PMBOK研修部会
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コンフリクト・マネジメントに対処するための交渉術

高橋 政孝 [プロフィール] : 3月号

 PMBOKの「プロジェクト人的資源マネジメント」にある「プロジェクト・チームのマネジメント」のツールと技法として「コンフリクト・マネジメント」がある。そこにはコンフリクト・マネジメントに成功すると生産性が高まり、職場の関係が良好になると記載があるが、どのように対処すればよいか具体的な解決技術があるかは記載までは記載がない。本PMP研修部会のPMBOK試験対策講座では試験対策として下記の説明を加えている。

撤退・回避
(Withdrawing/Avoiding)
現在ある、または潜在的なコンフリクトから身を引く。
鎮静・適応
(Smoothing/Accommodating)
意見の異なる部分ではなく、同意できる部分を強調する。
妥協 (Compromising) 当事者全員がある程度満足できる解決策を模索する。
強制 (Forcing) 他者を犠牲にして自分の観点を押し付ける。これは勝ち負け式の解決策しか提示しない。
協力 (Collaborating) 異なる観点から複数の視点や見識を取り込む。これは合意と確約につながる。
対峙・問題解決
(Confronting/Problem Solving)
コンフリクトを、いろいろな手段を検討することにより解決すべき問題だと捉える。ギブ・アンド・テイクという態度と、オープンな対話を必要とする。

 試験対策としては上記の内容を覚えることは重要であるが、具体的な調整テクニックについては試験対策の範囲を超えるため突っ込んだ解説は行えていない。今回、その調整テクニックの一つとして交渉テクニックを紹介したい。
 交渉テクニックは巷にさまざまな書籍が書店に並んでおり、交渉に関係する業務をされている方はたくさんのテクニックをお持ちであるかと思う。今回はその中でも有名な二段階要請法について紹介したい。二段階要請法はさらに「フット・イン・ザ・ドア法」、「ドア・イン・ザ・フェイス法」、「ロー・ボール法」などに分けられる。交渉術を駆使している方にとっては物足りないかもしれないが、おさらいして頂ければと思う。

1.フット・イン・ザ・ドア法
 プロジェクトを進めていくと変更要求や追加要求が発生する。ITプロジェクトでは特にスコープ定義が難しく変更要求なのか要求の明確化なのかがはっきりしないことが多い。現場で作業をすると変更要求と思っていても小さな変更であれば要求を受け入れてしまうことが度々ある。この小さな要求を受け入れると次にもう少し大きな変更が発生したときも、このくらいなら何とか対応できるかと思い、受け入れてしまう。さらに新たな要求が発生した時も受け入れてしまい、結果としてスコープの肥大化となってプロジェクトに影響を与えてしまうことがある。
 これはフット・イン・ザ・ドアとよばれる技法であり、小さな要求を受け入れるとその後の大きな要求を受け入れやすいというテクニックである。これはセールスマンが、片足を入れてドアが閉まらないようにしてしまえば、もう売ったも同然だというところから来ている。初めは気軽に受け入れてもらう小さな頼みをすることがポイントになる。
 これは営業手法としては広く使われている。たとえば無料お試しやアンケートと称して近づき商品を購入してもらうテクニックは有名である。皆さんも初めての取引相手に対して小さなプロジェクトを請け負い、それを元にその周りのプロジェクトやより大きなプロジェクトを請け負って受託範囲を広げていくことを行っているのではないだろうか。まさにこれはフット・イン・ザ・ドア法である。

2.ドア・イン・ザ・フェイス法
 フット・イン・ザ・ドアの逆の流れを行うテクニックがドア・イン・ザ・フェイス法である。やってほしい要求以上の要求を出して、相手に断られてから、実際の要求を出すテクニックである。相手は一度断った罪悪感から次に出された初めの要求よりも小さな要求を受け入れ安くなる。これは罪悪感による承諾を引き起こさせるテクニックで相手に罪悪感を感じさせることができたら次の要求は受け入れやすくなる。罪悪感ではなく相互譲歩による承諾というテクニックもある。相手が1つのことを譲ったらこちらも1つ譲ってしまうという方法である。
 つい先日、ITプロジェクトのスコープ肥大(と受託側である我々は思っている)により2つの追加費用の調整を発注側と行った。1つ目からスコープの明確化と主張する発注側と変更要求と主張する受託側の意見が対立し交渉が難航した。我々受託側としても発注側の社内承認費用から大幅に増加するため上層部と交渉が困難であること分かっているが、我々も必要工数がかかるため一歩も引けない状況であった。会議は暫く沈黙が続き、そのあと発注側が1つの追加費用について追加を認める発言があった。これを受けた私は申し訳ない気持になり、同様に2つ目も認識のズレの開発項目であったが、1つ目を譲歩してもらった気持から2つ目は原価を割り込む費用で認めることになってしまった。後から考えると相互譲歩による承諾のテクニックを使われてしまった形となったのである。

3.ロー・ボール法
 ロー・ボール法は本来とれないような高いボールなのに取りやすい低いボールに見せかけてボールを投げることにより相手の心を動かすテクニックである。相手が本来の要求を何らかの問題から要求を抑えている場合、受け入れやすいミニマムな提案や好条件そろえて本来の要求に「近い」提案を行う。相手からすると本当は本来の要求を実現したいと思っているので、本来の要求を満たせるため、その提案を受け入れやすい。その提案を受け入れた後で、ミニマムな提案では要求のすべてを満たされていないことを指摘しオプション提案する、または好条件をはずすといった本来の要求に変更する。一度ミニマムな提案を受け入れた相手はその方向で気持が進んでいるので後戻りできない心理状態になってしまうのである。いまさら多少条件が変わっても行動を変えるわけにはいかず、その方向に動き続けてしまう。これを成功させるには相手が手に届かないと思っている本来の要求を一度手が届く位置に見せかけ、背中を押してあげるのである。
 このロー・ボール法は下手をすると後だしジャンケンとなりトラブルの原因になりやすい。プロジェクトメンバー間では使わないことをお勧めする。

 今回は3つの交渉テクニックを紹介した。交渉テクニックに頼り切るのではなく真摯に対応することを第一に考えるべきである。その上で必要な時に最低限な交渉テクニックを利用してコンフリクトの解決につなげて欲しい。

以上

参考図書
 人を動かす心理学 対人関係66の法則 (斎藤 勇)PHP研究所ISBN4-569-52795-7
参考URL
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