グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第73回)
教員稼業もプログラムとプロジェクトで

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :10月号

 永年、大会を主催する協会の代表を務め、あるいは社業や協会業務で、または研究者として年に30回程度の発表を行っていると、緊張を強いられることがある。協会の大会主催者としては、基調講演者が当日ちゃんと会場に来てくれるかについて常に緊張があり、これに付いては、万一を考えて、常に自分でピンチヒッターとして講演を用意しておいたが、幸いそのような事態はなかった。一方、発表者としては、絶対に穴を空けないようにと注意をしてきた。

 社業で海外からの顧客を迎えて朝一番からプレゼンテーションという日は、最低1時間は早く家を出るようにしていたし、また、万一電車が途中で止まってしまった場合に備え各駅からの代替ルートを常に識別しておく等を行う。電車が止まって横方向にバスで移動して事なきを得たという経験は何回かあった。国内はまだなんとかなるが、海外に講演や講義にでかける際は、往路は出番の日の前々日のフライトを予約するなど、常に余裕をもって日程を組む。

 9月16日には大型台風18号が日本を襲って長距離交通網は大混乱した。私は16日に翌日からの大学院での講義のため羽田から小松行のフライトを予約していたが、前日朝家で天気予報を観ていると、どうもこの台風は本気で日本を襲う気であると気がしてきた。とすると午後3時のフライトでは欠航か、飛んでも大幅な遅れの怖れありと予測し、急遽一日早めて空港に行き、無事フライトの振替ができた。これは大正解であり、当初予定のフライトは欠航であり、羽田空港にはキャンセル便の客があふれ、それでは16日中に石川に着けたかどうかわからなかった。

 9月に入ったら8月第4週にフランスでのWorld Doctoral Seminarの集合写真が届いた。この写真を見るとPM世界の広さを感じていただけると思う。

 上旬に、同じフランスの大学院で私がスーパーバイザーを務める博士課程生の指導で4日ほど中国蘇州市を訪問した。蘇州にはフランスの大学院の中国キャンパスがある。中国にはこれまで3回行っており、とくに2006年に上海で開催されたIPMA(国際PM協会連盟)世界大会が思い出深い。中国が開催したマネジメント分野で最初の大規模大会であったが、セレモニーが中国語だけで進行されるという実に中国らしい大会であった。

 今回は、私が指導教員に指名された学生につき、学生が社会人(エクゼクティブ)であり、当面多忙でフランスに来られないため、当方から出向き、研究テーマの具体的な内容、産業研究とアカデミック研究の違い、研究ステップ、研究アプローチなどを確認したものだ。コミュニケーションは少し大変であったが、やっておいてよかったと感じている。

 蘇州は中国のベニスとか言われていて(蘇州はベニスより数百年前に作られた町であるのでこの表現はいかがなものか)水路が多く風情があり、静かでゆったりした都市である。また、素晴らしい庭園が多く、東京の中国料理レストランで有名な留園は、蘇州の中国六大庭園に数えられる留園がその由来であると分かった。蘇州料理は日本料理に近く、自然の素材を生かした魚、野菜、鶏肉等を少量づつ味わうもので、実に美味であった。有名な上海蟹は実は蘇州の湖で獲れると分かった。局地的に蘇州という都市を観察しただけではあるが、中国も実に豊かになったと実感できた。蘇州は日本企業の進出も多く、ホテルにも日本語のできるスタッフが5名くらいいて、大変暖かく客人をもてなしてくれた。一夕40数度の白酒(パイチョウ)で90分間乾杯の連続をしたが全く大丈夫であったのは。ウクライナやロシアで普段からウォッカで訓練している賜物か。

 蘇州から帰ってきて、次にやったことはウクライナ国立造船大学がホストの、ウクライナPM協会の年次秋季学会への記念プレゼンテーション作成で、今年は私は日本の講義で出席できないので、ウクライナPM協会長が代わりに講演をしてくれた。ホストである国立造船大学(プロジェクトマネジメント研究の拠点校のひとつ)は、今回英語の学術ジャーナル “Journal of Marine Economy & Management”を発刊した。創刊記念号には私も論文を寄稿した。世界の造船業界は、シェアで中国45%、韓国35%、日本10%であり、残りをEU+そのほかヨーロッパ、ベトナム、オーストラリア、など海洋国で占めている。中国と韓国は安泰であるが、日本他はまさにイノベーションが業界の明日を左右する。

 17日から20日までは北陸先端科学技術大学院大学でプロジェクトマネジメント実践編応用の集中講義を行った。今回は英語の講義であり、受講学生は全員ベトナム人であった。みな優秀であり、英語も問題なしで、演習でも非常に良い成果がでた。私も世界の30数ヶ国籍の大学院生に教えてきたが、Critical Thinking (つまり地頭の良さ)ではベトナムの大学院生はかなり上位である。

 そして21日土曜日には慶應義塾大学大学院でのグランデザイン・バイ・ジャパン月次フォーラムに出席して素晴らしいインプットを得てきた。最新の韓国と中国の経済状況や内国問題について両国の気鋭の学者からの報告である。

 そして本原稿締切り間際の今は、28日にでかけるクロアチアでの世界大会での発表準備、11月のモスクワの国立大学での2日間講義の教材作り、その合間に中国の学生の論文の初稿のリビューなどを同時並行でやっている。今月は、どこで、どの国向けに、何をやっているのか一瞬分からなくなるような月であったが、私の教員生活全体が一つのプログラム〈世界でイノベーション志向マネジメント人材を育てる〉の下、いくつものプロジェクトが走っていることは確かであり、このようなことはPMの経験があってはじめて可能となる、と解釈している。

 来月はクロアチアの世界大会を中心に報告を行う。  ♥♥♥



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