例会部会
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「第189回例会」報告

東洋エンジニアリング(株) 増澤 一英 [プロフィール] :10月号

 日頃、プロジェクトマネジメントに携わっておられる皆様、いかがお過ごしでしょうか。今回は、2014年8月に開催された第189回例会についてレポートいたします。

【データ】
開催日時: 2014年8月22日(金) 19:00~20:30
テーマ: A Project Management Perspective
   (Communication Skills a must for Successful Project Management)
   「プロジェクトを見通すマネジメントスキル」
   ~コミュニケーションスキル = プロジェクト成功の要~
講師: K.R. Umesh (ケイ・アール・ウメシュ、名古屋大学非常勤講師)

今日のほとんどのプロジェクトは、協業体制での遂行が多く、複雑なマネジメントスキルが必要で、人々が国際的に関与しながら実施されています。大規模であればあるほど、数多くの人々が関与しており、プロジェクトマネジャーのプロジェクトコミュニケーションスキルはプロジェクトの成否にかかわる大きな要素です。今回の講演では、大規模、複雑系のプロジェクトを遂行するために必要な、スムーズで上質なコミュニケーションを行うスキルについて、英語の説明も織り混ぜてウメシュ氏にお話しいただきました。

前置き
初孫ができた(拍手)ウメシュ氏にとって、日本語、英語、ヒンドゥ、入り混じる会話の中から妥協点を見出す(笑)ための、ファミリープロジェクト運営が最近の最も重要な課題だそうです。英語も交えたお話で例会は和やかに滑り出しました。
人は皆、コミュニケーションのツールを備えています。五感とそれを感じて人に伝える力です。そして人は伝える手段を開発しました。これらが重要なコミュニケーションツールです。

プラントプロジェクトの成り立ち
講演の前半、ウメシュ氏は経験を基に、大規模肥料プラントプロジェクトはどのように進められるのか、コミュニケーションの深く関与する部分を強調して分かりやすく説明しました。

プロジェクトは、そのフィージビリティースタディーから発生し多くの関係者が関与します。ここからすでに良質なコミュニケーションが要求されているのです。
施主は、食糧生産や農業の専門家、財務や融資の専門家、流通の専門家、肥料プラントの技術供与元、設計や建設の専門家、官庁や渉外の専門家、といった多くの関係者との意思疎通を通じて、もっとも適切なロードマップを設計しなくてはなりません。

最近では肥料プラントの建設に1,000億円規模のコストがかかる場合もあります。それゆえ、フィージビリティースタディーのためにコントラクターをBidで選ぶケースもありますし、さらに、プロジェクトのマネジメントコントラクター(PMC)をBidで選び、PMCがEPCコントラクターの選定をするケースもあります。Bidを通じて、EPCプロジェクトのコントラクターを、技術面とコスト面の両面から評価し、選定します。

大規模プロジェクトではコントラクターもリスクを分散するために、国際的な協業体制で臨みます。施主や下請けなどの関係者と意思疎通をするために、プロジェクトマネジャーに求められるのは、人と人をつなぐ、前向きなコミュニケーションスキルが大変に大きな割合を占めているのが分かります。

このように、実際の大規模プロジェクトでは本当に多くの人が関与しているのが理解できます。

コミュニケーションマネジメント
EPCコントラクターのプロジェクトマネジャーは、先ず、コミュニケーション計画を作らねばなりませんが、ここにプロジェクトマネジャーの強い意志を働かせるのが重要です。いつ、何を顧客に説明するか、報告するか、経験と契約要求から決める必要があります。定常的なコミュニケーションを適切に行うことで、顧客と常に以心伝心の状態を保つことがプロジェクトの運営に最も重要なのは言うまでもありません。大規模なプロジェクトでは、レポートやコミュニケーションの種類や内容は、さまざまなフェーズに亘り、時々刻々と変化します。優れたプロジェクトマネジャーは、基本となるコミュニケーションの術を心得ています。ウメシュ氏は幾つかの要点を取り上げて説明されました。

(1) コミュニケーションの種類とEthics(倫理観)
プロジェクトマネジャーたるもの、人と人をつなぐコミュニケーションの重要性を理解するだけでなく、目的、内容、手段、障壁、などのさまざまなコミュニケーション要素を普遍的に判断する力が必要です。中でもウメシュ氏が強調されるのは、Ethics(倫理観)です。人と人との関わりの中で、絶対に忘れてはならないのは倫理観でどんなコミュニケーションであっても倫理観を持つことが重要です。

(2) 自分の立場と相手の立場、聴衆の理解
コミュニケーションは、発信側がメッセージを発信し、受信側が受け取ります。正しくメッセージを伝えるスキルはもちろん、メッセージに込められた発信者の意図を正しく理解して、自分の考えを発信者にフィードバックするスキルが要求されます。一方通行の言いっぱなしを繰り返すことなく、プロジェクトマネジャーには、価値の高いコミュニケーションを維持していくスキルが要求されます。
プロジェクトマネジャーはプロジェクトのプレゼンターでもあります。どんな人に何を伝えるかをはっきりと照準を絞って臨むことが必要です。聴衆を十分に熟知することは、聴衆本位の姿勢を示すことにもなります。

(3) オープンなコミュニケーション
上質なコミュニケーションをしばしば阻害するのは、相手に対するごまかしです。自分の主張が通らないときに、どうしてもごまかしや隠ぺいの気持ちが生まれます。しかし、それを克服しないと質の高いコミュニケーションは成立しませんから、自分が常にオープンマインドであることを確かめてください。そして、それは、コミュニケーションのプロセスの中で最も重要なEthics(倫理観)にもつながります。

(4) リーダーは権威なしでもリーダーであれ
プロジェクトマネジャーにとって重要なのは権威や権限でしょうか。経験からは、むしろプロジェクトチームに対する指導的な役割を求められています。優秀なプロジェクトマネジャーは優秀な指導者であり、決して権限で物事を進めません。チームを指導してリードしていくことは、コミュニケーションスキルそのもので、プロジェクトマネジャーに必須のスキルです。

最後に
ウメシュ氏は過去の経験から、プロジェクト成功の根底には、客先といかに信頼関係を構築するか、というコミュニケーションスキルがあると言います。

例えば、今の大規模プロジェクトは国際協業が主流です。客先と、プロジェクトパートナーの組織や機能、役割を共有するために、プロジェクトマネジャーには多大な時間が必要です。ウメシュ氏は、プラントの設計をインドでやることを考えた場合、設計の品質、経験、リソースなど多面的に確信を持って客先に納得してもらわないとプロジェクトを進めるうえで大きなタイムロスが発生すること、そして、優れたプロジェクトマネジャーは、想定しうるタイムロスをどのように最小限に抑えるかを考慮して、常にコミュニケーションスキルを活用していることを説明され、講演を結ばれました。

一時間半、ウメシュ氏はほとんど日本語で講演され、聴衆は英文のハンドアウトを見ながら講演に聞き入っていました。英語の勉強にもなりました(?)が、多大な労力を払ってコミュニケーションスキルを説明していただいたウメシュ氏に改めて感謝の拍手をお送りしました。例会のあと、懇親会があり、ご参加いただいた方々とウメシュ氏とのコミュニケーションが続きました。

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