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[蘇州だより]

住友ケミカルエンジニアリング(株) 田坂 明 [プロフィール] :6月号

 2012年4月に前任者から引き継ぐ形で中国現法の管理担当を命ぜられ、蘇州市新区に常駐することとなった。蘇州は歴史が古く、2500年前に揚子江流域で発展した都市であり、東洋のベニスと称せられる水の都である。また、蘇州には世界遺産に登録された4つの庭園をはじめとして観光名所が多い。一番のお勧めは、30m程の小高い丘の上に建立された虎丘(Tiger Hill)で、高さ48mの竹の子状の、3.5°傾いた斜塔として非常に有名である。また、弘法大師や鑑真が修行をした寒山寺もある。蘇州には多くの日本人が住んでおり、日本食レストラン街もあるので、中国語が話せなくても日本人にとっては住み易い場所である。

 さて、これまではプロジェクト対応のために何度も海外での勤務を経験してきたが、プロジェクト以外の主目的で海外に常駐するのは初めてのことであった。設立して間もない中国現法であるので、OJTなどを通じて会社をスムーズに立ち上げることが初期のミッションである。
 一方、2012年1月からプロポーザルマネージャーとして見積対応していた中国向けのEPCプロジェクトが、タイミング良く4月の転勤直前に内示を頂いた。更地の状態からコンパウンド工場を新設するプロジェクトであるが、初歩設計以降の官庁申請を含めたEPC全スコープを14ヶ月以内に完成・引渡しという短納期と極めて厳しい予算を克服する必要があった。初期のミッション達成のために、自らを本プロジェクトのPD(プロジェクトダイレクター)に任命し、顧客との窓口を含めて、実務を通じて社内指導を行なうこととした。

 手探り状態の中で、まず最初に直面したのは言葉の壁であった。現法内部には英語が使える者と使えない者が混在しており、ある程度は英語でのコミュニケーションが可能であるが、中国のプロジェクトでは設計院(CDI)と官庁が介在するので、英語のみでのコミュニケーションはまず不可能である。中国語を話せない日本人と英語を話せない中国人がコミュニケーションを取る場合、通常は日本語ができる通訳を介してのコミュニケーションとなるが、この場合、翻訳ミスや翻訳洩れのリスクが付きまとう。このリスクを少しでも回避するために、社内のマネージャークラスには英語でのコミュニケーションを心掛けたが、まだまだ時間が掛かりそうである。日本人が中国語を話せればこの問題は解決するが、簡単ではないし、時間がかかる。現に中国で約半年間、中国語会話の勉強をしたが、日常会話ができる程度が関の山で、業務の会話ができるようになるには相当な時間が掛かりそうである。

 次に直面したのは官庁申請の複雑さと大変さである。自分自身は2回しか官庁へ行かなかったが、担当者は総平面図という初期段階の簡単な図面の申請でさえ、かなり足繁く官庁に通っていた。官庁申請は大変だが、このような経験を積んで行くしかない。

 その他としては、1部の中国ベンダーからの図面がなかなか出てこない問題や、プロジェクト後半での設計変更対応、時間が無い状況下での現場での手直し工事など多くの諸問題が発生したが、プロジェクト終盤に現場に張り付くことで、情報・指示の集中管理を行い、何とか契約通りにプラントの引渡しを完了できた。
 中国ではスケジュール遅れの話をよく耳にするが、中国で契約納期通りにプラントを引き渡すのは簡単ではないことを実感した。また、このプロジェクトでの様々な経験を通して、社員が自信を付けることが出来た点では良かったし、改善すべき点も認識できた。現在は、営業活動を通して新規顧客も増えてきており、各種プロジェクトの経験を積むことに注力をしているところである。

 まだまだやるべきことが多いが、顧客のニーズに応えて、所定の品質のプラントを、出来るだけ安価に提供することをモットーに愚直に取り組んで行きたい。

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