関西P2M研究部会
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今どきの進化した公立高校野球

樋口 高弘 [プロフィール] :11月号

 今どきの高校野球、しかも強豪私立ではないごく普通の公立高校の進化した野球について、その高校球児を持つ親として、日常の会話や試合観戦を通じて感ずるところを述べたいと思います。

1. 明確なミッションとプラン、そしてチームワーク
 「打倒強豪私立、念願の勝利に向けて!」、「創部百年を超える伝統野球を貫き通し、全員野球で目指すは頂点!」を掲げて、毎年新チームになると主将を中心にマネージャーがサポートしながら、新しいプランを練り、週間毎に何をなすべきかが落とし込まれています。もちろん途中段階で、試合での振り返りや、外部の新情報やメンバーが気付いた良い取り組みは直ぐに反映するというPDCAを回しています。
 練習試合は必ず2試合あり、1試合目は1軍、2試合目は2軍といったオーダーで、1軍と2軍の浮き沈みを経験させ、競争心と自己研鑽を植え付ける手法が取られています。その沈んだときに個人がどんな反省をし、前向きに取り組んでいくプロセスを監督(先生)は観察しているわけです。考え方については監督との交換日記で正していく方法が取られています。
 冒頭の全員野球、これは本当で、試合での味方チームへの叱咤激励やベンチに入れない者の応援風景を見ていると、お互いに称えあう心を持っていて、それぞれの役目を果たしている一体感があります。足の引っ張り合いが多い社会にはない、純粋な心と仲間意識が根底にあり、競争心が高ければ高いほど、チームワークが醸成されていく真の姿がここにあります。
 今年の夏の甲子園大阪府予選のときでした。部員・生徒・OB・父兄が一体となった甲子園ばりの応援は、対戦校のベンチと応戦席をも飲み込む勢いでした。レギュラーの発案で、レビュラー入りできなかった3年生の最後の夏に、背番号付きのユニフォームで応援してもらう粋な計らいがあり、それは感動ものでした。ベスト16まで行きましたが、試合後の新聞社インタビューでは、耐えてきた練習と一体感のある応援で負ける気がしなかったとのことでした。これが全員野球というものなのですね。

2. 高校生のID野球
 公式戦になると、程度の差はあると思いますが、対戦が予想される相手校の情報収集が始まります。バックネット裏で個人成績を付ける役、ビデオ撮影役、そして監督までが偵察に趣くという、力の入れようです。
 選手個々がどんなボールカウントで、どんな球種とコースを打って、どんな打球でどんな方向へ打ったかを記録していて、単なる試合のスコア表ではなかったので驚きです。これらの情報をもとに、試合までの練習方法と本番の作戦会議が行われます。そこでは唯一貴重な分析屋さんがいて力を発揮してくれているそうです。
 例えば、選球眼はどうか、初球から打っていくタイプとじっくり待つタイプ、どんな球種とどんなコースが強いか・弱いかを分析し、バッテリー間で攻め方の参考にするのだそうです。守備についても打球方向の傾向が参考になるらしく、選手によって守備位置を少し変えていきます。
 また、相手投手の直球の切れ、変化球の球種、決め球は何か、ランナーがいないとき、ランナーがいるときの攻め方の違いなどを分析し、打撃練習で対策を実施します。更にアウトカウントとランナーがどこにいるかで、監督のサインの出し方の傾向を掴み、捕手が野手に対して守備シフトを指示していくのだそうです。
 このように情報を上手く活用して、勝機を掴んでいく戦略が考えられています。これらの実践を通じて、社会人になっても様々な情報分析の機会にきっと役立つはずです。貴重な経験をしているのですね。

3. 科学的な取り組み
 私立強豪校は、監督とスタッフ(特にコーチ陣)と時間が豊富で専用グランドがあるので、様々なバリエーションの練習ができ、個人指導への時間のかけ方も多くなります。一方公立はその正反対であり、コーチ陣がいないことが多く、時間・場所の制約から、練習のバリエーションと個人指導への時間が少ない状況です。そこでその解決策の一つとして、一律に同じ練習を全員でやるのではなく、3つくらいの課題を克服するメニューに分けて同時進行的に進めるところと、合同練習を組み合わせるなど、創意工夫が見られます。
 また、もっと上手になりたい一心で、野球塾のようなところに通って自己を高めようと努力している者もいます。指導内容はDVDで提供してくれるので、チームメイト全員にフィードバックが可能となります。
 しかし昔風の精神野球も残っているようで、近くの山道・階段の上り下りや、器具を使った筋力トレーニングがあり、自分の限界を知るために、ぶっ倒れるまでやり続けるという凄まじい練習があるようです。普段の食事だけでは筋肉疲労の回復が追い付かず、プロテイン飲用が当たり前のようになっています。
 そして有り難いことに、OBが野球部のためにと定期的に訪れ、専門職を生かしてスポーツ医学的見地からの基礎体力強化のためのウェイトトレーニング方法や食事のとり方の指導、マッサージもやってくれるというから、本当に時代は変わったのですね。

4. 最後に
 最後に、放課後のクラブ活動が終わって、学校の図書館、または自分の都合に合わせて学習できる塾通いなどをして、夜10時頃の帰宅、そして翌日朝練のために朝6時半には家を出て、土・日は練習か練習試合の繰り返しです。月曜日がオフらしいのですが、それも自主的に練習する場合が多いそうです。このような状況を見ていると潰れてしまわないか、大変心配になってきますが、一寸の暇を見つけては、チームメイトと食事やレジャーなど、結構楽しく、充実した毎日を送っているようです。
 これも大きな夢と志があることで、自然と努力を重ねていく意欲と、忍耐力を生み出す原動力になっているように思います。プロジェクトでも同じですね。

以上

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