例会部会
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第163回例会報告

例会部会 渡部 寿春 [プロフィール] :8月号

【データ】
開催日時: 2012年6月22日(金) 19:00~20:30
テーマ: 「P2Mプロファイリングマネジメントの勘所」
~事業立上げ、会社再建、人材育成、技術戦略推進等、
各種プログラムマネジメント経験で思うこと~
講師: 日本ユニシス株式会社 人事部副部長 兼 人材育成センター長 白井久美子氏

 今回の公演では、PMAJ副理事長でもある白井氏より実体験をもとにP2Mの豊富な事例をご紹介頂きました。国内有数のSIerにおける経営層の戦略立案から実施、評価、更に複数のプログラム間のマネジメントについても説明頂き、紹介された事例集の中ではP2Mの要素が漏れなく網羅されており、且つ実践的であり、今後、P2Mの応用を検討する者にとって貴重な資料となりました。この内容を以下にまとめます。

1. プロファイリングマネジメント
  プロファイリングマネジメントは、プログラムマネジメントの中核的存在で、曖昧なテーマを可視化して関係者全員にどこに向かうかをわからせる手法。
  「ありのままの姿」と「あるべき姿」の両方をゼロベース思考で考えることが必要。
  「ありのままの姿」から洞察した全体使命の意図を多元的に理解し、幅広い価値体系に表現し、「あるべき姿」を追求するためにミッション(使命)を実現可能なシナリオに展開する実践力。
  ゼロベース思考
    既存の枠内の思考⇒既存の枠組みで考えるので、つい出来ない理由を沢山考え出してしまう。
    ゼロベース思考⇒既成概念にとらわれず、どうしたらできるのか、可能性を求めて考える。

 はじめに、P2Mで難解と言われるミッションプロファイリングの要点が示されました。特にゼロベース思考の箇所が重要でありイノベーションの原点と考えられます。

2. プロファイリングマネジメントの手順
オファー認識 きっかけは、ほんの一言。オーナーの意図を6W1Hで可視化。
「ありのままの姿」と「あるべき姿」のギャップ認識
全体使命(ミッション)定義(作文)
ビジョン作文
目的定義、目標の設定
使命展開、記述(シナリオ作成)

 実践でまとめられたプロファイリングの手順が示されました。事例の中で具体的な作文方法が説明され、全体使命は5行以内、ビジョンは1・2行で簡潔に記述するとのこと。

3. 「あるがままの姿」と「あるべき姿」を経営力で分析する方法(OWモデル)

 8つの要素で分析することで経営力を見える化する。
顧客関係性構築力
販売開発力
マーケティング開発力
商品・サービス提供力
研究開発力
経営資源蓄積力
業務プロセス活性化力
市場への組織対応力

4. 実践事例
.NET事業立上げプログラム 2002年~2004年
企業改革(企業再建)プログラム 2004年~2006年
人材育成戦略プログラム 2005年~2006年
NET技術戦略プログラム 2007年~2008年
技術統括戦略 2009年~2011年

 5つの事例が示され、具体的にオーナーの思いから全体使命の定義、ビジョンの作文、シナリオ展開、コンテキスト分析、アーキテクチャー構築、評価の内容が説明されました。更に、企業改革(企業再建)プログラムにおいては、人生で最も過酷な時期であったことも話さプログラムマネジメントの困難さを実感しました。説明で例示されたP2Mプログラムマネジメントワークシートは、一見、システム設計書と思えるような精緻な構図で描かれており豊富な実践により洗練されています。

5. わかったこと、教訓、これからやる人に向けた勘所
プロファイリングマネジメントでどこへ向かうのかを明示し、ゴールを共有すること
危機感の醸成
コーチング的マネジメント(命令的でなくフォロー型)
P2M理解者数増加はキーサクセスファクター
「ありのままの姿」を継続的にモニタリング
「あるべき姿」とのギャップの再認識と継続的な打ち手を考え実行していくこと

 最後に勘所を話され、PMスキル的なこと、コンセプチャルスキル的なこと、ヒューマンスキル的なことに分類して説明され、執念・熱意と覚悟のないプログラムマネジャはだめであること、忍耐・寛容が大切でプログラムが完結できずともへこまない、などの説明の中にも実感が現れました。

 P2Mのプログラム基本要素は、多義性、拡張性、複雑性、不確実性の4つです。PMBOKとの大きな違いがこのプログラムであるが、プロジェクトにも不確実性はある。しかし、プログラムの方が不確実性は高いだろう。白井氏は目指す姿の6割が達成出来ればプログラムとしては成功と言われた。P2M実践者が、何故これを使おうと思うのかと言えば目指す姿自体を設定する必要があるからだ。何を目指すことで価値創出が可能となるか?ここから考えねばならない複雑な問題が増えている。しかし、P2M実践の困難さも示された。この貴重な事例を無駄にすることなく次に生かしたいと思いました。

以上

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