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「エンタテイメント論」(75)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] 
  Email : こちら :6月号

エンタテイメント論


第2部 エンタテイメント論の本質

6 創造
●直感は、どちらの脳から生まれるか?
 誰しも知っている相対性理論の「アルバート・アインシュタイン博士」は、「直感的思考は、神聖な(神の)贈り物だ。理性的思考は忠実な下僕だ。しかし我々は下僕を尊重してきたが、贈り物を忘れる社会を創ってきた」と「直感」の重要性を主張した。

 筆者は、2014年2月25日の「エンタテイメント論(72)」の最後の文章で「経営の危機の瀬戸際で直感を信じて意思決定したことが危機を脱出させ、事業を成功に導いたケースが数多く報告されている。しからば直感は、左脳からか? 右脳からか? どちらの脳から生まれるのだろうか?」と「直感」に関する問題を提起した。その後、この記述に対応せず、読者に考えて貰った。

 本号でその問題に対応したい。その答えは「どちらか分からない」である。筆者は、科学的根拠を示す力はないが、恐らく両脳の総合的働きから生まれると思っている。いずれにしても、「直感」は、何故、生まれるか? いつ生まれるか? どうすれば生み出せるか? 謎ばかりである。

●直感は正しいか?
 筆者は、昔、人生最大の「危機」に直面し、長く苦しい逆境の日々を過ごした。そんな時、ある日、「ある曲」をラジオで耳にした。その曲が妙に心に残り、逆境の日々だったため何年も触らなかったピアノに向かった。その曲を弾き始め、演奏半ばで「ある直感」が突然湧いた。今も鮮明にその瞬間を覚えている。

Trust your instincts. Intuition doesn't lie.


 この危機遭遇時より約10年前から「事業プロジェクトの成功と失敗を分ける根源的原因は何か?」と云う所謂「成否研究」を個人的興味から続けてきた。しかし危機に直面し、その研究を中断せざるを得なかった。

 「直感」が湧いた時、演奏を中断して自宅の3階屋根裏部屋の書架に飛び込んだ。研究中断で長らく放置され、埃を被った多くの研究資料をすべて引っ張り出して読みあさった。その結果、多くの成功事例や失敗事例の登場人物が異口同音に「ある事」を語った。その結果、「直感が正しいこと」を証明した。「不思議な感動」を覚えた。

 「危機」とは、幼い娘2人を残して妻が亡くなったこと、「ある曲」とは、ディズニー映画「ピノキオ」の主題歌「星に願いを(When You Wish Upon A Star、Your Dreams Come True)」のこと、「直感」と「ある事」とは、「夢」の存在の事であった。

出典;ピノキオ Walt Disney Co


 「夢の存在の事」とは、「夢」を捨てず、持ち続け、挑戦したからこそ事業プロジェクトが成功した事、「夢」を諦めたから失敗から立ち直れなかった事、「夢」の実現と成功への「情熱」は、「夢」を持つ事で生まれる事、「夢」の有無こそが成否を分ける根源的原因である事などであった。筆者にとってまさしく「夢」の発見であった。

●夢の発見
 「夢」の発見の感動は、筆者に「人生最大の危機も夢を持つ事で脱出する力が生まれるかもしれない? 夢を持って挑戦すれば、明るい人生を得られるかもしれない?」と強く感じさせた。しかもこの研究資料のすべての登場人物が筆者を勇気付けた。

 「夢」を直感し、「夢」の発見をした日から、筆者の危機脱出と人生再建への挑戦が始まった。紆余曲折を経て、娘達の支援を受け、遂に再婚を成功させ、おまけに息子を得て、明るい第2の人生を歩むことが出来た。

 しかも「後顧の憂い」が無くなったため、仕事に打ち込め、幾つかの「夢」のプロジェクトを成功させることが出来た。しかし多くの失敗もしたが、失敗の都度、新しい「夢」を描き、その実現に挑戦して幾つかの「夢」を実現させ、今日に至っている。

 「直感」を信じることで「夢」の実現と成功を果たせると確信した頃、筆者は、「夢」を核とする「夢工学」を自然に構築することが出来た。この貴重な知的生産物を手にした事は、筆者のその後の人生を更に良い方向に変えた。この頃、「夢工学式発想法」のプロトタイプ(原型)も生まれた。このプロトタイプを徐々に発展させ、現在に至ったものが今回紹介している夢工学式発想法である。

●ブレーン・ストーミング、KJ法、NM法
 夢工学式発想法の「基本的考え方」は、前号までで縷々説明した。来月号からいよいよ「具体的方法論」を説明したい。

 この機会に、この方法論を活用して、エンタテイメント事業分野や非エンタテイメント事業分野に於ける、新しい商品、製品、サービスなどを産み出す新規事業を是非、成功させて欲しい。

 さて世の中で数多く紹介されている発想法の殆どは、①それを活用するための具体的方法論として、「発想ルール」、「発想技術(テクニック)」、「発想マニュアル」などを覚える事、②使いこなせるまでに時間と労力を掛けて習得する事、③発想に際しては、面倒でも複雑な手順(ステップ)に従う事などを求める。

 誰もが知っている「ブレーン・ストーミング」は、厳しい発想ルールの実行を求める。また以前、日本で大流行し、現在も活用されている「KJ法」や「NM法」も、その技術を本当に習得するまでに相当の努力と時間を求める。

出典:ブレーンストーミング barbiol.blogspot.com 出典:ブレーンストーミング barbiol.blogspot.com
出典:ブレーンストーミング barbiol.blogspot.com

 「えっ! ブレーン・ストーミングに発想ルールがあるの?」と疑問を持つ読者は多いと思う。この際、是非WEB SITEに検索してルールを知って欲しい。これをキチンと順守しないと、ブレーン・ストーミングの真の効果は生まれない。多くの人は、「ブレストをやろう!」と気軽にアイデア会議をする。しかし発想ルールを守らないブレストは、言いっぱなし発言、無責任発言、記録無し会議などで終始し、時間と労力の無駄になることが多い。

 筆者は、昔、KJ法を川喜田二郎教授から、NM法を中山正和教授から直伝で学び、免許皆伝を得た。しかしそのルール、技術、手順などを習得するまでにはかなりの労力、時間、そして費用を費やした。もっともその費用は、筆者の帰属会社であった新日本製鉄が負担してくれた。その代わり、筆者は、KJ法とNM法を多くの社員に実践的に教える「社内研修会の講師」の役目を命令された。そのため本来業務の傍ら、日本全国にある製鉄所に出張して講義した。猛烈に忙しかった。

●多くの「発想法の本」に納得できない事が?
 現在、数多くの「発想法の本」が出版され、日本産の発想法の本だけでなく、外国産の発想法の本まで多くの書店で売られている。その背景には、「脳トレ」が一時ブームになり、今もその種の本がそれなりに売られている事、「脳トレ」の源になる「発想法」に多くの人が強い興味を持った事などがある様だ。本稿の読者も少なくとも1~2冊の発想法の本を買っているだろう。

 さて出版されている「発想法の本」に関して、どうしても「納得できない事」がある。その事を気付いている人も大勢いるだろう。しかしそれは、当該発想法の本を買って、学び、実際に活用しても、期待する効果を生み出せなかったという事ではない。。



 何故なら、如何なる発想法も、頭で理解し(左脳思考)、体で感じ(右脳思考)、実際に活用(発汗)して初めて発想できるという方法論だからだ。最初から効果を出せないのは当然。その方が圧倒的に多く、「納得できない事」にはならないからだ。「夢工学式発想法」も同じである。理論と実践の2本立てで体得することを求める。「畳の上の水練」では泳げないのは道理である。しからば「納得出来ない事」とは何か? それは読者の側には存在せず、著者の側に存在する事である。

 「納得出来ない事」を説く発想法の提唱者は、ゼロから事業を立ち上げ、成功させた企業家や実プロジェクトを成功させた実務家ではなく、脳科学者、脳生理学者など学者、経営コンサルタント、評論家などを云う。

●後付け理論と後出しジャンケン理論
 前者の場合、事業経営や実プロジェクトの場で彼らが開発した発想法を使って実現した成功事例を著書の中で記述する場合が殆どである。しかし後者の場合、彼らの発想法を理論的に構築しているので発想の在り方のヒントにはなるが、実践的でなく、応用が効かない場合が多い。更に世の中の様々な発明や発想とその実用化の成功事例を彼らは発想理論の根拠としている場合が多い。はっきり言えば、「後付け理論」であり、「後出しジャンケン理論」である。その結果、彼らは、発想理論の論争では常に勝つ。厄介で困った事だ。

 彼らの多くは、提唱する発想法を提唱者自身が活用し、研究の場や事業経営の場で発明し、発想し、実用化し、成功させた事がない。その事を彼ら自らが証明している様だ。何故なら彼らがもし成功させておれば、その事を間違いなく発想法の本の中で紹介するはずだ。しかし殆どの本は紹介していない。紹介した場合も、彼ら自身ではなく、彼らの発想法を第三者が活用した事例が紹介されているに過ぎない。

 自ら構築した発想法を自らが活用せず、発想もせず、成功もさせない「後付理論」 「後出しジャンケン理論」の著者には、TV出演やメディア露出度の高い有名学者や著名コンサルタントが多い。しかしその彼らが著した「発想法」の本ばかりが売れている。

●夢工学式発想法の公開理由
 筆者は、誰でも、何についても、いつからでも、自由に、楽しく、豊かに発想できる「シンプルで実用的な発想法」を長年探し求めた。しかし結局見つからなかった。

 仕方がなく、既述の「プロトタイプ」をコツコツに改良し、実務に活用し、失敗を重ねながら、発明し、発想し、少しづつ成功事例を積み上げた。その結果、何とか現時点で構築されたのが「夢工学式発想法」である。従って本発想法はまだ完成域に達しておらず、発展途上の発想法である。

 なお本発想法は、本来、筆者自身のために構築したものである。しかし某友人達から「川勝、お前がそれを独り占めせず、世の中で発想に困っている人のために公開するべきだ!」と厳しく批判された。そのため公開した経緯がある。

 筆者自ら本発想法を活用し、発明した事例、新しい発想による新事業の成功事例を失敗事例も交えて本稿で紹介する予定である。また既述の通り、「本発想法を活用して新事業を成功させて欲しい」と読者に要請した事は、「誠に僭越で、余計なお世話」と言われるだろう。しかし敢えてそうしたのは、以上の経緯と批判に応えるためであった。

つづく

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