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「エンタテイメント論」(72)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] 
  Email : こちら :3月号

エンタテイメント論


第2部 エンタテイメント論の本質

6 創造
●楽しい、ワクワクの「大好き」なこと
 前号で①日本の企業の99%を占める中小企業が発展することが日本の経済、産業、事業を発展させる原動力になること、②その発展は「改善の経営」でなく、「改革の経営(ビジネス・イノベーション)」によって実現すること、③社長、ビジネス・プロデューサー、彼らを支える関係者が実現させること、④「実現し、成功する事業」は、使命感や悲壮感からではなく、エンタテイメントの様に、楽しく、ワクワクして挑戦する「大好きな事業」であることを説いた。

 更に⑤改革の経営(ビジネス・イノベーション)の成否の鍵は「優れた発想」であること、⑥これを生みだす「発想法」の存在意義は大きいこと、⑦如何に優れた発想法でも、如何に優れた人物でも、如何に巧みに発想法を活用しても、発想する目的の事業が「大好き」でなければ、優れた「発想(思考)」は生まれ難いこと、⑧たとえ生まれても、それを実現させ、成功に導くために「汗と涙と血」を流す「発汗(行動)」の動機が生まれないことなどを説いた。

 しかし前号で指摘の通り、「発想法」など知らなくても、知っていて活用しなくても、「優れた発想」を生み出せる人物は、以下で説明する筆者が提唱する「夢工学式発想法」を含めて、世の中の発想法など無視して構わない。その人物にとっては発想法の紹介や奨めなど余計なお世話であろう。何故なら人類は、「発想法」が生まれる数千年前から、数え切れないほどの「優れた発想」を生み出し、「汗と涙と血」を流して、多くの「人類の偉業と遺産」となるモノを成功させてきたからである。

出典:万里の長城 Yahoo 人類の遺産

出典:万里の長城
  エジプトのピラミッド
Yahoo 人類の遺産
出典:エジプトのピラミッド Yahoo 人類の遺産

●夢工学式発想法の紹介
 しかし筆者を含めて普通の人物にとっては、「発想法」が役立つ事も事実である。しからば「改革の経営(ビジネス・イノベーション)」に不可欠な「優れた発想」を生みだす「発想法」を知って、活用しない手はないだろう。

 ついては、①「我田引水」の謗りを受けることを覚悟し、②本稿を書く著者の「特権」を利用し、③しかし一人でも多くの読者が「優れた発想」を生みだすことに役立つことを願って、「夢工学式発想法」を紹介したい。

●夢工学式発想法とは
 これは、発想(発見、発明を含む。以下同文)のための「基本的考え方」と「具体的方法論」を説いたものである。前者は、「夢工学の本質」と「創造の本質」に準拠した考え方を云う。後者は、筆者を含めて多くの人々が取り組んだ多くの「実プロジェクト」の成功と失敗の事例を参考に構築された「シンプル」且つ「実用的」な方法論を云う。以下で順を追って説明したい。

 なお本発想法(夢工学式発想法、以下同文)は、「発想(思考)」だけでなく、「発汗(行動)」も強く求める。そのため「夢工学」の併用実践を薦める。この点が「通常の発想法」と大きく異なる点である。また本発想法が「夢工学式発想法」と呼称する理由は、ここに在る。

夢工学式発想法

●夢工学の本質
 夢工学とは、本稿で何度も説明した通り、夢の実現と成功のための「考え方」と「方法論」を説いたものである。それは、今東西の数多くの成功者と失敗者の実例から「帰納」して導き出された結論を、プロジェクト・マネジメントの考えと方法論と融合させて構築されたものである。従って夢工学の「真の創造者」は、筆者ではなく、彼等である。

 夢工学の本質とは、夢工学が説く様々な内容を絞り込み、トコトン煮詰めて最後に残ったエキスのことである。それを紙面の許す範囲で以下に概説する(詳細は別号で後述)

(1) 「夢」こそ、発想の究極の動機
 「夢」とは、好きなこと、やりたいこと、成し遂げたいことと「同義語」である。この「夢」を持つことによって、それを実現させ、成功させたいという強いパワー(情熱)が心と体の中から自然に湧き起ってくる。

 例えば、社長や上司から仕事の課題を与えられ、その課題解決のために「発想」する場合、心と体の中からそのパワーが自然に沸き起こってくるか? もし起これば、しめたものである。既述の通り、「発想したい」という強い動機を持たなければ、如何なる人物も、如何なる優れた発想法を駆使しても、「優れた発想」は難しい。当然のことと思うだろう。しかし現実は少し違う。その実例として日本の多くの発想法は、何故か、この点の主張が極めて弱い。また発想の技術論ばかりで殆どその主張が無いものもある。

 更におかしな、不思議な事がある。日本の脳科学、脳生理学などの分野の多くの学者は、「脳の使い方」、「脳トレーニング」、「脳の活性化方法」など所謂「発想法」を数多く提唱している。しかし彼らの著書を精査すると、彼らの発想法を彼ら自身の仕事や実生活に本当に活用し、成果を出した事の記述が殆ど無く、学説論や技術論に終始している。多くの企業人は、それを信じて、自らの判断で活用している。誠に無責任な「発想法」の提唱である。

 さて「優れた発想」を生み出したいと云う「強烈なパワー(情熱)」は、発想者が持つ「夢」を是が非でも実現させたいと願う時に最高値に達する。「夢」こそ、発想の究極の動機となる。

 多くの大学、研究機関、そして企業に於いて多くの研究や事業開発の努力がなされている。しかし期待する成果があまり出ていない。何故だろうか? その原因を多くの学者、評論家などが解説しているが、突き詰めると、それらの研究者や事業開発者は、この「究極の動機」を持っているかどうか、「汗と涙と血」を流すことを厭わず、喜んで流しているかどうかである。これらの問いに彼らはYESなら、将来、必ず期待する成果が出るだろう。しかし「夢工学」は、その様な理念論ばかりでなく、技術論の実践も同時に説いているので誤解されない様に願いたい。

(2) 普通の大好き、強烈な大好き、異常な大好き
 夢の実現と成功へのパワー(情熱)は、脳に障害を持っている人物を除き、誰でも持っている。この事実に注目すべきである。このパワーが普通の人物は「凡人」、普通以上に強烈に持っている人物は「才能」のある人物と考える。

 しかし世の多くの人は、例えば、ピアノが「上手」だとか、野球が「巧い」ということでその人物を「才能がある人物」と判断する。しかし夢工学では、それとは全く「逆」の判断をする。

出典:才能? Yahooピアノ&ベースボール

出典:才能?
Yahoo ピアノ & ベースボール
出典:才能? Yahooピアノ&ベースボール

 夢工学は、例えば、本人がピアノや野球が「大好き」である場合、「大好き」であること自体が「才能」を持っていることと判断する。現有する「技術の巧拙」でなく、「大好き」のレベルで才能の有無とレベルを判断する。ピアノや野球が「好きで、好きで堪らない」というレベルが才能判定で最も重要なことである。

 誰しも経験があるだろう。彼女や彼が「好きで、好きで堪らない」時、本人はどの様な行動を取ったか思い出して欲しい。彼女や彼を自分に振り向かせ、恋を成就させるため、全身全霊を投下して、「命懸け」で挑戦したはずだ。「恋」、即ち「大好き」がパワーの源である。

 「大好き」であるからこそ練習に打ち込み、練習の「苦労」を苦労と感じなく、むしろ「喜び」と感じる。その結果、間違いなく上達する。上達すると益々好きになる。好きになるから益々上達する。この「大好き」の度合いが「強烈」を通り越し、「異常」に強烈な人物が存在する。その人物こそが「天才」なのである。

(3) 強烈な大好き人物と異常な大好き人物への発掘、教育
 世の中に埋もれた「才能」や「天才」は、日本に間違いなく実存するだろう。彼らを発掘し、教育し、成長させ、世の中に貢献させる一方、本人に「やり甲斐」や「生き甲斐」を与える。これこそが「真の教育」ではないだろうか。

 日本の明治維新から現在に至る「小~中~高~大~大学院の学校教育」の基本的考え方と教育方法論を、「真の才能教育」と「真の天才教育」の観点と在り方から改革(一種の革命)しないと、いつまでも「普通」の人物の人材教育を今後も続けることになる。これでは、日本が直面した「構造的危機」から脱却出来ず、世界を相手に日本を「発展」させることは不可能になる。

 この「大好きパワー」が普通、普通以上の強烈、若しくは異常に強烈という「格差」があっても、本人が夢の実現と成功のために「汗と涙と血」を流すことを厭わない又は好んで流す場合、その「格差」に拘らず、必ずや「夢」を実現させ、成功させることができる。「夢こそ、すべて」である。

●(4) 理性的思考(左脳)と感性的思考(右脳)
 夢工学は、その誕生が筆者の「直感」を契機で生まれた(参照:筆者の「夢をプロジェクトとして起ち上げる法」)。

出典:人間の両脳と働き fontanalib.wordpress.com   出典:人間の両脳と働き
fontanalib.wordpress.com


  「直感」を信じない、理性的判断に凝り固まった「左脳思考オンリーの人物」は、新しい発想、優れた発想を殆ど生むことはできない。たとえ生んでも、その工学化(新しい技の創造)、事業化(新しいは価値の創造)は難しい。左脳思考だけでは、パワーが生まれず、大好きの感性が機能しないためである。「右脳的思考」が求められる所以である。

 しからば、「左脳思考」で工学化や事業化ができなくても、科学化(新しい知の創造)は可能か? この答えに多くの先人・科学者は「NO」と答えている。

 何故なら、理性的思考の「塊」の様に理解されている「数学」や「理論物理学」などの抽象学問の世界に於いても、「感性的思考」や「耽美的感性」が極めて重要な働きをすると先人・科学者が指摘しているからである。しかも「直感」が重大な科学的発見のヒントになった事実が数多く報告されている。

出典:アルバート・アインシュタイン ecologie-manageriale.fr 出典:直感のイメージ画 www.zenhaling.com
出典:アルバート・アインシュタイン
ecologie-manageriale.fr
  出典:直感のイメージ画
www.zenhaling.com

 筆者の個人的経験からも、上記の通り、「直感」が重要な役割をした。検討に検討を重ね、悩み悩んだ末、突如、先方の方から「発想」や「直感」がこちらに向けて訪れて来る。誰しも経験した事であろう。

 経営の危機の瀬戸際で「直感」を信じて意思決定したことが危機を脱出させたり、事業を成功に導いたケースが数多く報告されている。しからば「直感」は、左脳からか? 右脳からか? どちらの脳から生まれるのだろうか?

つづく

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