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プロファイリングマネジメントとシステムズアプローチ 再考 (その1)
Second Thought on Systems Approach in P2M Profiling Management

オンライン編集長 岩下 幸功 [プロフィール] :7月号

概要
 前論(オンラインジャーナル4~5月号)にて、P2Mにおけるプロファイリングマネジメントとシステムズアプローチについて考察し、若干のインプリケーションを行いました。それは(SSM+APM)モデルというもので、構想フェーズでSSM(Soft Systems Methodology)を、実行フェーズでAPM(Agile Project Management)を組み込んだ、P2Mの次世代バージョンの開発への期待というものでした。本論では、その後の実証研究を踏まえ、このインプリケーションに対する再考を行います。

1.P2Mへのインプリケーション
 我々が直面する問題状況はますます高度化し、複雑化し、変化が激しくなっています。このような現実に対し、硬直化した従来型のウォータフォール型フェーズドアプローチのみでは対応が難しくなっています。今回のスタディーを通じて浮かび上がった二つの潮流(SSM+APM)から、P2Mへの若干のインプリケーションを行いました。
P2Mへのインプリケーション

 上記の(SSM+APM)モデルは、最上流の構想フェーズでSSMモデルを使用した広域的なプロファイリングを行い、そこで抽出された「変革案(あるべき姿)」をプロジェクトビジョンとして、APMの構想に受け渡す概念を示したコンバインモデルです。受けたプロジェクトビジョンを実現するために、APMモデルではイテレーションプロセスで環境適応を行います。これは実行フェーズにおける、局所的なプロファイリングと位置づけることができます。これにより構想段階での「正しい目的(What)」への合意(アコモデーション)の獲得と、実行段階での環境変化に対する「正しい対応(How)」を実施することで、プログラムライフサイクルを通じての環境適応が可能になると考えます。極めて日本的なカルチャーに近い概念です。

2.プロファイリングマネジメント
2.1 プロファイリングとは
 プロファイリング(Profiling)とは「前へ(pro)+糸を紡ぐ(file)→形を描く」というところから、「犯罪捜査において、分析に基づき、犯人などの人物像や事件の輪郭(outline)を描くこと」を意味します。諸々の情報から犯人像を組み立てる「推理」のようなものです。この推理の方法には、演繹的プロファイル(Deductive Profile)と帰納的プロファイル(Inductive Profile)とがあると言われます。演繹とは「前提の命題から、経験に頼らず、系統的な論理規則に従って、必然的結論を導く」ことであり、帰納とは「個々の具体的事実から、実験的な一般的命題・法則を導く」推論のことです。
 演繹的プロファイルでは「人間の行動には法則性があり、統計から推測できる」という考え方に基づき、過去のデータから人間の行動・感情を類型化して客観的指標を設定するという「行動様式分類」型の推理を行います。これには限られたサンプルから一般論を導いてしまうこと、また、データがすべて過去のものであるという限界もあります。 従って、無実の人を犯人として特定してしまう危険性を本質的に内在していることになります。
プロファイリングとは  一方、帰納的プロファイルでは「現場で実際に起きたことにしか手がかりはない」という考え方に基づき、現場の証拠のみから犯人の動機・性質を推論するという「行動証拠分析」型の推理を行います。他の犯罪者の情報は一切考慮しません。現場が日常的に行っている推理を理論化・体系化したものともいえますが、犯人が現場に残した証拠から推論するために、分析を行ったのが誰かによって結論が大幅に違ってきます。幅広い経験と学識が必要になるし、幅広い知見を持つ人材の育成は簡単にはできないという限界もあります。
 このように両者は、起源・方法論・分析法が根本的に違っています。従って、「演繹か帰納か」という発想ではなく、「両方とも使う」という、両者を止揚する柔軟な発想が必要になります。 そして止揚された柔軟な発想の中から仮説形成(アブダクション:abduction)と表現されるプロファイル(Abductive Profile)が出現すると考えます。このアブダクションとは「事実からは直接観察しえぬ、別種の事実を閃く」ことを意味し、可謬性は高いが、発見に向いた推論形式だとC.S.パースは説いています。所謂、第六感的な閃きです。帰納法に似た拡張推論ですが、帰納とアブダクションの違いは、帰納は「観察された事実の一般化を行う」だけであるのに対し、アブダクションは「事実を説明する原理・法則・理論・概念の発見を行う」というところにあります。またアブダクションが発見しようとするのは、観察されたのとは別の種類の事実であることがしばしばあります。観察できない事実であることもしばしばです。更に、帰納は「正当の文脈」において、仮説や理論をテストする推論です。一方、アブダクションは「発見の文脈」において、仮説や理論を発案する推論です。帰納よりは大きく飛躍した閃きや発見を伴う推論といえます。
 以上のような三つの推理を連携させながら、求むべき解を「炙り出していく」のが、犯罪捜査におけるプロファイリングモデル(Profiling Model:PM)であり、人間本来の推論思考過程に沿うものであると考えます。

2.2 P2Mにおけるプロファイリングマネジメントとは
P2Mのプロファイリングマネジメント  P2Mにおけるプロファイリングマネジメントの考え方は、「ありのままの姿(As-Is Model)」を認識し、洞察力をもって全体使命を多元的に解釈し、幅広い価値体系として表現した「あるべき姿(To-Be Model)」を描く、と抽象的な表現になっています。これは、現実世界の重要な問題は次のように定式化できるという見方です。つまり、To-Be Modelという望ましい状態と、As-Is Modelという現在の状態があり、As-IsからTo-Beに到達するにはいろいろな道筋(シナリオ)があるという考え方です。この考え方によれば、問題解決とはTo-BeとAs-Isをはっきりさせ、As-IsとTo-Beの差を解消するための最善の手段を選択する(Gap Analysis)ことです。ここでは、それぞれのモデルを描くための洞察力として、前述の演繹的プロファイル(Deductive Profile)、帰納的プロファイル(Inductive Profile)、及び仮説形成的プロファイル(Abductive Profile)を連携させながら、プロファイリングモデル(Profiling Model: PM)を炙り出すことで、価値創造モデルを形成すると考えます。(⇒次号に、続く!)

次号では、
3.システムズプロファイリング
3.1 SSMでのシステムズプロファイリング
3.2 APMでのシステムズプロファイリング
4.P2Mへのインプリケーション
について、言及します。

【引用・参考文献】
[1] 「システム工学方法論」A.D. ホール著/熊谷三郎監訳、共立出版、1969年
[2] 「P2M標準ガイドブック」小原重信編著/プロジェクトマネジメント資格認定センター企画、PHP研究所、2003年
[3] 「ソフトシステムズ方法論」P.チェックランド/ジム・スクールズ著/妹尾堅一郎監訳、有斐閣、2003年
[4] 「アジャイルプロジェクトマネジメント」ジム・ハイスミス著/平鍋健児、高嶋優子、小野剛訳、日経BP社、2005年
[5] 「アブダクション 仮説と発見の論理」米盛 裕二著 勁草書房 2007年

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