顧客がアジャイルの顧客にとってのメリットや、顧客と開発者とが協調して開発することの意義を理解できないことにあると考えられる。そのため対応策としては、次のようなことを実施するとよい。
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顧客の現状の開発方法の課題を気づかせる |
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丸投げが必ずしも顧客にプラスでないことを気づかせる |
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顧客視点でのアジャイルの価値やメリットを啓発する |
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パイロットプロジェクト実施の提案をする |
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② |
経営者が消極的
経営者がアジャイルのメリットや価値観や原則を理解していなことが原因として考えられる。そのため対応策としては、次のようなことを実施するとよい。
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現状の方法の問題意識や危機感を経営者に喚起する |
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イノベーション実現ツールとしてのアジャイルのメリットや価値観や原則について啓発する |
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経営視点でのアジャイル導入課題を明確にして解決策を提示する |
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アジャイル導入ビジョンを作成し、承認を得る |
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③ |
組織の抵抗
アジャイルの導入は組織文化に変化をもたらすので、組織は当然抵抗を示す。そのため対応策としては、次のようなことを実施するとよい。
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イノベーション実現ツールとしてのアジャイルのメリットや価値観や原則について啓発する |
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アジャイル導入ビジョンを頻繁にコミュニケートして理解を得る |
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アジャイルに対する不安や疑問に丁寧に応える |
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最適なパイロットプロジェクトを選び、その成功を早期に実現する |
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アジャイル導入推進の状況を可能な限り公開して理解を得る |
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④ |
知識や経験の不足
組織のアジャイル関連知識や経験の不足から、なかなか成功に結び付かないケースがある。次のようなことを実施して組織を支援する。
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アジャイルプロジェクトチームに対するコーチング、メンタリング、トレーニング |
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アジャイルの原則、方法、手順、テンプレート、研修コースの開発 |
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成功事例の調査および情報共有の仕組み作り |
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以上
参考資料
(1) |
Mike Cohn, Succeeding with Agile, Addison Wesley, 2010 |
(2) |
竹腰重徳、変革型リーダーシップによるアジャイル導入、PM学会誌、Vol.16 No.1、ppt.25-26、2014 |
(3) |
Chris Fry & Steve Greene,Large Scale Agile Transformation in an On-Demand World,Salesforce.com,2007 |
(4) |
Brad Swanson,Transforming a culture using Kotter’s Change Model:A case study, Ericsson, How we learn to stop worrying and live with the uncertainties, Agile42, 2013 |
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