「原発事故」 (8) 日本の機械技術力は世界最高なのに、どうして外国から
5 日本の機械技術力は世界最高なのに、どうして外国からロボットやクレーンを借りなければいけなかったのですか
不思議に思われて当然でしょう。日本には世界に誇る技術力を有する企業や技術者たちが多くいます。それなのに外国から借りねばならなかったのですから。ある大手重機械会社の実例ですが、原発事故に備え作業ロボットの開発を進めました。ほぼ完成したころで東電に話したところ、「日本の原発では事故に備えたそんなものは不要である」と一蹴されました。結局、開発費は無駄カネとなり、開発がストップして責任者は左遷されたといいます。
ではなぜこうした日本の高い技術を生かすことが出来なかったのでしょうか。それは「原発では絶対に事故は起きない」という論拠のない「安全神話」を信奉し、日本の産業支配の頂点に君臨してきた東電の傲慢さがあります。さらにはその背後には学界やメディアが控え、東電とタッグを組んで政治に対して大きな影響力を行使してきました。そして東電を指導する立場にある政府の無策もあいまって、ロボット不要論に至ったのです。
しかし状況は逆転しました。廃炉と放射性廃棄物の処理に当っては、格納容器内に入って核燃料を適切に処理するロボットの開発なしに、作業を進めることはできなくなってきています。しかし東電も政府も口で言うだけで、まだこの設計には着手しておらず、その開発に今後何年かかるか見通しさえついていません。
機械技術に加え、日本が誇るプラントエンジニリング、地震学者、研究機関をはじめ、これまでわが国の多くの分野における専門家、識者などが行ってきた様々な指摘、懸念、意見具申は、あろうことに「安全神話」や原子力ムラ、東電らにより、意図的に退けられてきました。わが国が誇るさまざまな分野の力が結集されず、ひと握りの原子力ムラの住人や東電の保身や利権によって意のままに牛耳られてきたのです。このことが今回の原発事故の悲劇を生んだと断言できるでしょう。
原発では、我が国の高度な技術力や多くの専門分野の知見を、原子力ムラの閉鎖性、排他性、東電の傲慢さにより生かすことが出来なかった |
6 福島原発の機械設備は40年前の古いもので、その後、改良改善をしていなかったと聞きますが、まさか本当なのですか
残念ながら本当です。地震や津波の自然災害、シビアアクシデントに対応出来ない設備になっていました。東電によると福島第1原発の1号機は1971年3月から、2号機は1974年7月から営業運転をはじめています。最も新しい6号機は1号機から遅れること8年、1979年10月に運転を開始しています。
1号機の運転から40年を経過していましたが、海抜4mに設置されていた1号機から6号機の非常用発電設備12基は津波により全て機能不全となりました。唯一6号機の非常用発電設備の中で1基のディーゼル発電機のみが例外で、海抜13,2mの高所に設置されていた空冷式の装置であったことから、津波の被害を免れています。この1台が生き残り5号機にも電力の融通を行い、残留熱除去系ポンプに給電し、最終的に5号機、6号機の原子炉の冷温停止を実現しました。
特に海岸エリアの低地に設置されていた非常用発電設備は、発電機そのものの水没に加え、発電機の冷却用海水ポンプも津波で損傷して使えなくなったことから見ても、なぜ空冷式に改善しなかったのか、看過できない点です。
その他40年前に想定した設計条件や安全対策が果して最新のものへ更新されてきたのかどうか、ということについて、先ず津波対策については実は建設時より強化されてきました。建設当時の津波高さの想定は3.1mでしたが、その後2002年に土木学会が行った津波評価基準に基づき、5.7mに、さらに2009年には6.1mに見直されました。しかし今回はこの想定を遥かに超える11.5~15.5mに達したのです。
しかし一番の問題は、非常用発電設備の空冷化、設置場所の移転ならびに送電網全体を強化する大規模な改造が見送られたことです。この指摘を忠実に実行しておれば今回の事故を確実に防げたことは6号機の非常用発電機の高所への移設と空冷化で立証されています。この点は何と言っても最も悔やまれる点です。そしてその他のプラント設備も、ほとんど改良・改善がなされていませんでした。
例えば原子炉格納容器の圧力を下げる非常用ベント弁が電源を喪失した時に備え、電源に頼らない油圧や空気圧によるバックアップ装備を備えておくべきでしたが、40年前のまま放置されていたのです。その他の非常用炉心冷却系の非常用復水器、原子炉隔離時冷却、高圧注水、高圧炉心スプレイなどの弁類についても同様です。
一方、第一原発から南へ約12km行ったところに、11年後に稼働をはじめた第2原発があります。今回、地震と津波は襲ったのですが、海抜12mにある原子炉建屋もタービン建屋もほぼ無傷でした。また外部電源も2系統持っていたのでその中の1系統が生き残り、全電源喪失という最悪の事態を招くことなく定格出力運転中の4基の原子炉はいずれも安全に冷温停止に成功しています。
こういった事実を考えると、第1原発でなぜプラントとしての改良改善を怠ったのか、不思議でなりません。その責任は重大です。地震、津波、シビアアクシデント(過酷事故)のいずれの対策についても、東電や保安院が危険を認識していたにもかかわらず、いっさいの対策を先送りしてきました。今後、同じ過ちを繰り返さないためにも、なぜそうなったのかを厳密に精査しなければなりません。国会事故調査委員会報告書は、「適正な改良改善をほどこしておれば、事故は防げた可能性がある」と指摘していますが、まさにこの通りです。
7 非常用発電機と燃料タンクを最も危険な海岸沿いの低地に設置したのは、何か理由
これは全く津波による被害を想定していなかったからです。最も配慮せねばならない燃料タンクは、臨海という観点から、船からの給油に便利な海岸エリアに設置され、またその近くに非常用発電機も設置されていました。そこは海抜たった4mしかなく、最悪の場所です。では原子炉建屋やタービン建屋などがある主要建物エリアはどうかというと、これも不十分で、1号機から4号機は海抜10m。5号機と6号機の非常用発電機は海抜13,2mに設置された6号機用1基を除き敷地も海岸エリアに位置し、海抜4m。そして5号機、6号機の主要建屋エリアは、海抜13mでした。
想定されていた津波の高さ最大6.1m対し、今回は最大15,5mに達したため、1~6号機と主要施設の全域が浸水しました。
図表7 「非常用発電機の設置高さ」数字は海抜高さ(m)
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1号機 |
2号機 |
3号機 |
4号機 |
A系 B系 |
4.9 2.0 |
1.9 10.2 |
1.9 10.2 |
1.9 10.2 |
注:2号機、3号機のB系(空冷)は電源盤浸水により喪失。他は全て浸水により喪失。
想定されていた津波の高さが最大6.1mであるにもかかわらず、一部を除き非常用発電設備も燃料タンクも海抜4mの海岸エリアに設置されていたわけで、それだけでも非常識であり、たとえ今回ほどの大津波でなくとも、冠水している状態です。全く弁明の余地はありません。
3月13日夜の記者会見で東電社長がこう説明しています。
「一番の問題は津波によって非常用発電設備が冠水したことだ。これまでの想定レベルを大きく超えるレベルだった」との説明はどう理解したらよいのか、無責任という他はありません。第1号機から4号機までは、一部を除き、同じ設計思想で設置されています。津波の影響に対して危険なレイアウトが、そのまま放置されていたのです。このため真っ先に非常用電源が喪失し、最悪の事態を招きました。
本来であれば非常用発電機と燃料タンクなどの関連設備は、津波災害を想定し、安全な高台へ移設すべきでした。またエンジンについても、水冷よりも、冷却水のいらない空冷式に設計をするべきでした。プラント設備のオペレーションという観点から見れば、極めて初歩的な留意点がことごとく無視されてきたのが第1原発なのです。
ちなみに関電PWR型大飯原発3号機、4号機では、空冷式非常用発電機が 海抜33.3mの高台に設置されています。またハード面の強化に加え、地震や津波に備えて、非常時に限られた時間内に確実に運用ができるように、組織や訓練の強化に取り組んでいます。電源車や空冷式非常用発電装置を速やかに稼働させる要員として、休日や夜間を問わず人員の確保、そして電源車の配置や電源ケーブルの接続などの訓練を、日常的に繰り返し実施しています。またバッテリー主要電源盤は海抜15.8m、中央制御室は海抜21.8mに設置されていて、今回のような大津波がきても全電源喪失を招くことはない設計になっています。
想定されていた津波の高さが最大6.1mであるにもかかわらず非常用発電設備や燃料タンクは建設当時の位置、海抜4mの海岸エリアに放置されていたのか?東電の怠慢は明らかに人災である。
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