関西P2M研究会コーナー
先号   次号

経済発展する中国の変化とPM教育の意義

パナソニック株式会社 人材開発カンパニー
 コーポレート技術研修センター 小藪 康 [プロフィール] :11月号

 私は、現在、社内の人材育成部門に在籍し、国内外の技術社員に向けたプロジェクトマネジメント関連研修の企画から研修教材の開発、講師を担当しております。海外での私の研修業務の中心地は、中国であり、 この4年間ほど、毎年定期的に中国に行き中国国内の各地で、PM育成のための研修活動を行ってきました。
 ここでは、この4年間に、私が中国の若手プロジェクトマネジャー候補たちと接してきた中で、中国人若手技術者の気質の変化に関連して、私が感じたことを書きたいと思います。
 ただ、ここに書くことは、私の主観であり個人的な感想であることをお断りしておきます。
 4年前にはじめて、中国に行きPMに関する研修講座の講師を担当した際に、最も関心したことは受講生の方々の非常に熱心な受講態度です。
 私は、中国語は話せませんので、中国では、講義の際に通訳の方に入っていただき、逐次通訳を介しながら研修を実施しているため、研修中のコミュニケーションに関しては、決して良い状態とはいえません。
 幸いに、いつも通訳を担当する中国人スタッフは、日本語が非常に堪能で、内容に関しても深く理解しながら通訳を担当してくださっているので、かなり言語の違いによるハードルを下げることができていますが、それでもコミュニケーションの問題は否めません。
 しかし、当時の中国の受講生の方々は、その中から少しでも有益な知識を持ち帰ろうとひたむきに研修に参加して、質問して、ディスカッションする姿があり、いわゆるハングリー精神を感じることができました。
 ただ、研修の途中で、事例分析をベースとした演習などをやってみても、論点が少し浅かったり、PMの視点としては少し、ピント外れだったりとまだまだ、未熟な感じを受けるところが多かったのですが、それでも、今後の成長を感じさせる勢いのようなものを感じることが出来ました。
 4年後の今日、その当時と比較すると、研修に参加される方々の雰囲気はだいぶ変わってきました。
 内容に対する理解度の早さや、PMに関連した知識の豊富さはレベルアップしていますし、事例分析を行う際の論点の深さや幅広さは、確実に進歩しています。
 もちろん、受講態度も大変真面目で真剣です。
 ところが、研修中の態度にどこか覚めた感じを受ける部分があります。
 いい意味で言うと素直で物分りが良くて理解が早いのですが今ひとつ、もう一歩の踏み込みがないというか、アグレッシブさがないような印象があり、どことなく、日本人の若手世代の雰囲気に似てきている感じを受けます。
 表現は悪いのですが、研修はあくまでも研修と割り切って、従順に勉強をしている印象を受けるのです。
 もちろん、経済が高度に成長して、社会が成熟してくると、人間の気質が変化してくるのは当然なのですが、あまりにも急な変化に少し戸惑う部分があります。
 この印象を上海在住でマーケティング会社を経営している友人に話したところ、今の中国は日本の倍の速度で経済や社会が変化していると考えるのが妥当だというのが彼の意見でした。
 日本では10年間ぐらいで一つの世代が交代すると考えるらしいのですが、現在の中国社会ではそれが5年間ぐらいのサイクルで世代が入れ替わっている状況なのではないかという意見であり、この4年間で私が受けた大きく受講生の姿勢が変わった印象、一つ世代が変わったような印象に関してはあながち間違いではないとも言われました。
 今、若手技術者として研修に参加してくれている中国人は、小さいときからそれなりに社会が豊かで、しかも急速で安定的な成長を体感しながら育ってきています。
 しかも、一人っ子政策で、ふんだんに両親の親族から支援を受けて、高度な教育を受けてきている世代です。
 その教育の成果で、知識の面では、申し分のないものを持っているようなのですが、それを社会で生かすために、熱意を持ってがむしゃらに取り組む必要のない生活を送ってきたために、以前の中国経済を支えてきたハングリーさというものは、失ってしまったのではないでしょうか?
 現在、先進国が中国に期待している2つの要素のうちの一つは巨大なマーケットであり、もう一つは その巨大なマーケットに商品を供給するための工場であり、さらには研究開発拠点としての役割のではないでしょうか。
 急速なインフレに伴う人件費の高騰と合わせて、このような急速なマインドの変化が起こっているとしたら、この先、中国経済は大きな変化点を迎え、厳しい局面に陥るような危機感を感じずにいられません。
 話が、大きくPMの話から逸脱してしまいましたが、このような状況の中で、これからの中国の職業人に求められるのは、マネジメント能力の高さとリーダシップあるいは動機付けの能力ではないかと考えます。
 今まで、中国の労働力は経済発展を目指したハングリー精神が経済の推進させる強力なエンジンの役割を担ってきました。それ故に、稚拙なマネジメントの元でも、強引にプロジェクトが進んできた部分は否定できないと思いますし、先進国から見た場合、その状況には多少は目を瞑ったとしても、労働市場の安さや豊富さで相殺される部分があったのではないでしょうか。
 ただ、そのエネルギーが今後、維持されないとしたら、マネジメント力の水準を引き上げ高い付加価値を生み出す仕組みを整えていく必要があります。
 先進国が、これからの中国に期待しているものは、現地の法人を現地マネージャがマネジメントしていく構造、あるいは、現地のプロジェクトを現地のPMがマネジメントすることができる構造ではないかと思います。
 すでにその意義に気がつき、プロジェクトマネジメントに興味を持ち、その価値を高く評価している組織や団体があり、地道に勉強に取り組んでいる個人がいることも事実のようなのですが、一方では、大学等で行われているPM教育は、まだまだ理論が中心で実践型ではないという意見も、私が過去に接した中国人社員の中からは聞こえてきます。
 幸いにして、我々日本は、まだまだこの分野では先行している部分があるといえます。
 大きなポテンシャルを秘めた隣人と上手く付きあい、Win-Winの関係を構築していくには、我々が、企業活動を通じて、PM体系に基づくマネジメントスキルの教育を行い、中国の持続的な発展を支える人材を企業内で育成していくことが、地道ではあるが、大切な基礎固めの仕事ではないかと思います。
 また、そういった人材育成システムやノウハウ、文化的な特徴を持っていることが、欧米企業に対しての日本企業の大きなアドバンテージであると考えていいのではないでしょうか?
 私は、これからもPM育成のための人材育成活動を通じて、中国経済の変化を体感し、日本と中国の経済の良好な発展の小さな一角でも担うことを継続できればうれしいと思います。
 今、日本と中国が難しい関係にある中で、一層その思いを強くします。

ページトップに戻る