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リーンスタートアップとGEファストワークス

竹腰 重徳 [プロフィール] :4月号

 リーンスタートアップは、トヨタ生産方式 (リーン生産方式)、顧客開発、アジャイル開発を統合し、事業開発に応用したもので、シリコンバレーのエリック・リースが「リーンスタートアップ」という著書で打ち出したコンセプトである(1)。資源の乏しいスタートアップにおいて、特に「時間」の有効活用にフォーカスし、学習の最大化を重視する点にポイントがある。「構築-計測-学習」のサイクルを反復しながら、起業家や開発者の持つ仮説検証を行い、検証による学びを通じて新製品やサービスの事業化を図っていく。
 構築段階では、顧客のニーズを理解し、仮説を立て、事業やサービスのアイデアを形にする。ここでは、「MVP (minimum viable product)」と呼ばれる実用最小限の製品・サービスを素早く開発し、提供する。計測段階では、開発した実用最小限の製品・サービスを実際の顧客、特に、新たな製品・サービスを早い段階で受け入れ、他の消費層へ影響を与える「アーリーアダプター」と呼ばれる層へ提供し、顧客の抱える課題を解決できているか、当初の仮説が妥当であったのか、提供すべき機能が実現できているのかなどを明らかにしていく。学習段階では、計測されたデータやユーザーの反応を確かめ、改良すべき点は何か、このまま開発を続けるべきか、方向転換を行うべきかを見極め、顧客に受け入れられるものにしていく。リーンスタートアップのポイントは、新たな事業を小さく始めて成功しそうかどうかを早期に見極め、芽がないと判断したら、すぐに製品やサービスを改良したり、事業の内容を一新したりして、軌道修正を繰り返すことにある。
 リーンスタートアップは、小さな新しい事業の立ち上げに適用出来るだけでなく、GEのような重厚長大型の産業機器を作っている大企業にも適用されはじめた。以下は、GEでのリーンスタートアップ適用の例として、日経ビジネス2014年12月22日号の「GEの破壊力」特集を参考にしてまとめたものである。
 GEが作るものは、航空機エンジンやタービンなど、巨大で製造に年月のかかるものばかりで、スピードは二の次になりがちで、きっちりと時間をかけて事業計画を作り、完璧を目指す文化が根付いている。GEでは、今それを意識的に壊そうとして「ファストワークス (Fast Works)」と呼ばれる経営手法の導入が進んでいる。ファストワークスとは文字通り、商品開発などの仕事のスピードを加速することを意味し、基本はエリック・リースが「リーンスタートアップ」という著書で打ち出したコンセプトを参考にしている。新しい製品・サービスを開発するには、作り手の思い込みにより、顧客にとって価値のないものを開発してしまうことがある。そのために生じる時間、労力、資源などのムダをなくして、顧客が求める製品を迅速に出そうという考え方である。GEはこれまで時間をかけて市場調査をし、成長の可能性を検証した上で製品を作りこんでいく開発を得意としてきた。しかし、ソフト分野ではIT企業と競合するケースが増え、産業機器でも競争が激化している。これまでの常識にとらわれて長い時間をかけていると顧客のニーズや環境が変化して、製品・サービスが使いものにならなくなってしまうリスクが高まっている。そこでGEは、顧客が求める最小限の機能を実現した試作品を短期間で開発し、それを顧客に見せて、意見を聞きながら、機能を付加して改良することで、製品の開発期間を短縮するような手法にシフトしようとしている。例えば発電などに使う産業用のガソリンエンジンの新製品の場合、当初は5年くらいの期間かけて、陸海空どこでも使える万能の製品を開発しようとしていた。これをファストワークスの考え方に当てはめると時間がかかりすぎているので、技術者に相談したところ、利用場所を陸上に限るとわずか90日で開発できることがわかり、短期間で製品化したという。
 ファストワークス開発ステップでは、① 顧客の視点で、どのようなニーズや課題があるかを突き止める。② 技術やビジネスの前提などを全て明確にして製品の成功に不可欠な要素を探し出す。③ 実用最小限の製品を迅速に開発し、顧客に見せて意見を聞く。④ 顧客の意見から何を変えるべきか、そのままにすべきかを検討する。⑤ 製品を改善したり新たな機能を付加したりする。これらのステップを迅速に反復して、短時間で製品・サービスを開発するのである。
 しかし、ファストワークスは一歩間違えばGEが長年かけて築き上げたブランドを毀損するリスクもはらんでいるように見えるし、GEの社員の間にも不安視する声もある。この懸念に対して、ファストワークスだからといってGEの製品が品質で妥協しているわけではない。最小限の機能を実現した試作品を見せて、「こういう製品なら買ってもらえるか」を顧客に聞いた後、厳しく検証してから製品を仕上げていくのである。

以上

参考資料
(1) エリック・リース、リーンスタートアップ、井口耕二訳、日経BP、2012
(2) 日経ビジネス、ものづくりの未来を考えるGEの破壊力、日経ビジネス、2014年12月22日号

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