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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~英語でコミュニケーションする力~

井上 多恵子 [プロフィール] :3月号

 仕事で英語を使うことが無くてもやっていけると信じ込んでいたけれど、英語が急に必要になり慌てる人が、私の身近な所で増えている。先日も、海外のプロジェクトマネジメント関連の研修会社の日本支社の営業の方が、語っていた。「私は今の会社に入社する際、英語は苦手でも、営業の仕事は国内会社向けだから心配しなくて大丈夫」と言われました。ところが、最近はそういうわけにもいかなくなってしまいました。こんな要請を受けているからです。社員をインドに派遣して、インドの方々と一緒に、現地でプロジェクトマネジメトをしてもらいたい。そのために、プロジェクトマネジメントの研修を英語で企画して欲しい。あるいは、海外の会社と合併し、海外のスタンダードで業務を進めないといけなくなったので、日本にいる社員に海外のスタンダードとなっているプロジェクトマネジメントを教えて欲しい。そういった要請を受けて、私も英語のテキストを扱ったり、海外の会社の方と連絡を取り合い、ニーズを把握したりしないといけなくなったのです。だから、私も今必死になって、毎週一回プライベートレッスンを受け英語を勉強しています。」
 自分には関係が無いと思っていても、こんな形で、ある日突然英語習得のニーズが生じることが珍しくなくなってきた。私が英語を教えている方の中にも、「英語が苦手で話せないのに、海外販売会社の方々に、自分の業務に関連した会社の取り組みをプレゼンしないといけなくなりました。ヘルプしてください!」と要請してきた方がいた。育成の観点もあってか、なんと40分ものプレゼンの場を与えられた彼女は、その機会を最大限活かそうと、数か月前から準備を始め、私が吹き込んだ音声も繰り返し聞いてプレゼンに備えてきた。その努力には本当に頭が下がるし、その努力は十分仕上がり状況に反映されている。上司や同僚は、英語が苦手だという彼女のプレゼンの出来栄えに、きっと驚くに違いない。
 私が最後に彼女に与えたメッセージは、「プレゼンで一番大事なことは、伝えたいと思う気持ち。多少間違っても構わないから、気持ちを込め、所々で聴衆の方を見ることを忘れないで。だったら原稿を見なくても言えるはず。他は読んでもいいから、自己紹介やPlease enjoy!と言ったフレーズだけは覚えて。」気持ちを込め、という意味では、こんな事例もある。私の夫は海外赴任の経験が無く、英語が得意なわけではない。しかし、先日自宅に外国の方や職場の同僚を呼んだ際、一番熱心に語っていた。話し方が決して流暢というわけではないし発音も改善の余地があるけれど、意思は十分伝わっていた。夫曰く、「慣れだよ。英語は!とにかく話そうとすること。」
 皆さんの中に英語を避けている方がいらしたら、ある日突然びっくりしないように、ぜひ準備を始めて欲しい。その際のヒントとして。私がお薦めしたいことは、日本語を頑張って英訳しようとするより、場面に合った英語表現を覚えて話せるようにすること。英訳しても、正しい英語表現にならない場合があるからだ。ある意識調査の質問の日本語とその英訳を見ていて気付いたことがある。believeは本来「信じる」なのに、日本語訳では「思う」にしていたり、「優れた」を意味するexcellentを「高い」にしていたりするなど、かなり、意訳していた。意識調査の実施先に。「これでは意味が違ってしまい、正しい比較ができないのでは?」と尋ねたところ、日本人や日本語から受けるイメージを考慮すると、これ位、言葉を変えた方がいいということだった。この解釈には、正直驚いた。これほどまでに変えた方がいい、という感覚を私は持っていなかったからだ。日本語を忠実に英語に訳すだけでは、不十分だということを知った。
 英語と一口に言っても、国民によって表現の選び方が違う場合がある。だからこそ、自分が関係する人達の間で使われている、生きた英語表現を学ぶことが一番の近道になる。プロジェクトマネジャーはどのように、目指す姿やゴールをステークホルダーに伝えているのか。どのようにWBSを設定し、各メンバーにアサインしているのか。どんなメール表現を使っているのか。
 私もできるだけ、一緒に仕事をしている人の表現自体や表現スタイルを真似して使っている。最近はアメリカの人達と仕事をすることが多い。その人達から学んでいるのは、気持ちの込め方と簡潔さだ。I so appreciate your support. やThank you so much.
 日本の英語教育で学んだのはI appreciate your support very much.やThank you very much. だが、soを使った方が、親近感が湧き、感情を込めやすい気がする。Thank you, much appreciated.(ありがとう。とても感謝します)というのもあった。主語もない文だが、これで十分通用するらしい。我々日本人は、丁寧に正しく英文を書こうとするが、難しく考えず、もっと肩の力を抜いて書けばいい。子供のように真似して。そう考えると、なんだか元気が湧いてきませんか?

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