P2M研究会
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P2MとITC 10年を経て
‐The decade and the next‐

イーストタスク(株) 渡部 寿春: 11月号

 今回は、P2Mと共に今世紀初めに誕生した高度専門職業人の制度であるITコーディネータ(ITC)とP2Mを比較し今後の課題について考えてみます。PMAJ会員の中にはPM資格と併用でITCを取得されている方も多くおり、共通の継続学習ポイントとなる研修やセミナーを受講することもあります。P2MはIT活用を目的に誕生した制度ではありませんが、今年9月に出版された「IT分野のためのP2M(Project & Program Management for Information Technology)」は、ITを活用した業務改革の事例を示したものであり、もともとIT利活用での業務改革を目的としたITCと重なる部分が多くあります。ITCにおいても2011年8月にITCプロセスガイドラインが改定されVer 2.0となり外部環境を認識するプロセスが強調されました。この二つの共通点と違いを整理することは、ITの利活用による業務改革を行うための参考となります。

1.誕生の背景
【P2M】JPMFジャーナル第10号 「プロジェクトマネジメントと高度専門職業人」より
「失われた10年」における日米の経済格差は・・企業戦略を策定するMBAや使命達成型プロジェクトマネジャー人材の質量格差による変革構想力と実行力に起因するとの指摘は多い。・・・日本に必要なのは、「有言実行による変革」であり、「特定使命を実現し価値創造する」プロジェクトマネジメントに発展させたい。

・1998年から3年間、財団法人エンジニアリング振興協会が経済産業省の委託で研究調査を行い2001年11月発表、2002年5月より資格制度開始。

【ITC】JPMFジャーナル第9号 「JISAとITコーディネータ制度」より
情報サービス産業がこれまで提供してきた情報システム構築等のサービスもコーディングを主体とした大規模システムの構築から最適な技術や製品を評価/選択し、システムを構成して提供する・・・最も重要なことは・・・経営戦略策定や情報企画の段階で経営とITの融合を図り、構築する情報システムの要件を明確にすること。

・2000年JISAでITコーディネータ推進協議会を組織し検討開始。経済産業省のITソリューションスクエアプロジェクトが中小企業の経営者を支援する環境とITコーディネータ制度を構築。2001年より資格制度開始。

2.資格制度
【P2M】主要対象として大企業の中間管理職が想定された。PMS(2002年)、PMR(2004年)、PMC(2005年)、PMA(未実施)

・PMSとPMRについては、会員相互の自主活動を含む継続学習ポイントによる更新制度。

【ITC】コンサル業務としての独立型(中小企業診断士や情報処理技術者などの知識が前提要件)と企業内型など明確な役割を設けた。当初、試験とケース研修でITC補となり実務経験を経てITCとなるキャリア制度だったが、後に試験とケース研修によるITCに一本化。

・会員相互の自主活動と指定研修、継続学習ポイントによる更新制度。

3.知識構成
【P2M】
プログラム統合マネジメント(P2Mのユニーク性)
出典:東京P2M研究会
【P2MとITCの比較】
P2MのスキームモデルがITCの経営戦略プロセスに対応。
P2Mのシステムモデルが、ITCのIT化実行プロジェクトに対応。
P2MのサービスモデルがITCのITサービス活用に該当

【共通点】
内的要因と外的要因を分析し経営戦略で“あるがままの姿”と“あるべき姿”を描き、GAPを多段階の目標に分けて実施する。
全てのフェーズで監視・コントロールコミュニケーション管理を行う。

【相違点】
ITCはプロセス指向でありバランススコアカード(BSC)が戦略と評価の中核。P2Mは、プログラムの不確実性を考慮する観点からBSCは選択肢。又、プロセス指向ではなく能力指向。
P2Mでは複数のプロジェクトを統合管理することを強調。ITCは、IT導入プロジェクトに集中。
【ITC】

出典:ITCプロセスガイドラインVer 2.0

 1990年代後半、「失われた10年」を取り戻すことを目的に経済産業省が主導して導入された二つの資格制度は10年を経過しました。しかし、当初想定されたように日本の状況は回復されず内外の状況は益々深刻で複雑な問題を提示しています。資格取得者は確かに増え、ITCは9000人を超えましたが、関係者によれば資格取得者が十分に活躍したとは言い難いとのことです。
 今世紀最大の経営学者の一人にトランスナショナルマネジメントで有名なS.ゴシャールがいます。彼は、1980年代のM.ポーターと対峙して語られます。M.ポーターは、価値を競争で奪う戦略を提示したのに対しS.ゴシャールは価値を創出する戦略を提示しました。そして、企業が変わって価値を生むにはプロセスの変更は意味を成さず企業を構成する人が変わる必要があり、人が変わることは学習と人間関係が再構成されることだと言います。それは、知識や能力の向上だけでなく自主的な社会活動により新たな人間関係が築かれること。正に、会員活動や継続学習ポイントはこの役割を果たし得るのではないか。ここから、次を期待したいと思います。
以上

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