PMプロの知恵コーナー
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変革を促進するアジャイル

竹腰 重徳 [プロフィール] 
  Email : こちら :1月号

 新年明けましておめでとうございます。本年も企業の俊敏性(アジリティ)実現のための情報発信を続けたいと思いますのでよろしくお願いいたします。

 トヨタ、IBM、サウスウェスト航空など卓越した成果を上げ続ける組織は、さまざまな影響によって変化する顧客に対して、さらに高い価値を提供できるような組織に変えていくため、絶えず変革能力の向上を図っています。
 変革とは、従来の考え方、習慣、やり方のままでいることをよしとせず、より高い価値を提供するために、常に新しいものに挑戦し続けるということです。変革能力の向上を図ることが、経営品質を高め、顧客により高い価値を提供できるようになり顧客満足向上につながります。
 変革能力の向上を図る方法として、米国のマルコムボルドリッジ国家品質賞基準書をベースにした経営品質向上プログラム(1)があります。このプログラムでは、卓越した成果を実現するために、以下のような7つの経営の価値観や考え方を基に変革を行うと効果があると説いています。
顧客からみた品質
リーダーシップ
プロセス志向
対話による「知」の創造
スピード(俊敏性)
パートナーシップ
フェアネス
 これらの経営の価値観や考え方が、どのようにアジャイルに反映されているかをそのマニフェスト(2)や原則(3)を通してみていきます。

 ①顧客からみた品質
 「顧客からみた品質」とは、顧客が本当に要求している価値に対応することで、プロダクトアウトではなくマーケットインの考え方で常に変化する顧客価値を提供できるようにすることです。すなわち「顧客第一」という考え方です。
 アジャイルでは、アジャイルマニフェスト「変化への対応」やアジャイル原則「我々の最優先事項は早期に連続的に価値のあるソフトウェアを提供することを通じて顧客を満足させることである」「要求事項に対する変更は、開発局面の後半でも歓迎する。アジャイルプロセスでは、顧客の競争優位のための変更は容易に対応する」は、顧客価値への対応を大切にし、この考え方に沿っています。

 ②リーダーシップ
 経営品質向上プログラムでは、リーダーシップは、部下を管理し、決められたことをきちんとみんなにやらせる指示管理型のリーダーシップスタイルではなく、ビジョンを明確にし、社員や部下からやる気を引き出し、彼ら自らの判断で活動する状態をつくり出すことをリーダーシップと位置付けています。
 アジャイルでは、アジャイルマニフェスト「個人とその相互作用」やアジャイル原則「意欲に満ちた人達を集めてプロジェクトを組織化する。彼らが必要とする環境と支援をし、仕事が無事終わるまで彼らを信頼する」「最良のアーキテクチャ、要求事項、設計は自己組織的チームから生み出される」は、チームのモチベーションを高め、チーム自らが責任を持って行動できるように導くリーダーシップを重要としています。

 ③プロセス志向
 経営品質向上プログラムでは、業務プロセスをマネジメントするという視点よりも高い価値を求めてプロセスを創造していくことに焦点を当てています。すなわち顧客にとってさらに高い価値を生み出すことができるものを創造するプロセスです。そのために、人とその能力を中心としたプロセスを価値観や目的に合わせて最適な状態をつくることが求められます。
 アジャイルでは、アジャイルマニフェスト「個人とその相互作用」「変化への対応」やアジャイル原則「要求事項に対する変更は、開発局面の後半でも歓迎する。アジャイルプロセスでは、顧客の競争優位のための変更は容易に対応する」「シンプルさ(ムダの排除)が重要である」「プロセスをもっと有効にすることはできないかを定期的に振り返りを行い、それに基づいて自分達のやり方を調整し、継続的プロセス改善を追求する」は、顧客にとって高い価値を生み出すようなプロセスを創り出し、それを継続的に改善することに価値を置いています。

 ④対話による「知」の創造
 対話によってお互いの知識やアイデアを交換しながら、新しい知識、アイデアを創造していこうとするやり方は、組織を変革していく上で不可欠です。組織の中で対話を重視しオープンに話し合いが進められることが、卓越した経営を目指していく上で、大変重要です。
 アジャイルでは、アジャイルマニフェスト「個人とその相互作用」やアジャイル原則「情報を伝える最も効率的かつ効果的な方法は、フェースツーフェースのコミュニケーションである」「最良のアーキテクチャ、要求事項、設計は自己組織的チームから生み出される」は、自律的なチームの対話重視による「知」の創造に価値を置いており、この考えに沿っています。

 ⑤スピード(俊敏性)
 グローバルな競争市場で成功するには、急速な変化に対応する能力や柔軟性に関する俊敏性が必要です。ビジネス界は、顧客へのより早く柔軟な対応と同様に、これまで以上の短いサイクルで製品・サービスを提供する必要性に直面しています。経営品質向上プログラムでは、対応時間を大幅に短縮するために、組織の仕事のプロセスの簡略化や、迅速なプロセス移行能力の強化を要求しています。
 アジャイルでは、アジャイル原則「我々の最優先事項は早期に連続的に価値のあるソフトウェアを提供することを通じて顧客を満足させることである」「動くソフトウェアを数週間から数カ月のような短い期間にたびたび出荷する」「技術的卓越性や優れた設計に継続的に注目することにより俊敏性を高める」「シンプルさ(ムダの排除)が重要である」は、まさにプロセス処理のスピード感、俊敏性をあげることに価値を置いています。

 ⑥パートナーシップ
 組織が継続的に発展するには、あらゆる関係者の協力が欠かせません。経営品質向上プログラムでは、パートナーを平等なパートナーと位置づけ、協力と協調、信頼関係の構築を目指しています。
 アジャイルでは、アジャイルマニフェスト「顧客との協調」やアジャイル原則「プロジェクト期間を通して、ユーザーと開発者は毎日共同して作業をする必要がある」は、特に顧客とのパートナーシップの重要性を強調しています。

 ⑦フェアネス
 経営品質向上プログラムでは、フェアネスとは、組織の価値観や目的に照らして、誰もがわかる規範に従って判断、意思決定することなのです。そのためには意思決定の根拠となる情報が共有されていなければなりません。
 アジャイル原則「最良のアーキテクチャ、要求事項、設計は自己組織的チームから生み出される」の自己組織的チームは、チームのすべての人に対する尊敬と全員でチームを支えるという信頼感を持ち、対話型コミュニケーションを重視し、情報の見える化、行動、決定の透明性などのフェアネスを重視しています。これによりチームは自由闊達に活動でき素晴らしい成果をあげることができるのです。

 以上のようにアジャイルは、変革能力を向上するのに必要な経営の価値観や考え方を反映していますので、アジャイルの企業内採用は変革能力向上の有効な手段であることが期待できます。

以上

参考資料
(1) 日本経営品質賞委員会,経営品質向上プログラムアセスメントガイドブック,2012
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