PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (32)

向後 忠明 [プロフィール] :6月号

<スリランカ>
    スリランカという名の国は日本人にとってあまりなじみのない国と思います。
 昔はセイロンと言われた国です。紅茶の産地として有名であり、セイロン紅茶と言えばほとんどの日本人にもわかると思います。インド洋に浮かぶ島国で九州と四国を合わせた面積より大きく、北海道より小さく、緑豊かな環境に包まれた美しい島です。
 人種的には、多民族国家でシンハラ族、タミルール族、マレー族、そしてモスリム族などで構成されています。

 スリランカのCEOから“すぐに現地に来るよう”にとの呼び出しで、とりあえずその理由を確かめるためにスリランカに出かけました。
 しかし、この国に着いて驚いたことは、空港内のあちらこちらに銃を持った軍人が立って警戒していました。もちろん宿舎まで行く道端にも軍人がたっていました。
 そして、翌日、会社(スリランカの公営電気通信会社でN社が出資し、経営権を持っている会社)に迎えの車で出かけました。
 ここでも二度目のビックリですが、会社入り口ゲートでは同じく銃を持った軍人がいて、著者の乗った車を台の上に乗せ、その下を鏡のついた棒でチェックしていました。そしてOKのサインで持ってその台から降りて、駐車場所に行きました。
 後で聞いたのですが、車の下に爆弾が仕掛けられているかをチェックしていたとのことです。

 このように「地球の歩き方」に書かれていた美しい緑に包まれた島国などとはほど遠いものでした。人種的には、多民族国家でシンハラ族、タミルール族、マレー族、そしてモスリム族などで構成されています。そのため、民族間での闘争も激しく、特に、シンハラ族とタミール族の間で内戦状態が続いていて、激しい戦いが行われているとのことでした。
 日本で若干の情報はもらっていましたが実際にその姿を見ると“なるほど”と変に納得などしてしまいました。

 三度目の驚きはCEOによるスリランカへの呼び出しの理由でした。。
 それは、“現在のCFO(財務兼労務担当役員)が日本に帰国するのでその代りをやってほしい”とのことでした。
 しかし、著者の専門はプロジェクトマネジメントであり、財務や労務について少しは知見を持っているが、財務についてはもっとも不得意とするものでありその専門ではないことを切実に訴えました。
 結果的には財務関係はすでにこれまで財務を担当している人を昇格することとし 著者はCAO(新たに作った役職で総務、人事、労務、法務、ファシリティーマネジメントそして調達等の役員)ということになりました。
 “とはいうものの”どれも経験したことの無い分野であり、その上この会社は9000人の従業員を抱える組織であり、すでに述べたように多様な人種からなる会社です。そのスリランカ人の人事、労務を見るのは並大抵のことではありません。

 そこで、前任者が日本に帰国する前に聞いておかなければとさっそくその人に会って話を聞きました。
 本人曰く、
 「この国はイギリスの植民地であった頃から労働者はイギリスの労働法に守られ、国の労働者に対する保護も厚く、労働問題で苦労している。そして、この会社もCEOや私(CFO)も労使問題、例えば昇格、給与、待遇等々の問題でストライキも頻繁に起こされ苦労している。また、ここの組合はそれぞれ従業員の立場や種類により31種類に分化した組合もあり、その中には部長なども含む管理職組合もある」
 ということでした。
 「??????・・・」でした。なぜ会社がこのような状況にあるのにその担当であった役員が、この分野の素人である著者に多くの問題を残して帰国してしまうのか!!!!!。
 その後、何とか仕事の引き継ぎも終わり、いろいろこの会社の内情を調べてみると労務問題以外にも調達関係での倫理上の問題(例:業者との癒着、わいろ、不公平な発注等々)、昇格制度の問題、社内規定の不備等そして従業員の公務員ボケでの怠惰等々多くの問題があることがわかりました。
 その後は悩む毎日でした。
 その中でも一番の問題は組合対策でした。そして、この組合問題をクリアーできればその他の問題は何とかなるだろうと会社の顧問弁護士や人事、総務担当の部長からのヒアリングを行い、その対策に立ち上がりました。これが当面のCAO としてのプロジェクトとしてその課題の解決に焦点を絞り体制を作りました。
 しかし、考えれば考えるほど妙案もなく、悶々としていたとき、一人の若い従業員が著者の部屋にやってきました。

  “要件”はと聞くと、いきなり“CAOは空手の有段者と聞いていますが本当ですか?
 もしそうであるなら、私は空手3段ですが会社に空手部を作りたいと思っていますが承認してくれますか?”ということでした。
 この従業員と少し空手のよもやま話をしている中で、“スリランカ人は日本の文化や武道に興味をそんなに持っているのか?”と質問しました。 “ハイ!!ほとんどの人が柔道や空手などの武道に興味を持っています。柔道は日本のJICA 派遣の指導者はいるが、空手の指導者はいません”とのいうことでした。
 この従業員が帰った後、この多様な人種からなの人達をまとめていくための共通のものは何か?そして、従業員の不満はどこにありまた日本人に対する感情や考え方に対する彼らの思いは何かを考えてみました。
 結論として、強制ではないが、武道で心身を鍛え、規律を含めた人間としてあるべき道を空手道という術を通してそれらを従業員に浸透させてはどうかと思うようになりました。
 そして、今度はこちらからその従業員を呼び出して、次のような質問をしました。
 “もし、空手部設立を承認したら、組合に話をして、少なくとも管理職組合長の他2~3の他の組合長がこの新設空手部に入部させる自信があるか?そして、君は3段の黒帯であるなら指導員として問題ないと思うが、業務終了後でも指導員として残業代なしにやりますか?”
 彼の返事は“Yes”でした。
 その後、要請に違うことなく彼はすべてを満足した形で著者のところに「その答え」を持ってきました。彼は管理職組合長をはじめ有力組合員を連れて著者の部屋にやってきました。
 そして、空手部設立にかかわる手続きと予算の設定及び場所をきめ空手部設立の承認をしました。
 自分の考えが成功するかどうかは、この多様な民族からなるそれも組合長を含む従業員をいかにして目的通りに一体化できるかどうかにかかっていました。著者も心配であったので最初は率先して老骨に鞭を打って一緒に練習しました。
 最初は5人ほどの部員でしたが2か月ほどしたら10人となり6か月もしたら30人ほどになりました。
 そのため、道場としてのこれまでの仮部屋も狭くなったので、正式な道場とし新しい場所を本社ビルの一角を改造し、道具もそろえて本格的な道場を作りをしました。
 その後女子部員も入ってきて、黒帯の人も入部し指導者も整い、本格的なものになってきました。著者も老体に鞭打ってその後も練習に参加し続けました。
 この頃になると会社での上下関係に関係なく格下の師範の指導でもその上司である課長や部長もこの師範の言うことを聞くようになってきました。
 このような現象は従業員の気持ちの中に大きな変化があったということのように思いました。この国での上下関係でのハイアラキーは非常に厳格であることを考えると信じられない練習風景でした。
 何せ!自分の上司にあたる部長や課長たちを寝かせ腹筋の練習と言って、その腹の上に載って“もっと腹筋に力をいれなさい”などと言っているのですから・・・・・・

 もちろん、体力増強面の練習だけではなく、空手の道(日本でいえば道徳)や日本人のものの考え方や礼儀や文化についての話などもしました
 このようなことを1年以上続け、部員も60名程度になり、会社の行事があるたびに演武会などを開き他の従業員などにその成果を披露しました。

 そして、給料やボーナスを含めた待遇改善等の組合との交渉の時期になってきました。
 この頃でもまだ会社ではもろもろの問題案件を抱えそして、以前からCEO はストライキを何度も起こされているので、組合に対するトラウマもあり戦々恐々としていました。
 さて、いよいよこの組合との団体交渉を迎えることになり、その会議場でCEO をはじめ会社関係者が待つ部屋に組合長達が入ってきました。
 まずは管理職組合長が入り、著者(CAO)を見るなり“押死”(オッス:空手での挨拶)”という挨拶をして席に着きました。その後、空手部員である数人の組合長も同じ挨拶をして席に着きました。
 著者を除いた他の日本人役員は“キョトン”としていましたが、著者は“ヤッター”と思いました。すなわち、ここでは会社側と従業員側という関係ではなく、空手の師匠とその弟子の関係ということになるのです。
 この交渉では組合側はCEO ではなくて著者の方に向かって話をし、要求を突き付けてきました。しかし、その場の答えは当然会社の長であるCEO がしなければなりません。しかし、CEO の話が終えると私の目を見て同意を求めてきます。著者も彼らの要求が納得いくものであれば“うなずき”、だめであれば“だめサイン”を出しました
 このようなやり取りが続き、この団体交渉での対象案件は一部の組合長の反対もあったが無事成功裏に終わることができました。そして、これまで恒例になっていたストライキも回避されました。
 このように、日本の文化を利用した組合対策プロジェクトは成功裏に進み、その後も部員の数は増え続き、活況を呈しました。
 また、組合問題にもあまり混乱もなく、通常業務においても規律を守り、従業員に対するお願い事項も比較的素直に従うようになってきました。

 しかし、すでに説明したようにこの企業はスリランカでも最大の企業であり、半官半民の組織体であるので政府の関与も多く、難しい対応も迫られます。
 いまだに原因のわからない事件として、著者の信頼できる部下であった人事統括部長が帰宅途中暴漢に銃で撃たれ重傷を負うということもありました。
 この事件の背景は全くの暗闇ですが、どうも雇われ殺し屋(Contact Killer)の仕業との噂もあり、傷が癒えたころ隠密裏にシンガポールに逃しました。
 その後はこの件について警察、軍も関与させ調査を行いましたが原因不明でそのままになりました。
 また、同時に著者に対しても脅迫電話や車のフロントガラスに脅迫状が置かれたりしました。万全を期して通勤順路を毎回変えて通勤したりもしました。
 それからもCAOに対するお茶への異物混入やその他多くの事件、変事が起こり、会社内に委員会を立ち上げ組合問題に限らず社内で起きる個々の変事ついて対応していきました。
 その後、CEO が何度も変わり、著者も、シンガポールにいる前人事統括部長の対応については後のCEOに託し、一連の仕事を終えて帰国しました。

 しかし、残念なことで、新しいCEO がシンガポールにいる前述の前人事統括部長のスリランカへの帰国を促したようで、彼が帰国したという話を聞きました。そのすぐ後に彼が死んだという話が舞い込んできました。
 原因が前回と同じで犯人はわからずじまいですがどうも雇われ殺し屋(Contact Killer)の仕業との噂でした。
 このような話を聞く著者諸氏はびっくりして海外の仕事は怖いと思っている人もいると思います。著者もスリランカの仕事以前でもいろいろな事件や危険な目に合っています。しかし、それ以上に環境や習慣、文化の変わったところでいかにプロジェクトや仕事を遂行していくかといった探求心が養われます。
 同時に多様な状況に対して挑戦することにより、変化を考え、認知し、判断し、行動するといった習慣が養われることになりグローバルに活動できるプロフェッショナル人材になれると信じています。
 外国においてのビジネスは日本とは全く異なった文化、慣習、法規制などがあり、かつ、多様な人種と一緒に仕事をするにはやはり“郷に入れば郷に従え”の格言通りですが、やはり日本人は日本の文化も同時並行的に活用する必要もあるようです。
 また、英語ができればよいと思う人もいますが“あなたは日本の文化、慣習”を第3国人に英語で説明できますか?
 多分多くの人はできないと思います。外国で仕事をし、現地の文化・慣習を知ると同時に、日本の文化。慣習を相手に説明することもビジネスにおいて大切なことと思います。

 以上が著者の海外において行ってきたプロジェクトとそこで感じたことを書いてきました。本当はもっと多くのことを経験、見聞きしてきましたが、これを書き出すと本が書けるくらいのものになります。よってこの辺で海外での経験談を終わりにしたいと思います。

 次回は話題を変えて、「ゼネラルなプロ」の行動特性について話をします。

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