PMRクラブ
先号   次号

地方創生のバックボーンにP2Mを!
―埼玉県川越市での実践を通じ、地方自治体のあり方を考える―

川越市議会議員 PMRクラブ 近藤 芳宏 [プロフィール] :8月号

1. はじめに
 本年7月14日(火)、PMRクラブにおいて、話題提供させて頂いた内容から抜粋して、一部寄稿させて頂く。私の眼目は、地方自治体におけるP2Mの普及にある。川越市における実践事例から地方創生のバックボーンとしてP2Mが注目されるよう期待し、皆様の知見を頂きたい。
 私は、これまで 8 年間、埼玉県川越市において、ミッションプロファイリングの観点から、ミッション表現と関係性分析について、議員という立場から、取組んできたつもりである。今、9年目となりシナリオ展開のフェーズに入ってきたと考える。
 私が、川越市でこれまで進めてきたミッションを後押しするように、国は、昨年末から本年にかけて、まち・ひと・しごと創生として、「長期ビジョン」と「総合戦略」を発表し、地方自治体には、2015年度中に地方版総合戦略の策定が求められている。本稿では、その概要及び、川越市の自治体経営の現状の一端を紹介しながら、地方創生には、P2Mが求められていることを申し上げたい。

2. 国が発表した「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の概要
 政府は、昨年11月に成立した「まち・ひと・しごと創生法」に基づいて同12月に地方創生の実現へ「まち・ひと・しごと創生総合戦略」と長期ビジョンを閣議決定。50年後も 1 億人の人口を維持することや、人材の東京一極集中を改め、2020年までに地方で30万人の若者向け雇用を創出することなどを目標に掲げた。政府は、地方版総合戦略の策定に関して、産業界や行政、大学だけでなく、地域の実情をよく知る金融機関や労働団体、報道機関も加えて議論するよう後押ししており、現在、全国の自治体では、幅広い分野の人事を交えた活版な議論が始まっている。

地方への多様な支援と「切れ目」のない施策の展開

 全国の自治体に対しても「地方版総合戦略」を2015年度中に策定するよう求めているが、本年6月19日参院本会議で成立した地方創生関連 2 法では、各自治体が「地方版総合戦略」に盛り込む具体策への支援メニューを提示した。そして、同6月30日には、成長戦略、「骨太の方針」が決定され、財政健全化の具体的な道筋が示されると同時に「まち・ひと・しごと創生基本方針2015」が閣議決定された。地方創生を「深化」させるための政策パッケージが提示され今後の地方創生関連施策の方向性が明確になり、2016年度予算では、「新型交付金」の創設が明記されたが、以下イメージを示しておく。

「新型交付金」:従来の「縦割り事業」を超えた取組支援①

「新型交付金」:従来の「縦割り事業」を超えた取組支援②

「新型交付金」:従来の「縦割り事業」を超えた取組支援③

(例)移住促進事業における「隘路」を発見し、打開する取組

 地方の 3 つの力を引き出すことが最大のポイントであり、1つ目は、「稼ぐ力」で、低水準にある地方の労働生産性を高めるため、地域の観光・ブランド戦略の司令塔となる「日本版 DMO 」という新たな事業体制などを構築する。2つ目は、「地域の総合力」で、従来の「縦割り行政」を排した上で、官民連携、地域間連携などを進め、都市部から地方に移住する高齢者が生きがいをもって生活する拠点となる「日本版 CCRC 」などの整備である。3つ目は、「民の知見」で、公共施設の建設・運営を民間に委ねる PFI などの活用推進である。更に、「人材」に光を当てた取り組みをさらに推進することが必要であり、「地域おこし協力隊」や、自治体から地方版総合戦略の策定に関する相談を受ける「地方創生コンシェルジュ」など、国も地方創生を進める人材確保に力を入れている。しかしながら、最も大事なのは自治体や企業、各種団体をつなぎ、地域全体をコーディネートする人材であり、こうした人材を確保するために、新型交付金の活用が求められる。

3.埼玉県川越市における自治体経営の現状と「近藤よしひろ」の取組み
 現在、約35万人の人口を抱える中核市である川越市において、平成19年度から足掛け 9 年間、市議会議員として活動する中で、今回、国が示している地方創生の方向性に対して、理想 (あるべき姿) と現実 (ありのままの姿) のギャップを感じざるを得ないというのが、私の実感である。
 プロファイリングとは、ビジネス構想の初期過程で現状の複雑現象から洞察力によって見抜いた問題をミッションとして明確に規定するプロセスである。プロファイリングマネジメントは、「ありのままの姿」から洞察した全体使命の意図を多元的に解釈し、幅広い価値体系に表現し、「あるべき姿」を追求してミッションを実現可能なシナリオ形式にまで展開する実践力である。
 私は、川越市において、地方自治体でのP2Mの実践事例となるよう、これまで、取組んできたつもりである。市の最上位の計画として、総合計画 (10年) があるが、その中の基本計画 (5年) において、自治体経営としての戦略と財政裏付けがないことを指摘し、現在、その改善に向け動き出してきたが、まだまだ不十分である。更に、人事戦略や情報化戦略についても民間手法を導入すべきであることを訴えてきた。その私の拠り所となっているのが、まさにP2Mである。私は、これまでにプロファイリングの視点から地方自治体の「あるべき姿」を追求してきたが、シナリオ形式までの展開を、まさに国の地方創生が、後押ししてくれている。これからが、いよいよPMRとしての実践力が問われることになる。

今後5年間の財政収支の試算(一般会計)

 1 つには、図表で示した通り、川越市では (他市の状況でも、温度差はあるが)、今後5年間の財政収支 (一般会計) において、年間収支差額がマイナス34億円、あるいはマイナス46億円という試算がまかり通る現実である。何を意味するのか。そこには、歳入を如何に増やし、歳出を如何に削減するかなどの戦略がないということである。更に、これまでは PDCA も回していないというのが、議会質問を通じて明らかになった現実である。地方分権が進む中で、自治体経営という視点は存在せず、地方自治体は、国のひも付き補助金による事務官庁そのものであり、前掲の新型交付金の活用等により、事務官庁からいよいよ本気になって、政策官庁への脱皮を実現しなければならないと考える。
 2 つには、人事評価制度について、川越市では、平成17年度から試行し、平成20年度からは行政職員全員を対象としているが、人材育成が重視され、業績評価は賞与などの処遇に一部反映されてきたが、昇任・昇格には活用されてこなかったのが実態。これまでも、機会ある度に訴えてきたが、地方公務員法の一部改正によって、平成28年4月1日からは、昇任・昇格などに反映されることになる。そのことが職員の意識改革と人財活用に繋がることを期待したい。改訂3版P2M標準ガイドブックでは、第 6 部人材能力基盤として整理されている。
 3 つには、CIO が副市長の充て職になっており、情報化が戦略として機能していない。平成16年度に策定した川越市情報化基本計画の見直しが遅れており、ようやく本年度より、(仮称) 川越市 ICT 推進プランの策定が準備されている中で、年金漏えい等個人情報流出問題があり、方向性が定まっていないのが実情である。
 以上、戦略的な財政計画と PDCA、人財活用、情報戦略という 3 つの視点で指摘したが、そのような現状において、本年度には、地方版総合戦略の策定が求められており、これまでに私が提案などをしたシナリオが展開し始めた。今後とも、P2Mを活用した実践事例を問うていきたい。

4. 地方創生のバックボーンにP2Mを・・・・・
 改訂3版P2M標準ガイドブックには、光藤理事長がまえがきで記しているように、ビジネス分野ばかりでなく、行政系などのソサエティ分野でも適用可能な内容であることが大きな特徴となっている。P2Mは、横断的な領域である「横」の専門家を養成するための知識の集大成であるが、本稿で、多くを割いた2016年に創設される新型交付金は、地方自治体における縦割り行政の脱却、事務官庁から政策官庁への脱皮に繋がるものであり、地方創生に向けて、まさにP2Mが貢献することは間違いないと確信する。
 私は、今後とも、川越市におけるP2Mの実践を通じ、地方自治体のあり方を考える中で、行政分野におけるP2Mの普及に繋がることを期待する。

5.おわりに
 今回の内容は、極めて、不十分な点が多い点を反省し、今後に繋げたい。

ページトップに戻る