PMプロの知恵コーナー
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「原発事故」 (9) 外部電源の供給

仲 俊二郎/小石原 健介 [プロフィール] :9月号

 現在第一原発の現場で直面している最大の問題は増え続ける汚染水の処理です。目下東電が進めている対策は1号機の岸壁近くの土を薬剤で固めて遮水壁を造り汚染水が海へ流出するのを防ぐ工事を進めています。工事は2013年7月8日に開始。1、2号機タービン建屋の護岸近くの地下に、長さ約90mにわたって地下2~16mの深さまで薬剤を注入して固めています。
 問題はこの遮水壁で地下水がせき止められ、行き場がなくなったために水位が急上昇し、すでに遮水壁の上端を上回り、海への流出が防げない状況となっていることです。東電は、遮水壁を延ばして汚染水が広がっていると見られる場所を2013年10月までに取り囲む追加対策を考えています。この東電が進めている応急対策では海への流出が止められず、事故から2年半たった今も事態打開の兆しは見えていません。最近の報道によると、いつの頃からか分からないが、1日300トンの汚染水が海へ流出している。このように東電の汚染水対策はすでに破綻しており、ここに至って政府が国費を使って対策に乗り出しました。こうした結果になることは、既に以前から分かっていたことで、東電の隠蔽体質と無責任体質が招いた結果以外の何者でもありません。
 汚染水の処理についてはすでにアメリカの原子力技術者アーニー・ガンダーセンが2011年10月14~16日にかけて行ったロングインタビューで、次のような対策を提案しています。

 「汚染水はコンクリートの割れ目から地下へと流れ込んでいる。地下に原発全体を囲む遮水壁を建設すべきである。そしてまず海とは反対側に基岩まで到達する厚さ2m、高さ20mの壁を立てる。敷地内はすでに汚染されているので、地下水を通じた拡大を食い止めるためにはまず敷地の外からの地下水の侵入を食い止める。壁の中には火山岩であるゼオライトを詰める。これは多孔質で吸収性が高く、セシウムに対して特に有効だ。5,6号機の建屋地下部分でも放射線が検出された事実は、汚染が地下水を通じて少なくとも数百m移動していることを示している。これが数キロのわたって広がってしまえば、一帯は長年にわたり居住に適さなくなるだろう。ゼオライトの壁で全体を囲み、敷地内に設置した注水ポンプにフイルターを装着すれば放射性物質を処理できる」

 そしてガンダーセンはまるで将来を見通すかのように、「こうした対策が可能であるにもかかわらず、日本政府が東電に経済的な決断を許し、東電まかせにしている」点を憂慮していました。
 東電が進めている継ぎはぎだらけの応急対策と、ガンダーセンが提案している地下水の源流管理に基づく抜本的対策との優劣は、誰が見ても明らかです。そしてこの提案のあった時点で直ちにこれを採用、実施に移しておれば、もう2年を経過しており、現在の汚染の拡大を防げない危機的な状態は解消されていたと思われます。
 汚染水問題については、新たに汚染水タンクからの漏出が明らかとなり、原子力規制委員会は国際的な尺度でレベル3「重大な異常事象」にあたるとの見解を示しています。地上タンク約1千基のうち、約350基がフランジ型と報道されており、東電によると「今回漏れがあったタンクは2011年10月から使いはじめたもので経年劣化は考えにくい」と説明しています。
 しかし過去4回の水漏れはすべてフランジ型でした。そもそもゴム製のパッキンの劣化や、施工不良、締め付けボルトのバランス不良に加え、点検やメンテナンスの観点からみても、汚染水タンクにフランジ型を採用したこと自体が大きな誤りです。また、現在、放射能物質を除去する装置は腐食が見つかり停止していると聞いています。なにしろ炉心の冷却には海水を使用しているのですから、腐食への配慮は重要です。なぜこうした技術的な判断を誤り、凝りもせず深刻な問題の傷口を次々と広げていくのか不思議でなりません。

 また、どんなタンクにしろ1,000基以上も作って、これを配管でつなげば継ぎ手フランジは莫大な数に上ります。継ぎ手が増えれば増えるほど、ボルトが均等に締っているか?フランジ面の歪はないか?パッキンの種類は間違いないか?など、一つでも抜かっておれば水漏れのトラブルは増えてきます。1,000基以上ものタンクが存在する、こんな馬鹿げたプラントはどこにもありません。
 東電は最初漏れた量は2ヶ所の水たまりで計120リットルと発表。翌日タンクの水位を確認すると漏れた量を300トンに訂正。しかもどのタンクにも水位計が付いていないという。あまりにも杜撰な管理に驚く他ありません。
 カナダの原発で原子炉責任者時代も含め10年間現場の技術者としての実務経験を持つ神戸商船大学卒の日本人技師が、テレビではじめて汚染水が海へ流出しているとの報道を見て、カナダの自宅で「なぜ旧いタンカーを原発へ急行させて、汚染水をタンカーにとりあえずポンプアウトしなのか」とテレビに向かって怒鳴っていた話を思い出します。タンカーであれば30万トン、40万トン単位で汚染水を保管でき、底は二重底になっており汚染水が海へ漏出することは絶対ありません。
 汚染水問題に限らず原発事故については、原発メーカーの技術者や原子力技術協会の専門家その他各種技術者団体組織から東電や政府へ意見具申や批判が一切出てこない。これは極めて異常な現象です。

8 外部電源の供給は原発運転の命綱ですが、これに対して東電はどう対応していたの?

 電源というのは原発のみならずあらゆるプラントにおける命綱です。まして原発のような危険なプラントにとって、その安全な冷温停止のためには絶対に失われてはならないものであります。通常時には、発電所の外から引かれている送電線を使い、原子炉の運転・監視を行っています。これが「外部電源」とよばれるものです。ちなみに原発をコントロールするための「電源」には次のようなものがあります。

図表8 「原発をコントロールするための電源の種類」

外部電源{交流}
原発外部の変電所から、送電線を使って送られてくる電気。通常は複数の系統から送られてきている
非常用ディ―ゼル発電機(交流)
外部電源が失われた時に使用するディーゼル発電機で原発1基につき、複数台設備されている。
バッテリー{直流}
全交流が失われた際に使う蓄電池、制御室野照明・監視機能や、一部の冷却系統の稼働など、限られた用途にしか使えない。充電なしで8時間ほどもつ、原発1基につき複数準備されている。
電源車(交流・直流)
「電源盤」を通じて給電したり、バッテリーに接続して充電したりできる。
原発敷地内にも準備されている。

 福島第1原発の外部電源は、「新いわき開閉所」から「新福島変電所」を経て供給されていました。しかし今回の地震により、鉄塔の倒壊や遮断器などの変電設備の損傷が発生して、制御盤も水没し、受電不能の状況に追い込まれました。
 外部電源の喪失については、1990年代から研究機関や原子力安全委員の一人からその危険性を繰り返し指摘されてきたところです。しかし安全委員会や東電が取り組むまでには至らず、事実上放置されてきました。
 今回の震災では鉄塔の倒壊などが起き、1系統の外部電源はすべて喪失しましたし、津波で非常用ディーゼル発電機も動かなくなりました。なぜ繰り返し指摘された重要な点が、こうまでして放置されたのか。もし指摘通り対応しておれば、全電源喪失は起きなかっただろうし、今回の事故は防げたのです。
 この点は福島第1原発から12kmほど離れた第2原発が無事原子炉の冷温停止に成功している事実からも分かります。第2原発は約8km内陸に入った新福島変電所から外部電源を取り入れており、50万Vの「富岡線1、2号」、6万6000Vの「岩井戸線1、2号」という2系統、4回線がありました。4回線中3回線が地震で停止。富岡1号の1回線だけが生き残り、これが第2原発を救う鍵となったのです。そして地震により停止した他の回線は翌日に復旧しています。では1995年の阪神大震災の時はどうだったのでしょうか。あの時は原発ではありませんが、鉄塔電設備などが破損し、送電網の脆さが表面化して問題になりました。このことから研究機関で地震による原発の炉心損傷を伴う事故が起きる可能性を指摘し、その原因のうち外部電源喪失が66%を占めると警告しました。
 また2001年から2006年にかけて原子力安全委員会は耐震指針の改定作業をしています。委員の一人が1906年から数回にわたり、外部電源を耐震指針の対象にすることを提言したのですが、結局盛り込まれませんでした。この時、原子力機構出身の委員が外部電源の重要性について東電に問いただしたところ、何と東電は、「外部電源が喪失しても1.5時間で冷温停止が出来る」と説明していたのです。これは「電源が原発にとっての『命綱』で、いかに重要なものか」を全く理解していない驚くべき説明です。

 事故発生から5日間の時系列表や東電の内部資料「東電テレビ会議の記録」を見ても、この5日間の間で外部電源の復旧工事に着手した記録はありません。
 繰り返しになりますが、今回の事故で一番残念に思うことは。「なぜ間髪をいれず外部電源の復旧に全力を注ぐことができなかったか」と言うことです。非常用電源とか、バッテリー電源はあくまでも外部電源が復旧するまでの緊急用ですから、原子炉を安全に冷温停止させるには外部電源を一分でも一秒でも早く復旧させることが絶対に必要なのです。最悪の事故を防ぐためには、翌日、つまりバッテリー電源のある8時間以内に必ず復旧しなければなりません。
 私たちの日常生活においても電気が丸一日24時間も停まればそれこそ大変なことになります。原発でも全く同じことです。福島第1原発では残念ながら、炉心のメルトダウンや原子炉建屋の水素爆発など最悪の事態を全て招いてしまいました。しかもその大事故からから6日経った17日の朝になってようやく作業を始め電源が復旧したのは20日の午後3時46分。これは事故から復旧まで実に9日間もかかっています。私たちの日常生活で電気が9日間も停まることは想像もつきません。取り返しのつかない事故を起こしてから電源を復旧しても手遅れです。電源の復旧こそは、電力会社の専門分野、他の容喙を許さない絶対領域である。電力会社が設計上主張してきた、最大8時間の停電を遥かに超える全電源喪失と言う全く信じられないことが起こったのです。
 非常時に備え、電力の供給ルートは複数にすべきでした。この点は福島第2原発の事例からもよく分かるところです。福島第1原発では1系統の供給ルートの鉄塔は地震で倒壊し、外部電源の供給のすべてを断たれました。そもそも鉄塔自体は台風の自然災害に無防備だし、今回の地震により、脆くも倒壊しました。2001年に旧原子力研究所が、原発の安全性の向上を図るため、送電網全体を強化する大規模な改造の必要性を指摘したのですが、いっさい無視され、何ら対策がとられないまま放置されていました。このことが今回の放射能汚染の大災害を招いた最も大きな原因なのです。

原発運転の「命綱」である電源、なかんずく外部電源について、その重要性は本当に認識されていたのか? 長期にわたる全電源の喪失は本当にないと考えていたのか?

9 原子炉核燃料のメルトダウン(溶融)を避けるための装置設計は出来ていなかったのですか

 メルトダウンの主因はあくまでも全電源を失ったために起こった全冷却系の喪失によるものです。外部電源を失っても機能する1号機の非常用復水器ICが機能しなかった理由は、原子炉で発生した蒸気を復水器へ通す蒸気弁を開閉するための電源、すなわち非常用電源およびバッテリー電源の喪失に起因するものです。同じように2号機、3号機の緊急炉心冷却システムの原子炉隔離時冷却系、残留熱冷却系などが機能しなかった理由も同じです。運転員の操作ミスという指摘もあるが、このミスは結果とは関系ありません。地震による緊急停止(スクラム)後、このICは自動的に起動した。設計上は、起動後8時間は水の補給がなくても原子炉を冷やせることになっていたが、実際には、津波襲来直後の全電源喪失により原子炉の冷却機能は失われ、その3時間後には1号機では燃料の損傷がはじまったと推定されています。

カナダの加圧型重水炉CANADU非常時冷却装置
 カナダの原発では原子炉建屋の屋根にはDowsing Tankではと呼ばれる原子炉の冷却水を喪失した場合に備えての貯水槽が設置されている。これは電源を喪失し冷却水ポンプが停止しても充分な水を貯えており、非常時には、原子炉を完全に水浸しにして、燃料が露出するようなメルトダウンは避けられる説計上の配慮がなされている。福島第1原発のように、緊急炉心冷却システム(ECCS)も非常用復水機器IC)も電源喪失により機能不全に陥ったケースとは異なる。
 Dowsing Tankのように非常事態に備え重力を利用した知恵は産業プラントでは一般的であり、また舶用機関では電源喪失の際、エンジンを守るためオイルポンプの停止に備え、潤滑油タンクは煙突の中などの高所に重力タンクとして設置されている。マンションでは屋上に水タンクが設置されているのも同じ考えです。
 東電が事故発生2ヶ月を過ぎて初めて第1原発1号機の事故当初の様子を詳しく解析した。この解析は中央制御室の計器に残された温度や圧力などのデータのほか、当時の対応などの聞きとり調査が進んだためだと説明している。
 専門家の間では3月11日の地震や津波で急速に燃料の溶融は進んだという見方があったが、これまで炉心の状態を示せるほどのデータがなかった。東電は推測として1号機の燃料棒は、地震発生からしばらくは形状を保っていたと説明してきたが、解析結果は急激に燃料損傷が進んだことをうかがわせる。
 原発事故対応の三大原則「止める」「冷やす」「閉じ込める」を確実に 実行するには、どんなことがあっても全電源喪失を起こさない設計にすることが絶対要件であり、長期にわたる全電源喪失の場合、メルトダウンを避けるための有効な手段は見つからない。

図表9 1号機原子炉内の解析結果



原発の過酷事故シビアアクシデントが実際どのように進んだか東電は2ヶ月を過ぎて初めて1号機の事故当初の様子を詳しく解析した。専門家の間では11日の地震や津波直後に急速に燃料の溶融が進んだという見方があった。
図表9 1号機原子炉内の解析結果
1号機の原子炉圧力容器の3月11日時点での状況
 11日1号機冷却系統機能喪失、17時0分より炉心露出、20時0分炉心溶融が始まり、大量の燃料が溶融し、圧力容器の底部にたまる「メルトダウン」がおきていた。東電がこれをはじめて認めたのは「メルトダウン」から2ヶ月後の5月12日であった。この時点で東電によると圧力容器の水位は底部から4mの位置にあり、高さ20mの圧力容器全体の2割生かしか水がたまっておらず、底部には合計すると直径数cm程度の大きさ相当する複数の穴があいていたとみられる。これを裏付ける事実としてこれまで1万トンを超える水を圧力容器に注水したが3、000トンの水が行方不明となっている。

原子炉圧力容器

 原子炉の穴あき、格納容器の破損により密閉された径路の中で熱や冷却水を循環させる最も基本的な前提条件は失われています。「冷温停止」とは、液体状の水が、4mもある燃料棒と想定通りに触れていることを意味します。低温の水が適切に接していれば燃料の内部まで冷却されていると考えられます。ところが1~3号機の炉心は冷しやすい棒状ではなく、塊となって原子炉の底へ溜ったり、さらには格納容器へ抜け落ちたりしていると、注水は続いていますが、塊と化した炉心は中心部がいまだに溶融しているでしょう。格納容器から汚染水が漏れ続け、それが地下水へ混じり海に流出している深刻な事態打開の兆しは見えない。

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