PMAJ Networking(会員交流会)
次号

無理しないで成功するプロジェクトマネジメント
~モダンプロジェクト管理 VS アジャイルプロジェクト管理~

NTTデータ先端技術(株) 竹久 友二 [プロフィール] :7月号

(はじめに)
会員交流会の話題提供をと事務局から相談されたのは 2 か月前であった。IPAの場でプロジェクトマネジメントの研究を一緒にしている向後氏のつてで交流会に顔をだし始めてからもう随分たった。PMAJ会員ではなかった (その後入会) 私が参加している理由は、毎回の興味深い話題と様々な業界のPM有識者と意見交換ができるからであった。その恩返しのつもりで引き受けさせていただいた。今回は社内で講演した話を、経験・見識豊富な皆さんに議論をしてもらうことを狙って資料を作成した。当日は定員を超える20数名の参加があり、予想を超えた活発な議論というよりも意見が飛び交いあっという間に時間が過ぎてしまった。話題提供した私も感謝感激である。参加された皆様、活発な討論ありがとうございました。

1. 伝統的モダンプロジェクト管理の課題
プロジェクトマネジメントのノウハウやビジネス上の苦労話の議論の多くは、PMBOK等に代表される「伝統的なモダンプロジェクト管理」を前提に行われている。これはビジネス要請の分析から要件を固め、要件に基づき、設計、開発、試験そして提供となるいわゆるウォータフォール開発を前提としたプロジェクト管理である。プロジェクトが成功するためには上流工程(要件定義と設計)あるいは更に前の超上流工程 (戦略立案・ビジネス企画) が重要であり、これらをインプットとして開発プロジェクトが立ち上げられる。そして開発のプロセスの中で品質を作り込んで仕上げていく方法である。しかし、特にITシステム開発プロジェクトでは、かなり以前 (たぶん20年位前) から、プロジェクト開始当初の要件定義の曖昧さ、設計品質不足等の問題から開発プロジェクトのマネジメントの難易度が高くなり、ベテランのPMでなければ成功できない状況が (今でも) 続いている。つまり、プロジェクト計画で作る詳細かつ理想の世界と現実のプロジェクトの実態のGAPを上手にコントロールすることがPMの手腕と考えられている。一方2001年のアジャイルソフトウェア開発宣言に端を発したアジャイル開発のプロジェクトマネジメントスタイルは、米国のソフトウェア開発コミュニティに広がり、いまや米国防総省でさえもウォターフォールモデルによる失敗の経験からイテレーションを繰り返すアジャイル開発を採りいれている。


2.伝統的プロジェクト管理とアジャイルプロジェクト管理の違い
伝統的プロジェクトマネジメントは綿密な計画に基づき、PMが全てを指揮する命令タイプだ。アジャイルプロジェクトマネジメントの基本は、ビジョンの共有に基づき下から支えるサーバント型のリーダシップであり最低限のルール (例えば、毎朝会議を10時から15分行う) と開発チームの自律(自己組織化)に基づいている。そしてQCD (特にスコープ) の 3 制約を守る事よりも決められた期間 (通常2W~4W) で動くソフトを早出しし、その結果を見て次に何を作るかを決め次の開発を行う。これを一定の時期まで繰り返しプロジェクトを進めるタイプで、むしろスコープは調整される (変化する) という点が異なる。それが結果的にビジネスに貢献する“価値”を作り出すと言われている。つまり、現実にプロジェクトのオーナーが求めていることは、契約で約束した通りのスコープを達成することよりも、そのプロジェクトで作られた成果がビジネスの目論見を達成する有力な価値を生み出すことであり。アジャイルの原点はそこにある。
伝統的プロジェクト管理の実践上の課題は、あまりにも固く、枠をはめたプロジェクトマネジメントの考え方と、現実の世界とのギャップによって生じている。
しかし、アジャイルのような現在的な様々なプロジェクト管理は、“現実”を受け入れる事からスタートしている。


3.現在的プロジェクト管理は変化への対応がポイント
(1) ポートフォリオ分析に基づく「戦略的プロジェクト管理」の実践は難しい
P2M、やOPM3は企業戦略を達成する手段としてのプロジェクト管理の役割や組織の仕組みの構築を提案している。基本はポートフォリオ分析に基づいて経営資源を最適にプロジェクトに割り当てることである。しかし、現実問題としてそのような仕組みを構築し、効果的にオペレーションすることは相当に大変な話であるし、はたして戦略的な実践効果を出すのは難しい。むしろ、企業戦略も十分に理解し、PMの力量もあるスターPMを活用するほうがより効果的である。そのようなスターPMを重視する企業こそ戦略的に成功する。

(2) アジャイルプロジェクト管理は変化への対応が得意。なぜ日本では普及しない?
伝統的プロジェクト管理で苦労する原因は、プロジェクトを取り巻く環境の変化に翻弄され、プロジェクトが複雑化してきているからである。この複雑化に呼応するかのごとく2000年代にITプロジェクトの世界に登場したアジャイル開発は今やアメリカのITプロジェクトの90%も占めているといわれている。しかしながら日本では、いまだ10%にも満たない。なぜこのような違いがあるのか。アジャイル開発における、マネジメント (アジャイルプロジェクト管理) で発揮されるマネジメントはサーバント型リーダシップである。PMがメンバーに指示を出すというよりもメンバー自らが計画し実行し、必要なスキル。知識習得を自己研鑽により高めていくことが基本である。このような状態を自発的自律に基づくと自己組織化と呼ばれる。このような組織は欧米人よりもむしろ日本人の得意な領域である。それなのに、なぜ日本での普及が進んでいないのだろうか。
この疑問についてはこれといった結論はないかもしれないが参加者から出た以下のような意見が解決の糸口になる。
例えば、アメリカや同じアジアでも韓国などは、基本的に発注側にプロジェクトがあり、ちゃんとしたPMがいる。日本は形式的PMが多く、実態は受注側にプロジェクト体制がある場合が多い。これがアジャイルが普及しない一つの理由である。
契約形態という商習慣の違いが原因。特に完成責任のある請負契約は特殊であり、アジャイルには向かない。アジャイルを入れようとすると、準委任契約 (俗に言うSES契約) が適しているようだが予算が膨らむと考えている企業が多い。
個人のキャリアパスの考え方の違いがある。欧米ではベンダー企業、ユーザ企業を渡り歩きながらキャリアアップしていくのが普通である。だから上記の①の違いが出てくる。
アジャイルマネジメントの根底の考え方はむしろ日本的である。いわゆる欧米流ではない。「コミュニケーションを重視し、自ら進んで自発的にやる、役割を個人に特定しない。チームで責任を持つ・・」だから複雑性の高いプロジェクトをうまくやるアジャイル的な考えを取り入れた日本流の方法論が出てくることを期待できる。

(3) 第 2 世代プロジェクト管理は 4 つの世界観
複雑性の高いプロジェクトをマネジメントするために、アジャイルをはじめとして様々な議論がされている。これらを総称して第 2 世代プロジェクト管理と呼ぶ (PM2.0)。PM2.0を理解するためのモデルを紹介した。特徴は、プロジェクト管理の大局的な 2 つの方法、伝統的プロジェクト管理 (World 1) と複雑性プロジェクト管理 (World 2) これを取り巻く環境要素として人の行動特性の世界 (World 3) とプロジェクト基盤 (思考方法、体系的な見方、ネットワーキング、プロジェクトを取り巻く環境 (ステークホルダ、法的、組織ポートフォリオ) との繋がりなどの領域 (World 4) の組み合わせで対応する。


(おわりに)
伝統的プロジェクト管理の課題は、あまりにも固く、枠をはめたプロジェクト管理の考え方と現実とのギャップによって生じているように感じる。近年の様々なプロジェクト管理の提案は、“現実”を受け入れる事からスタートする。例えば戦略的ビジネスゴールの達成やアジャイルプロジェクト管理の顧客価値を第一とする考え方は伝統的なプロジェクト管理で重要視される約束 (契約) の遵守第一主義とは異なった考え方にみえる。ルールやプラクティス等の型や仕組みも大事であるが、それよりも個人能力の可能性の追求やそれを引き出すリーダシップ,プロジェクトメンバーの自己組織化・自発的規律など人の理解と人間が本来発揮すべき領域を重視している。ただし、実際のビジネスの世界では例え伝統的プロジェクト管理を基本としていてもビジネス目標の達成や顧客価値提供が重要である事に変わりはなく、顧客やプロジェクトメンバーとの良好なコミュニケーション、インフォーマルも含めた信頼関係作りの重要性、プロジェクト文化の醸成、メンバーの動機づけの重要性が言われ続けている。それに対し、PM-2.0は現実をそのままモデル化したにすぎないと私は解釈しているそして、PM-2.0で示された 4 つの世界観の理解がプロジェクトマネジャの能力や実践力を強化する一つの鍵になると思われる。

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