P2Mクラブ
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プロジェクト・マネジメントにおけるアート×サイエンスの効用
~「先取り型」課題管理のすすめ~

株式会社シーズメッシュ 代表取締役 ホンマ シュウジ
プラネット株式会社 代表取締役社長 中嶋 秀隆 [プロフィール] :12月号

プロジェクト・マネジメントにおけるアート×サイエンスの効用
~問題の構造を紐解き、先取り型課題管理に生かす術~

 
株式会社シーズメッシュ 代表取締役 ホンマ シュウジ

 はじめに、弊社の取り組みの根底にある「アート×サイエンス」という考え方を簡単にご説明したい。
図 1 アート×サイエンス=デザイン思考による「真の豊かさ」の追求 アートは人間の五感やその奥にある感性、行動を司る「情」の世界であり、優れた作品や美しい表現を生み出す営みである。一方、サイエンスは科学的探究を深める「理」の世界であり、新たな知見や再現性を追求する営みである。弊社はこの2つの領域と、その掛け算であるシナジーの世界を追求することで、目の前の利益にとどまらない、「真の豊かさ」を目指す取り組みを行っている(図 1)。筆者は、このアプローチが、プロジェクト・マネジメントの世界においても、重要な役割を果たすと考えている。

 では、その実践的な取り組みを「課題管理」を例にご紹介する。筆者が過去に携わった多くの問題プロジェクト(組織)では、図 2 に示すような“負の連鎖”が発生していた。 図 2 トラブル・トルネード そこで、その連鎖を断ち切るため、問題が起きる構造そのものを紐解くことにした。問題とは、そもそもやるべきことを「放置」した結果、発生するものであり、それがやがて大問題へと発展し、さらにトラブルへと成長していく構造である(図3)。この構造に着目してから、実に多くのプロジェクト現場で、やるべきことを放置している状態が目につくようになった。しかし一方で、人は意識的に放置しているわけではないこともまた事実だ。では、どうすればこのような状態を打破できるのか。




図 3 問題・課題・リスク・トラブルとは?

 筆者は放置に至る原因のひとつが、問題を対応可能な粒度に“分解できていないこと”にあると考えた。トラブルの現場では特に日々やるべきことが山積である。懸命に仕事をしているにもかかわらず、次から次へと問題が発生する。対応が後手になり、問題がどんどん大きくなる。こうした状況から抜け出すには、問題が大きくなる前に手を打つことが必要だ。それには、プロジェクト・メンバーが簡単に認識できる仕事に分解し、担当や期日、期待する結果について丁寧にケアしていくことが極めて重要となる。
 具体的には、一般に利用されている課題管理表を使って、「課題」「未対策」「担当未設定」「期限未設定」「最優先」「期限超過」などの数を取り出す。さらにその変化を課題表自体の更新頻度とともに時系列で捉える。たとえば、毎日きちんと課題を管理しているプロジェクトなら、課題数や未対策数は変化するのが当然である。仮に、担当者や解決期限が未記入であるならば、そもそも管理されていない状態(放置)が明らかになる。ファイル更新頻度が一週間を超える場合は、定例会などのコミュニケーションが崩壊している可能性すらある。重要なのは、これを一つのプロジェクトだけでなく、組織やチームの横並びで見ていくことだ(図 4)。上位の責任者自ら、積極的にプロジェクトの状態把握に努め、組織全体で“課題を放置しない雰囲気”を作り上げることが、何よりもトラブルの未然防止に絶大な効果を示す。
 筆者は、関係する全員にとって嬉しい状態を考えた上で、物事のあり方をサスティナブルに捉える必要性を日々痛感している。アート×サイエンスによるアプローチが、プロジェクト・マネジメントに多くの効用をもたらすヒントになればと筆者は考えている。(以上)

図 4 行動の結果にセンサーを埋め込む


「先取り型」課題管理のすすめ
 
プラネット株式会社 代表取締役社長 中嶋 秀隆

 プロジェクトは作業やアクションの集大成であり、プロジェクトの成否は個々の作業やアクションが予定どおりに成される否かにかかっている。そして、担当者の手に負えないケースには、エスカレーション(上申)のプロセスで上長の助力を仰ぎ、解決を図るべし-と、プロジェクト・マネジメントの理論は説いている。ところが、エスカレーションがうまくいかず、対応が後手にまわる例は枚挙にいとまがない。その背景には、当事者間で「人間的要素」が根強く働くことが挙げられる。
 プロジェクトの実行段階では、作業を開始し、関係者は定例でレビュー会議を開く。プロジェクト・メンバーは自分が担当する作業の現状を報告するが、そこで「おおむね順調」という説明がよく繰り返される。その場合、「すべてうまくいっている」とか「予定より先に進んでいる」ということもあろう。しかし、報告者の側からすると、「おおむね」という表現には「完璧ではないが、だいたいのところ」というニュアンスが含まれていることが少なくない。そこに小さな問題や差異、潜在的リスクが含まれていることもある。この程度のことは、次のレビュー会議までには解消できる(したい)と考え、善意から、あえて課題化しないからだ。そして、問題やリスクはエスカレーションに上がってこない。
 一方、「おおむね順調」という説明を受けた上長は、それを「うまくいっている」という意味に解釈しがちだ。上長としては、問題に対処するのは面倒だし、できれば素通りしたい。仮に「なにかおかしい」と考えても、メンバーを問いつめるのは気が引ける。そこで問題の所在にうすうす気づいていても、善意から、「見て見ぬふり」を決め込む。
 メンバーと上長の間にこういう人間的特性が働くと、問題は隠しきれなくなるまで拡大する。上長が「なぜ、もっと早く言ってこなかったんだ」とわめくころには「時すでに遅し」である。ナイーブなメンバーは-筆者も目の当たりにしたことがあるが-「スミマセン。言えなかったんです」などとつぶやく始末だ。
 こういう事態はエクセル・シートを有効に活用することで、スマートに予防できる-ということをPMAJのP2Mクラブ「朝活セミナー」でホンマシュウジ氏(株式会社シーズメッシュ)から教わった。
 そのやり方やこうだ。まず、プロジェクトの課題リストや会議のアクション・リストの1つひとつの項目に状況を分かりやすく区分表示する。例えば、「順調」は緑色、「要注意」は黄色、「問題あり」は赤色という具合だ。メンバーは毎日の終業時に、自分のリストのすべての項目につき。データを更新する。その際、「問題あり」がリストの上に並ぶようにすれば、分かりやすい。上長は毎朝、必ずメンバーのエクセル・シートにアクセスし、最新状況を把握する。こうすることで、問題を把握する役割をメンバーから上長に移す。上長は自分から進んで、メンバーが更新したリストにアクセスし、問題を把握する。ホンマ氏はこれを「キーを1つ押すだけ」と表現されていた。
 エスカレーションする側もされる側も人間的特性からは逃れられない。それをやるなというのは人間の特性に逆行することになり、解決には結びつかない。人間の特性を率直に受け止め、なおかつ、問題を予防したい。それには、エクセル・シートをうまく活用し、いわば「先取り型」(プロアクティブ)の課題管理をすることにより、活路が開かれる。ホンマ氏のお話からそういう思いを強くした。
(以上)

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