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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~英語でコミュニケーションする力~

井上 多恵子 [プロフィール] :11月号

 書店には、英語に関する本が多数並んでいる。英会話学校も、オンライン、メール、フェースツーフェースなど様々な形態で存在している。私自身も、学生時代の家庭教師から始まり、数多くの人に対し、英語指導を行ってきた。雑誌等で、英語学習についての考えも述べてきた。特に社会人になってからは、限られた学習時間を効果的に使うために、実践的な英語力を身につけてもらうことに注力してきた。どんな場面で英語を必要とするのか。その場面に応じた英文を一緒に考え、それを覚えてもらうようにしてきた。海外旅行に行くのであれば、ホテル等で使うフレーズを、また、ネットワーキングを目的の一つとする海外研修旅行であれば、自らのことを伝えるためのフレーズを繰り返し練習してもらってきた。
 この学習の効果をより高めるために大事なのは、「学ぶためのモチベーション」だ。そのことを、インドで9月に実施した三週間におよぶ研修を通じて、改めて実感した。研修では、事前課題として、口頭や文章での英語による自己紹介をしてもらった。英語に対する苦手意識がある人には、フィリピンの学生と毎日オンラインで会話ができるサービスに申し込んでもらった。
 しかし残念ながら、日本での学習は十分ではなかった。「英語でコミュニケーションする力の習得」に、心の底から彼らが真剣になったのは、インドに行ってからだった。人によっては、インド人の教授による講義が半分も理解できず、自分が伝えたいことをインド人にわかってもらえず、カンペ代わりにスマホに文章を表示させないと英語で発表できず、質問を理解できず、理解できた質問があっても、通訳を介さないと答えることができなかった。そんな経験をして、彼らはようやく、必死になった。ある研修生は、帰り際に私にこう言った。
 「これまで、どんなことも、それなりに上手くこなしてきました。それが、今回は伝えたいことすら伝えることができなかった。こんなに惨めな思いをしたのは、生まれて初めてです。これからは、英語をちゃんと学びます。」
別の研修生は、感想文にこう書いた。
 「英語ができないと、学習のスタートラインにすら立つことができないということを痛感しました。オンライン英会話の練習、これからも続けます」
 彼らの発言を聞いて、私が英語を覚えた頃のことを思い出した。小学校6年生の時に、父親の仕事の関係でニューヨークに行った。1年半位は本当につらかった。英語を話すことも聞くこともできない。学校に行くのがとても嫌だった。当時の私にとって、英語ができないこと=友達ができないことだった。私が帰国子女だということを知って、よくこう言う人がいる。「帰国子女だから、英語が上手でいいですね。英語を楽に覚えられたのでしょう。羨ましい」そう言われるたびに、内心思っている。「とんでもない。コミュニケーションできるようになるまでに、つらさのあまり、どれだけ涙を流したことか。どれだけ苦労したことか。」
 それと比べると、会社で英語ができないと言っている人には、甘えがあるように思えてしまう。確かに、会社によっては、昇進の障害になる。しかしそれ以外は、英語が得意な人に訳してもらったり通訳してもらったりしている。だから、「英語を勉強しなくちゃ」と口癖のように言うものの、切羽詰まった感が無い人が多い。
 しかし、英語でコミュニケーションすることができないと、業務上の幅が狭まることは間違いない。そう考えると、「そこそこできればいい」というレベルを目指させるのではなく、グローバルな場で求められるレベルをしっかり認識させること、動機づけることが大事だ。
 今回インドの経営大学院で実施した研修では、ビジネスケースや記事を事前に読んで、それを基に意見を述べることが求められた。大半の日本人はお手上げ状態だったが、大学で大量の資料を読む訓練をしてきたインド人は、平気でこなしていた。レベルの差を見せつけられた。
 今後は英語指導をする際、まず具体的に英語が必要となるシーンを想像してもらい、英語が使えないことにより、困っている自分、「みじめな思い」をしている自分の姿をしっかりと思い浮かべてもらうおうと思う。みじめな思いをしたくないという気持ちが、英語を学ぶ原動力になる。もちろん、英語が使えてハッピーな自分の姿を思い浮かべることが、強い原動力になる人もいる。各人にとって、より効果的な方法を選べばいい。
 想像するのが難しいと言う人には、「体験する場」を提供したい。関心がある人がいれば、PMAJ協会でもメンバーを集めて、英語でディスカッションや発表する場を設けてみたいと思っている。周りの人の受け答えを見て、刺激を受ける人が一人でも出てくれば、やる価値は十分にあると言えよう。

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