理事長コーナー
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均衡と前進を掲げる欧州の夏

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :9月号

 欧州を中心とした国際的プロジェクトマネジメント(PM)の連合体であるIPMA (International Project Management Association) は、1964年にPMの小さな研究活動を開始し、翌1965年にIMSA (International Management Systems Association) として公式に発足、冷戦中のため永久中立国スイスに本部を置いた。1967年に公式名称を一時的にINTERNET (INTERnational NETwork) と称し、1970年代に現在のIPMAに改名した。現在は55か国の加盟PM団体からなり、米国PMI (Project Management Institute) に次ぐ国際PM団体である。2015年には記念すべき50周年大会を迎える。昨年の世界大会は、欧州金融危機の引き金となったギリシャのクレタ島にて開催された。ギリシャは云うまでもなく、西洋文明発祥の地である。さて、今年の開催国はクロアチア共和国である。

 欧州を二度の戦場とかした悲惨な戦禍を繰り返さないことを誓い、1948年から話合いがなされた欧州石炭鉄鋼共同体が1951年に調印され、超国家体制への歩みを始めた。1958年には、石炭鉄鋼に加え経済とエネルギーを加えた欧州経済共同体と欧州原子力共同体の3共同体へと移行した。1993年のEC (European Community:欧州共同体) の発効による経済統合をへて、2009年に政治・司法の共同化も実現させEU (European Union:欧州連合) となった。その翌2010年、リーマンショックからの立ち直りかけた世界経済を震撼とさせた事件が発覚した。政権交代によって暴露されたギリシャの財務粉飾に端を発した欧州財政危機が訪れ、現在もなお不安は消えていない。報道からは、EU首脳陣の不協和音も聞こえるが、EUを再分裂させない強い意志が感じられる。第一次世界大戦では約1000万人 (欧州主体) 、第二次世界大戦では6000万人 (全世界) におよぶ戦死者、さらに戦傷者と行方不明者を含めれば、犠牲者この数倍となると云われている。特に、第二次世界大戦では民間人犠牲者が軍人のそれを上回った。欧州はこの悲惨な現実をバネに、強い意志を持って、戦争の無い、自由で平和な政治・経済・社会の統合を目指していると思う。

 EUは現在28ヶ国から構成される連合だが、最後の参加国が今年2013年7月1日に加盟したクロアチア共和国である。現在のクロアチアには、6世紀にブルガリア、セルビア、クロアチア、スロヴェニアの4民族が住みついたが、東西ローマ帝国の力関係の狭間でローマカトリックと東方正教からの影響を受けた。10世紀初頭には最初の独立国が建国されたが、11世紀にはヴェネチアとハンガリーの両強国に翻弄され、徹底して弾圧を受けたが、12世紀初頭からはハンガリー王国 (後のオーストリア・ハンガリー帝国) の支配下ではあったが、政治的にはある程度安定し、ハプスブルク家の影響によるヨーロッパ文化を享受することが出来た。この間もモンゴル帝国やオスマン帝国の強い影響を受けている。15~16世紀にアドリア海に面する貿易都市として栄えたのが、今年のIPMA世界大会が開かれる古都ドブロヴニク市 (Dubrovnik) である。

 オーストリア・ハンガリー帝国が没落して以降、第一次世界大戦から第二次世界大戦へと混乱の中にあったクロアチアは、第二次世界大戦後、チトー大統領が率いるユーゴスラヴィアとして独立し、非同盟、自主管理社会主義を貫いた。ベルリンの壁の崩壊後の1991年に独立宣言を発表したが、それを阻もうとするユーゴスラヴィア連邦軍と戦い、武力では不利の中、1992年1月に共和国として独立を認められた。しかし、その後も紛争が続いたがNATOと国連が介入し、2001年には収拾した。北側にスロヴェニア、ハンガリー、東側にはセルビア、そして南側にボスニア・ヘルツェゴヴィナが食い込むような形で国境を接する。逆V字型の国土で、逆V字の1辺がアドリア海に細長く接し、その南端に飛び地としてあるドブロヴニク市はモンテネグロと接する。対岸には大国イタリアがある。

 IPMA世界大会のテーマは、“Finding Balance and Moving Forward”である。直訳すると「バランスを取り、前進しよう」である。長々とクロアチアの歴史を調べたのも、このテーマの意味するところが、大変微妙で重たいことを知ったからである。更に、クロアチアの立場はもとより、広く欧州の政治・経済全体の立ち位置、更には、新興国の成長に陰りが見え、特に伸長著しかった中国の経済成長が停滞しはじめた世界情勢を鑑みて、まさに今という時代に相応しいテーマであると痛感する。P2Mのプログラムマネジメントの根本に通じる重要なテーマである。決断し、前進してこそ、新たな展開が得られる。

以 上

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