P2M研究会
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ミッシングリンクを繋ぐ
‐ Business Information Systems ‐

イーストタスク(株) 渡部 寿春: 12月号

 定例会で一つの本が話題になりました。今年8月に出版された「ミッシングリンク‐デジタル大国ニッポン再生」(谷脇康彦著、東洋経済)です。情報通信産業は単にハードとソフトが一体化しているだけでなく、異なるプレーヤーが複雑に絡み合ったデジタルエコシステム、即ちグローバルな生態系を形成していると言います。そして、日本はこの生体系の5つの環が切れている状態にあるため国際競争力を下げているのだが、この環が繋がれば再び浮上するという提言です。

 現在、国内の情報通信産業の市場規模は全産業中で最大(約1割:85.4兆円)となっている。この産業を育成することは、日本再生の鍵。世界経済フォーラム(WEF)「The Global Information Technology Report」での2012年における情報通信分野における日本の国際競争力は18位。2010年に21位から浮上しポテンシャルは高い。その最大の要因は、ブロードバンド基盤の整備で速度、価格、品質面で抜きんでて1位であること。2011年3月末の時点で全国どこでもブロードバンドサービスにアクセス可能な「ブロードバンドゼロ地域の解消」を達成している。しかし、ブロードバンドの加入率では12位、さらに、個人、企業、政府などの各部門での利活用では18位となる。

◆ミッシングリンク 1:機器とサービスが繋がっていない。
 現在のスマートフォンの火付け役となったiPhoneだが、この魅力はアプリやコンテンツをダウンロードする場合はiTS(iTunesStore)を介して購入するところにある。アプリやコンテンツはアップルが事前審査し、承認を得られたものだけが品揃えに加えられる。即ち、端末、プラットフォーム、コンテンツ・アプリケーションという3つのレイヤーを垂直統合することで高いユーザビリティを実現している。ネットワーク、プラットフォーム、コンテンツ・アプリケーションと言った単独のレイヤーの品質を高めて競争力を得るのではなく機器とサービスを組み合わせて価値を実現した。

◆ミッシングリンク 2:供給者と利用者が繋がっていない。
 インターネットビジネスの一つの特徴は、クラウドサービスの普及に伴う「所有から利用へ」と言う流れである。そして、不特定多数の生み出す様々な情報も広い意味でのコンテンツとなる時代が到来した。ソーシャルメディアを通じて生み出される膨大なツイートやレコメンドは消費行動を変える。例えば、ジョギング愛好家が愛用する「ナイキプラス」は、ジョギングの距離や所要時間を靴底に装填した機器から無線でリストバンドに付けたiPhoneに記録する。記録はネットで管理し、ソーシャルメディアとの連携も可能。愛好家の中で距離や時間を競ったり、励まし合ったりというコミュニティも成立する。

◆ミッシングリンク 3:情報通信産業と他産業が繋がっていない。
 行政、医療、教育の分野で情報化が遅れている。その一番の理由は、使う側が「コストが高い」、「使いこさせない」、「今の仕組みで十分」、「セキュリティが心配」といった反応しか返ってこなかった点にある。しかし、ここ数年でデジタル機器は圧倒的な低価格化とスペック向上を実現し高級商材ではなくなりコモディティ化した。ソリューションの提供もクラウドサービスを活用すれば従来に比べ1桁安く利用できる。東日本大震災でも医療機関に残されたカルテが津波で流出し、失われる事例が多くあった。このため、被災地復興事業の一環として東北メディカル・メガバンク計画と言うプロジェクトが開始された。これは、地域の医療情報をデジタル化しネットワークを構築しようというものである。こうしたプロジェクトが進まなかったのは関係機関の連携がうまくいかなかったためであり、推進体制の構築が鍵になる。

◆ミッシングリンク 4:国内市場と海外市場が繋がっていない。
 日本は今後急速に超高齢化が進むが、東アジア諸国においても高齢化は急速に進む。つまり、日本のシルバー市場において情報通信技術を用いた新しいソリューションを開発し、普及を目指していくことは、将来的にはアジア各国のシルバー市場を開拓していく上で極めて重要である。調査会社シード・プランニングの予測によると、「健康」「見守り」「医療」の3つの分野でモバイルヘルスケアの分野が大幅に拡大する。電話網の整備が十分でない国は、ブロードバンド投資にドライブをかけることで、電話網の巻き取りという先進国の抱える問題を超えた一足飛びの進化を実現し高い成長を実現する。日本が新興国のブロードバンド関連投資拡大を支援・協力することにより相手国の成長を取り込んだ経済再生が可能となる。

◆ミッシングリンク 5:官と民が繋がっていない。
 インターネットの世界では、グローバルでの一国の規制だけでは対応が困難になってきている。このため、官民が連携したデファクトスタンダード型のルール整備が注目を集めている。2008年12月、英国の規制当局であるオフコム(Ofcom)は、規制の種類を自己規制(self-regulation)、共同規制、法的規制(statutory regulation)という3つの類型に分類し、このうち自己規制と共同規制を採用する考えを整理した。共同規制は、自己規制と法的規制の中間に位置する。業界団体が特定の目的のためにルールを作り、これを遵守しているかどうかをモニタリングする。行政はルールの策定には関与しないが、ルールの基本原則の提示、業界団体に対する必要な助言、共同規制の有効性に関する検証などを行う。例えば、有害コンテンツについては国が主体的に要件定義を行って取り締まるべきだという考え方もあり得るだろう。だだし、現在の法律では民間業者団体で構成する第三者機関が要件定義を行い、携帯電話各社などがフィルタリングを提供し、児童を保護する枠組みとなる。

 ブロードバンドのインフラにおいては世界一である日本が5つの環を繋ぐことで浮上可能であることが良く理解出来る本です。この環を繋ぐためには、何れも業種・業態の枠を超えた価値創出の視点が不可欠ですが、協調と共創を促す力が働けば行けそうな気がします。しかし、その力は育つか? 新たな”Business Information Systems”の課題です。
以上

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