例会部会
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第190回例会 報告

例会部会 田邉 克文: 11月号

開催日: 2014年9月26日(金)  19:00~20:30
テーマ: 「明日のプロジェクトマネジャーへの提言」
        ~全体最適人材へのアプローチ~
講 師: 向後 忠明 氏/ナノカ(株) 技術顧問 PMAJ理事

 昨今のプロジェクトを取り巻く環境条件はますます複雑化しているため、プロジェクトそのものも厳しくなりプロジェクトマネジャーへの要求が高まっています。このような環境下であなたがプロジェクトマネジャーに指名された場合、どのような工夫と対応、そして行動を起こしていくかを講演者の経験からのご提言を頂きました。

~はじめに~
 講師は、エンジニアリング会社および通信会社に在籍時に数多くの国際開発プロジェクトを経験され、現在は3つの中小企業の顧問をされており、その中でもナノカ(株)では、ナノカーボンを中心に新しい分野の研究開発にたずさわっている。本日はPMBOK、P2MのようなPM知識体系の話ではなく、むしろプロジェクトマネジャーとしてどうあるべきか、どう行動をとるべきかについて話す。

~プロジェクトを取り巻く環境について~
具体的には、次のような環境変化が生じている。
要件が不確定で未知数が多い
求められる要件範囲が拡大している
全く新しい技術で仕事をする(全く誰もやったことのない仕事)
多種多様な多くの技術を必要とする
地域的広がりが大きい
短納期、厳しい予算、厳しい契約条件
 このようにプロジェクトの前提となる環境が変わってきているが、逃げ腰にならず挑戦する形で前向きに取り組んで経験を重ねていくべきである。また、契約で当初の多くのリスクは防げるものなので、プロジェクトマネジャーたるもの契約を人任せにせず、必ずタッチして関わるべきである。

~プロジェクトマネジャーのコアアンカーとは~
プロジェクトマネジャーとして絶対持っていなければいけない基本的なものがある。
 重要なのは知識と実践力で、経験と知識が合さって初めてスキルとなる。経験が伴わないで口先だけのプロジェクトマネジャーになってはいけない。身につけた知識は活用して、経験すべきである。
~IPAの知識/経験ベースの難易度レベルの紹介~
知識/経験ベースのプロジェクトマネジャーのレベルをまとめた資料がIPAから出ている。
レベルは1~7に区切られており、それぞれ以下の通り、
 レベル 1・・・最低限求められる基礎知識
 レベル 2・・・基礎的知識・技能
 レベル 3・・・応用的知識・技能
 レベル 4・・・高度な知識・技能(技術試験で判断できるのはこのレベルぐらいまで)
 レベル 5~7・・・ハイエンドプレーヤー(企業内から、国内/海外と活躍の幅によってレベルが上る)
 レベル4ぐらいが社内でプロジェクトマネジャーとして認知されるレベル、レベル5以上には審査対象はなく業務経験を元に判断される。例えば、レベル7は海外のプロジェクトをいくつも成功して、顧客から認められているレベルと思われるが、具体的な基準はない。

~昔取った杵柄(きねづか)とその強化~
 経験と知識の積み重ねによって、プロジェクトを成功できる能力が培われる。俗に言われるKKD(勘、経験、度胸)は経験と知識の裏付けがあれば、まさに昔取った杵柄である。しかし、昔取った杵柄だけでは十分とは言えない。それでは、昔取った杵柄の強化はどうしたらよいか?実際に行ってきた経験に基づいた方法を説明する。
まずは、自分の知識をベースに考え、足りない部分を外部から情報収集する。
自分で十分考え抜いた後、はじめてチームの力をかりて思いつくことを出してもらう。
その際には、ケプナー・トリゴー法とSWOT分析を活用して十分収斂(しゅうれん)させてから判断する。得られた結果はステークフォルダーとの合意を得た後、さらに、自分の右腕、左腕となるメンバーと練り上げていった。過去の経験からこの方法に大きな間違えはないと考えている。

~これから求められるPM人材とは~
 プロジェクトマネジャーは部分最適型人材でなく、全体最適型人材である必要がある。
中には自然体で柔軟なバランスのとれた考えが出来る人がいますが、そのような人がプロジェクトを成功できる人だと思う。
脳科学の観点からみると昔取った杵柄は、あくまで左脳(知識・経験)の部分で、直感的なひらめきは右脳(直観・センス)が使われる。
あたまは良いが仕事が出来ない人には、右脳の要素が欠けていると考えられる。例として、経験の長い熟練の営業マンより、2、3年目の営業マンの方が優れていることがある。その優秀な営業マンは右脳が長けているからだろう。
プロジェクトマネジャーは、この両方の脳をバランス良く使う必要がある。つまり、脳をフリーにして考えることが重要であり、そのため柔軟な頭脳と行動のできる全体最適人材の育成が今後の重要な課題だと考える。
~PMの理想的な人材像について~
 当時、自ら国際事業本部への異動を希望し、数々のプロジェクトを経験して学んで来た。
これまで培っていた技術や人から断絶した環境下で他分野へ挑戦することが全体最適型人材としては重要である。最近の若者はこの点が欠けている人が多く見られる。
具体的な理想的PM人材像(イメージ)とは、
十分な関連知識がある(知識力)
腕に覚えのある実線経験を持つ(実戦経験)
自分の座右の書、虎の巻を持つ(昔取った杵柄)
全体的視点で全体を見据える(認知力)
根回し、ネゴシエーション力がある(コミュニケーティング)
肝が据わった関係調整力、地に足のついた効果的な意思決定力がある
目標に向かって適切な計画を立て、モニタする癖を持つ(マネジング)
リーダーとして的確な指示をして、部下を褒める(リーディング)
←教育もリーダーの仕事の内
積極的挑戦心を持って最後まで駆け抜ける意志と行動力がある(自己規律)
相手との約束を守る(倫理観)
どんな場面においても適切な行動をとる(倫理観と多様性)
これら述べられていることは、普段から身についた癖として持っている必要がある。

~ご講演を聞いて~
 講師の豊富な経験を元とした求められるプロジェクトマネジャーとはこういう人であるべきとのイメージが持てました。実務でプロジェクトマネジャーを実践されている方にはセルフチェックに、これからプロジェクトマネジャーを目指す人や、企業の教育担当者にとっては、真のプロマネに近づくためにどのように育成(学習)していくかのヒントが掴めたのではないでしょうか?
また、今回の講義の中で、『あたりまえですが、、、』いうフレーズを幾度か使われておりました。そのことからプロジェクトマネジャーたるもの『あたりまえのこと』を『あたりまえ』のようにスマートに振る舞えるべきとあらためて再認識することができました。

 最後に、我々と共に部会運営メンバーとなるKP(キーパーソン)を募集しています。参加ご希望の方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。

以上

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