PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (34)

向後 忠明 [プロフィール] :8月号

 今月号は脳の働きと人の行動、特にコンピテンシーの高い人が「事」が起きた場合に起こす行動の特徴について話してみたいと思います。それは時と場面によって様々です。
 その場面とは:
特別に指示もなく行動しなければならない創造的な対象に対する行動場面
何らかの情報は得ていたがプロジェクトの内容を初めて聞いて行動する場面
自分の実践経験や知識から外れたプロジェクトに対しての行動場面
すでに実行中のプロジェクトで問題が起きた時に示す行動場面
同一のプロジェクトの経験があるが規模が大きく複雑なプロジェクトに対応する行動場面

はどちらかというとP2Mで言っている“スキームモデル”からの発想での展開が必要であり、研究開発、イノベーティブな事業やプロジェクトなどが対象となります。
、③、④も未経験分野の業務やプロジェクトへの挑戦であり、①に似た部分の行動が必要となってくる。
は上記のそれぞれとは異なりすでに経験した分野の事業やプロジェクトであり、仕事の難易度が上昇したもので、この場合はそれまで経験で培った実践能力と追加的処置での対応で可能となるものです。

 事業やプロジェクトをマネージする立場になればおのずと上記のような場面に必ず出くわすことになります。その場面に適応した行動を適切に進めていくことが“ゼナラルなプロ”として必要なコンピテンシーだと考えます。
 そのため、 “ゼナラルなプロ”はそれぞれ業務の中で、持っている各種知識や実践経験、そして情報等を何らかの脳内活動により取捨選択し、それを適切に利用し行動に移し、その場面をうまくさばくことができなければなりません。
 さて、人は脳の中で必要に応じて“この場面ではどのような知識が必要という判断結果”の情報を脳の中に取り入れて適切に行動を起こす部分はどこにあるのでしょうか?
 人はそれぞれ顔が違うように脳の働き方が違うように思えます。

 ある本に「脳を自由にする」ということが書かれていました。
 これは、固定概念や限界というものを考えずにあらゆる選択肢を持って物事や事象を認知し多重知性を働かせ行動に移すといった全能的な機能を意味するということのようです。
 脳を取り出してみると一個の物体ではなく左半球と右半球で構成され、これらは脳の80%を占める大脳にありそこで認知能力を使って高度な思考が行われています。大脳はさらに後頭葉、側頭葉、頭頂葉、前頭葉の四つの部分に分かれ、特に、前頭葉の中の「前頭前野」という領域が、脳のほかの領域を制御する、最も高次な中枢と言われている。
 それぞれの機能については図34-1に示しますが、それぞれ連携した形で機能を果たしそれを行動としてあらわすようです。

図34-1 脳の構造と働き

図34-1 脳の構造と働き

 基本的に左脳と右脳は超伝導体として神経線維の束である脳梁によって二つの半球は連結され情報のやり取りをし、情報は双方の半球の持っている機能によって認知処理される。
 このことは、知識や経験があるからと言って人間本来の能力が発揮されるということでなく両方の脳機能をバランスよく機能させることによって事象や物事を認知し処理していということです。
 よって、左脳だけの機能を優先する人の行動はどうしても自分の知識と経験から分析、推論、会話をベースとした行動特性となります。すなわち、片手を縛ってのマラソンをするようなものとなり、腕と手の効率的な動きが所定の半分も機能しなくなるということと同じです。よって、実務においても理屈が多くなり手順や自分の経験・知識に偏重し、突然の変化や新しいことに対応することのできない(仕事のできない)人と見られる様になってしまいます。
 しかし、左脳及び右脳バランスよく働いてもそこから得られる情報をベースに十分で適切なコミュニケーションをとり、そして思考し、意志を決定したり、意欲を持って行動を促したりする機能がないと認知した結果が外に対して目に見える行動として現れることになりません。
 このように人はそれぞれ脳の働きによって仕事の処理の仕方に違いが出てくるようになります。
 一般的に、日本型の人材評価は「協調性」「積極性」「規律性」「責任性」などから構成されているが、これでは従業員の日常の業務における態度を中心にした評価としか感じられません。しかも、この評価方法はかなり抽象的であり、その人の行動がどのように会社またはプロジェクトに貢献したかわかりません。特に“ゼナラルなプロ”にはEvartsの言っているコンピテンシーといった人間の根源的な特性が必要と筆者も思っています。
 例えば
 「あるプロジェクトマネジャが実行したプロジェクトで自分ではこれまでの実践経験と知識を最大利用してうまくやってきたつもりであるが大きな納期遅れが生じて、このため多くの金銭的損失を会社に負わせてしまった。」
 この人は自分の知識や経験に自信を持ってプロジェクトをまとめていたようですが、本人の話では惰性的なプロジェクト運営だったと反省していました。
 すでに述べたように、どのようなプロジェクトでも全く同じものはなくまた顧客も異なり千差万別という観点から、まずプロジェクトを始める前にはプロジェクトを取り巻く環境や状況の分析(P2Mではスキームモデルと言っている部分)とその情報収取が必要です。
 そこから見えてくる問題点をこれまでの知識や経験から左脳を使って分析し、そしてプロジェクト全体を右脳によって俯瞰し、直観、認知し、そしてプロジェクトのあり方をイメージするといった左脳と右脳の機能のやり取りをします。
 最後に、前頭前野の思考・意思決定(判断)機能によりイメージを具体化していき、企画または計画としてまとめ、適切な人材配置を行い、前頭前野の機能を総動員して行動を取る必要があったと思います。
 このようなやり取りが抜けていて上記に示すような失敗が発生したとすれば計画段階での稚拙な行動とその後の実務上のマネジメントに問題があったと考えられます。

 また、部下の指導で脳の働きを行動に結びつける習慣を持たせる方法で、特に意思決定という場面では以下のような質問を業務の中で行うのも良い方法と思います。

何をどのようにするのかね?(問題の課題化)
狙いは何かね?(目標の設定)
他に方法はないのかね?(代替え案の評価)
何かまずいことはないのかね?(マイナス要因の検討)
何をどのように行動をとればうまくいくのかね?(マイナス要因の対策)

 上記はプロジェクトが動いている場面においての部下の教育及び育成にも役に立つ質問の仕方です。
 その外、読者諸氏も部下に対してのまたは日常業務においての質問並びに自分の上司の部下に対する指示の仕方の観察に一度使ってみてはどうでしょうか?

 さて来月号からはこのコンピテンシーをプロジェクトマネジメントにかかわる人材に必要な人格的なものに絞った内容で話してみたいと思います。

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