東京P2M研究部会
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2012年度 東京P2M研究会活動報告 -水ビジネスの研究-(その3)

水ing株式会社 内田 淳二 [プロフィール] :8月号

前回のおさらい

前回は、日本の水道事業は高度経済成長下の需要を前提にして設備投資が行われ事業運営がなされて来たが、人口減少が明らかになり大量生産大量消費型経済から省エネ環境重視型経済への転換が定着しつつある現在、水資源大国日本の水道事業も新しい取組みが求められているというお話をした。今回は、持続可能な水資源循環についての考え方を通して、旧来型水道事業の枠組みにとらわれない「日本の水ビジネスの進むべき方向」を探ってみた。

IWRM:Integrated Water Resource Management水資源統合管理について

IWRMは、水資源を開発、管理するうえで有効な手法として国際的に認識されつつある概念であり、
水ビジネスが創出する事業価値の評価基準となるものである。その起源は世界が環境問題の解決に向けて動き出した20世紀後半にさかのぼる。以下、NPO法人日本水フォーラムホームページ に拠り、本概念の全体像を以下に引用する。

===================引用=======================
定義・由来
定義 水や土地、その他関連資源の調整をはかりながら開発・管理していくプロセスのことで、その目的は欠かすことのできない生態系の持続発展性を損なうことなく、結果として生じる経済的・社会的福利を公平な方法で最大限にまで増大させることにある。(世界水パートナーシップ:2000)
由来 水と環境に関する国際会議(1992 年ダブリン)で採択されたダブリン宣言に大きく影響を受けている。
ダブリン4原則
1. 水資源は有限な資源である。
2. 水資源開発・管理は参加型アプローチに基づくべきである。
3. 水供給、管理、保全において、女性は中心的な役割を果たす。
4. 水は経済的な価値を有し、経済財として認識されるべきである。
-統合の意味
(1) 自然界を統合的に考慮する。
水資源と土地資源、水量と水質、表流水と地下水など、自然界での水循環における水のあらゆる形態・段階を統合的に考慮する。
(2) 様々な水関連部門を統合的に考慮する。
従来別々に管理されていた水に関連する様々な部門を統合的に考慮する。
河川(治水)、上下水道、農業用水、工業用水、環境のための水、等
(3) 様々な利害関係者の関与を図る。
中央政府、地方政府、民間セクター、NGO、住民などあらゆるレベルの利害関係者を含む参加型アプローチ(ジェンダーの視点は特に重要)

-統合水資源管理(IWRM)に関する国際目標:会議宣言(年度・開催地)/内容
ヨハネスブルク実施計画:持続可能な開発に関する世界首脳会議(2002年 南ア/ヨハネスブルク)
目標⇒2005年までに各国は統合水資源管理計画ならびに水効率化計画を策定する
第3回世界水フォーラム閣僚宣言(2003年 京都)
  目標⇒ 「我々は、2005年までに統合的水資源管理及び水効率化の計画を策定することを目標としており、開発途上国、特に後発開発途上国、及び市場経済移行国に対し、そのための道具や追加的に必要な支援を提供することにより、支援する。この目的のため、我々は、関心を有する民間のドナーや市民社会組織を含む全ての関係者がこのプロセスに参加することを慫慂する。」
===============引用 終わり=======================
持続可能社会実現に向けて水資源の統合管理の実現に向けた活動は、各国政府が主体となって推進することが約束され今日に至っているが、統合の領域が広範囲に渡る為か、確たる活動成果の報告は得られていない。特に開発途上国にとっては、IWRM実施手法の開発が遅れており実施が困難な状態にあり、先進国が主導してIWRM計画・実施の手法を開発して行く必要があるとされている。

IWRM志向ビジネスとEPC+O&M志向ビジネスの立ち位置の違い

オンライン4月号で紹介した水ビジネスの対象市場は、従来の水資源の「開発・利用」の視点での予測に基づくものに止まっており、水資源の「維持・管理」の視点が足りないと述べた。水ビジネスが巨大なマーケットであるにも関わらず具体的なプロジェクトの立ち上がりにスピード感がないのは、ビジネス創出に不可欠な顧客志向の観点が欠けているのではないだろうか?
-水ビジネスの難易度
図は、事業の対象が科学・技術系か人間活動系を扱うかによってシステムとしての難易度がはっきり分かれることを示したものである。水ビジネスが対象としている事業をこの図に落とし込むと冒頭に挙げた既存の水ビジネス対象事業は、科学技術系のプロジェクトの範疇にあり、IWRMが目標とする持続可能社会実現を推進する次世代の産業と言われる環境保護、新エネルギー関連の産業は人間活活動系プロジェクトであることが判る。

図 水ビジネスの対象事業のシステム上の位置
図 水ビジネスの対象事業のシステム上の位置
(P2Mガイドブック4部3章システムズマネジメント図表4-3-2に加筆)

人間活動系プロジェクトは、科学技術系プロジェクトに比して多様なステークホルダーの合資形成が最も重要でかつ困難であるため一企業がプロジェクトとして取り扱うことは、して来なかった。
そこで筆者は、水ビジネスの海外展開が加速しない遠因は、未来社会が真に求める社会インフラを考案せずに従来の延長でビジネス展開を考えていることにあるのではないかと考えた。

次回は、持続可能な水資源循環を目標にした日本の水ビジネスのあるべき姿について、再度、東洋経済新報社より2011年に刊行された「日本の水戦略」を参考にまとめてみたいと思います。

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