変革マネジメントモデル-ADKAR
組織文化とは、「このような組織にしたい」というビジョンが、経営環境の影響を受けて形成される行動規則や思考様式と言える。組織は、形成された組織文化を維持し強化する仕組みを持っているが、外部環境の変化や危機的な状況が予測される場合、その組織文化を変革しなければならないことが発生する。しかし、一度根付いてしまった組織文化を全く違う方向に変革させようとすると大きな抵抗をうけ、非常に難しく大変な努力が必要となる。
変革には抵抗がつきものであることの証明として変革を語る様々な人が、変革への抵抗を説明している。例えば、ジョセフ・H・ボイエット、ジミー・T・ボイエットは、「経営革命大全」の中で、人が変革に抵抗する主な6つは、「否定的な結果をイメージする」「仕事が増えるのではないこと思う不安」「習慣からの脱却」「コミュニケーションの欠如」「組織全体にわたる調整の失敗」「社員の反乱」と述べ、さらにデンバー大学教授のジェームズ・オトゥールは、人が変化に抵抗する理由を33個紹介している(1)。
変革への抵抗に打ち勝ち、変革を成功させる変革マネジメントモデルとして、Jeff Hiattが開発したADKAR(Awareness、Desire、Knowledge、Ability、Reinforcement)モデルが有効である(2)。このモデルは個人レベルで変革を根づかせるために必要な5つの段階のプロセスから成り立っている。
第1段階 Awareness (認識) |
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何故変革が要求されるのか、何故今か、今のままだと何が悪いのか、変革しなかったら何が起こるのか、自分にどのように関係するのか、など変革の必要性を認識することが第一歩で大変重要である。変革の必要性を認識させるため、このままで行くと存続が危ぶまれるといった危機感を訴え、変革の理由をしっかりと伝えて理解させることである。 |
第2段階 Desire (欲求) |
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変革の必要性を認識したら、次に変革を行いたいという欲求を決断する必要がある。そのために、変革ビジョンや戦略、個人への影響をコミュニケーションし、実現イメージ、変革のメリットを伝えるとともに変革に対する不安や恐れを取り除き、変革したいという動機付けを行う。 |
第3段階 Knowledge (知識) |
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変革の必要性を理解し変革を決断した人は、変革を実現するために、どのような方法で変革を実行するかの知識が必要となる。変革に要求される知識は、変革プロセス、方法、ツール、スキル、役割などで、これらの知識を得るための学習できる場の提供が必要である。 |
第4段階 Ability (実践力) |
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変革を実践するためには、知識を実践力に変える必要がある。変革の実践力を身につけるためには、実践することである。コーチングなど、変革を実践するうえで必要な支援環境を整えて変革を実践する場を与え、変革の実現に導いていく。 |
第5段階 Reinforcement (強化) |
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変革に成功したらといって、緩めるとすぐ長年染み付いた古いパラダイムに戻るので、継続して変革を続けるよう動機付けを強化していく必要がある。そのために、変革結果の評価振り返りを行い、変革が継続的に改善するよう支援や報奨を行い、変革が定着するまで手を緩めない。 |
ADKARの優れた点は、ボトムである変革を実施する担当レベルの個人個人がステップを踏んで、変革がしっかり動機付けされ、変革が実施できるよう環境を整えながら行うので、変革を着実に実現できることである。
アジャイル・イノベーターのマイク・コーンは著書「Succeeding with Agile」の中で、アジャイル導入には組織文化の変革が必要で、このADKARをベースにしたADAPT(Awareness、Desire、Ability、Promotion、Transfer)による進め方を提唱している(3)。
以上
参考資料
(1) |
ジョセフ・H・ボイエット、ジミー・T・ボイエット、「経営革命大全」、金井壽宏監訳、1999 |
(2) |
Jeffrey Hiatt, ADKAR:A model for change in business,government,our community, Prosci ,2006 |
(3) |
Mike Cohn,Succeeding with Agile,Addison Wesley,2010 |
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