理事長コーナー
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ネット時代のP2M

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :11月号

 パソコンがどこでも当たり前のようにネットに繋がるようになり、その便利さに満足している人が多い。家族や友人とのメールを通じたやり取りでは、互いの不都合な時間をさけ、場所に関係なく交信することができて便利だ。Twitter、Facebook や最近拡大中のGoogle+なども、自分の“友達”と決めた人との情報交換には大変使い勝手が良い。

 ネット販売も急増している。重い物、嵩ばる物は、苦労して販売店から持ち帰ることもない。自分の都合に合わせて注文しておけば、指定した時間に配達されるので便利だ。ネット販売に対抗していたスーパーマーケットやデパートも自ら積極的に、ネット販売に乗り出し始めたと最近の新聞記事が報じていた。物流業界のきめ細かいサービス、進む高齢化、ネットに有利な商品や“ロングテール“に属する希少価値の商品の販売、また他の理由も色々あるだろうが、それらがネット利用を加速させていることは間違いない、便利な生活・社会革命が静かに進んでいる。

 総務省の資料によれば、国内でパソコンやスマホなどのモバイル端末を利用するネット利用人口は、約9500万人(平成22年末)だという。重複利用もこの数字に含まれているかもしれないが、実に日本の人口の8割、高齢者や幼児を除くと成年のほとんどが日常的にネットを利用していることになる。驚くべき数字である。

 このような状況に冷や水をかけたのが、「パソコン遠隔操作事件」であろう。「東京の男子学生、大阪のアニメ演出家男性、福岡の無職男性、三重の無職男性」の4名は、犯罪予告をしたかどで“犯人”として逮捕されたが、誤認逮捕を警察が認め釈放された。「警察庁長官は、『取り調べの経緯も含めて、捜査の状況を検証しているので、現段階ではコメントは差し控える』」。また、「IPアドレスなどから容疑者を絞り込んで行く現在のサイバー犯罪捜査の手法については『検証中』としながらも容疑者の特定をこれまで以上に慎重に進める手法を検討していく考えを示した」(朝日新聞デジタル@2012.10.18)。愉快犯という云い方があるが、今回の事件は、その“愉快”とは範疇の異なる新たな分野で起きた重大な犯罪である。

 人気のある“掲示板”から不注意なファイルのダウンロードをすると、ウイルスが本人のパソコンに潜入して悪さをすることは、以前から危険視されてきた。このことは、企業・組織に勤務経験があれば、再三にわたる組織内の防衛対策で徹底しているはずだと思うかもしれない。それでも海外出張に持ち出したパソコンやUSBに潜伏させられたウイルスにより社内ネットワークがシャットダウンするという話は、未だ多いと聞く。このような組織に“守られた”範囲内でも、犯人との知恵比べである。充分な対策を教育されていない人々の多くは無防備である。特に、パソコンではウイルス防御ソフトが普及しているが、スマホ系はまだ徹底されていない。たとえ色々な防御策が出てきても、それを超えるウイルスの開発に興味を持つ人間が居る限り、イタチゴッコとなることは避けられない。

 このように、ネットを巧みに利用した他者による犯罪が最近盛んに議論されている。加えて、ネットに繋がっていないと不安になる“ネット依存症”はさらに深刻であり、その実態が少し明らかになってきた。特に、小中学生や若い女性の依存が多いらしい。子供の場合、親が仕事や趣味などに時間を割くためにスマホを与えていることが多いので、親が子供に親身に向かい合わない限り治癒しない。女性の場合、一人住まいやキャリアや仕事の悩みの相談相手がいないことが、絶えず人とつながっていないと落ち着かない精神状態を生み出している。

 これらネガティブな側面が指摘されており、今後もそれらが増える可能性があるにしても、それを上回る大きな効用と可能性が期待されるため、ネット利用者は増え続けている。スマホなどのネット端末からの利用者は、2015年にはパソコンからの利用者を抜くと推定されている。プロジェクトマネジメントの分野においても、その利便性から益々ネット利用が欠かせなくなることは間違いない。いかにリスクを排し、利点を活かすことができるかを考えるべきであろう。

 汎用ネット端末機であるスマホは、その携帯機能を活かせるプロジェクト現場の利用が考えられる。現場で管理対象を目の前にしてのプロジェクトの出来高確認や進捗管理、現場には頻繁には出向けない専門家に映像を含めた情報を送りアドバイスを求めるリモート・コンサルテーション、場所と時間を問わない現場状況の監視などはその例であろう。POS端末や特定の機材を使った特定端末機のアプリケーションは定まった現場での大量処理には向いているが、移動性のある少量多品種向けのアプリケーションにはスマホなどの汎用ネット端末機の方が適している。これからさらに増加してゆくに違いない。

 P2Mでは投資評価や投資に伴うリスク管理は、典型的な費用対効果の原則に則り意思決定をするとしている。ネット利活用は、可能性と危険性が表裏一体の文明の機器を利用する。自動車も利便性と危険性を併せ持つ道具であるが、長い時間をかけて危険を克服しながら普及してきた。これと同様に、“道路”というインフラ、交通規則という罰則付きのルール、幼年時代からの教育、そして、機材にシステムとしての安全性の装備などが、ネット利用にも必要である。P2Mのコミュニケーション・マネジメントにおいても、この分野のマネジメント原則を近い将来整える必要があることは言を俟たない。

以上

注 :  総務省のサイト 「ネット利用者」  リンクはこちら
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