例会部会
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「第193回例会」 報告

PMAJ 例会部会 生越 直人 [プロフィール] :2月号

【データ】
開催日: 2014年12月19日(金)  19:00~20:30
テーマ: 「ソフトウェアカンバン手法の概要」
 ~ムダを無くし生産性を飛躍的に向上させる~
講師: 長瀬 嘉秀 氏/株式会社テクノロジックアート 代表取締役

【第193回例会 報告】
~はじめに~
 「カンバン」とは、トヨタの「かんばん」方式をソフトウェア開発に適用した技法であり、アジャイル、リーンに続くソフトウェア開発手法として世界で注目されつつあります。
 ソフトウェア開発と情報技術の現場で、仕掛り(WIP)の「見える化」と「制限」を実践する手法として「カンバン」の先駆者でもあるデイビッド J. アンダーソン氏によって理論化され、入門レベルに留まらず、応用にいたるまで書籍にまとめられています。日本では2014年8月にこの書籍の翻訳が発売されました。

書籍名: カンバン ソフトウェア開発の変革
著 者: David J. Anderson
監訳者: 長瀬嘉秀・永田渉
訳 者: 株式会社テクノロジックアート
発行所: 株式会社リックテレコム
書籍紹介:   リンクはこちら

 こちらの書籍の内容に基づいて“カンバンとは何か”、“改善の機会をどう捉え、どう対処すれば良いのか”など、監訳者である長瀬様よりご講演頂きました。

~講演概要~
ソフトウェア開発
 現在のソフトウェア開発は、開発チーム内やプロジェクト内、組織内の状況が異なるため、1つの方式(方法論)ではうまくいかない。
 そこで、ゴールドラット博士の「制約条件の理論」にある、プル型システム(後工程引き取り方式)から、カンバン方式による対応を検討した。

 ソフトウェアの開発プロセスのトレンドは、以下の通りである。
  ウォーターフォール(WF)
   欧米ではほとんど使われていない
   日本国内では、WFでカンバンを使用している事例もある
  スパイラル
  イテレーティブ
   1990年代より使用された、UMLによる繰り返し方式
   オブジェクト指向を基にし、WFを小さくして3ヶ月程度で繰り返される
  アジャイル
   現在は、欧米の8割程度の開発プロセスで利用されている
   2週間程度で、繰り返される
  リーン
  カンバン
   新しいソフトウェア開発手法として世界で注目されつつある

カンバン手法について
 皇居東御苑訪問を行った際、トヨタの「かんばん」が工業生産のためだけのものではないことに気付かされた。
 入園票で制御することによって、苑内にいる入場者の数を制限して、観光(処理)をできるようにしている。この仕組みによって、庭園を良い状態に保ち、多くの人が踏み込んだり、混雑しすぎたりすることで起きるダメージを防ぐことができるのである。

 ソフトウェア開発のカンバンでは、カードウォールを使用した。
 ホワイトボードの上に工程名を記述し、その下に付箋を貼り、作業が終了すると付箋を横にずらしていくことにより、以下の効果を得ることができる。
  ワークフローの見える化
  仕掛り(WIP)の制限
  フローの測定と管理
  プロセスポリシーの明示化
  改善機会を認識するためのモデルの使用

   カンバンの手順は、以下の通りである。
  品質に集中する
  仕掛りを減らす
  フデリバリーをひんぱんに行う
  要望とスループットのバランスを取る
  優先順位を付ける
  予測可能性を向上させるために、ばらつきの原因を解消する

   仕掛りの量が減ると、平均リードタイムが短くなり、ひんぱんなデリバリーが可能になる。
 M社の例では、初期のワークフローのリードタイムは155日間であった。概算値見積り作業とPTC(割り込み作業)が邪魔をしていたためである。
 そこで、カンバンによる仕掛り制限とキュー(入力を受け付けてから処理を行うまでの待ち行列)のあるワークフローに変更した。そして、更なる改善としてテストチームを3人から2人に減らし、開発者を1人追加した。
 カンバンによる仕掛りの制限値とリソースをコントロールすることにより、リソースを平準化することができ、リードタイムは25日間に短縮された。

注 ) 実際のカンバン手法とマネジメントレポートにつきましては、講演資料にて写真や図を使用して詳しく説明されています。講師のご了解を頂き、PMAJライブラリに資料をアップ致しましたので、詳細はこちらをご参照願います。

カンバンによる改善
 カンバンには、3種類の改善機会がある。
  ボトルネック
  ムダ削減
  ばらつき軽減

   そして、改善のためのステップは以下の通りである。
  ステップ 1 : 制約を識別する
  ステップ 2 : 制約の活用方法を決定する
  ステップ 3 : その他のことはすべて、ステップ2での決定に従属させる
  ステップ 4 : 制約を補強する
  ステップ 5 : 惰性を避け、次の制約を識別して、ステップ2に戻る


~まとめ~
 2014年7月例会「欧米流アジャイル開発導入の問題点と克服方法」にて、“ソフトウェア開発で今注目を浴びている、日本発信のカンバン”という言葉を聴き、気になっていましたので書籍を読みましたが、今回の例会に参加してより理解できました。
 ソフトウェア開発の「カンバン」は、仕掛りを制限する手法であり、リードタイムと品質の向上を実現するための改善手法です。
 本例会では、ソフトウェア開発手法としてご講演頂きましたが、プロセス改善を行いたい業務であれば応用可能だと思います。
 自分の業務でも、職場の仲間と「カンバン」の手法を共有して、業務改善活動で利用してみたいと思います。

 最後に、我々と共に部会運営メンバーとなるKP (キーパーソン)を募集しています。参加ご希望の方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。

以上

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