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羊とラグビーの国ニュージーランド

PMR 堀江 理夫 [プロフィール] :6月号

ここ2年ほどは商談対応が多く、プロジェクト遂行中・建設中の海外現地に長期に滞在する機会が少なくなったが、もっとも最近ではといえば2006年終わりから2010年途中までの約3年半の間、プロジェクト遂行で年の4分の3以上の期間ニュージーランドに滞在していた。過去の経験でいえば、プロジェクトの遂行、プラントの建設は苦しかった思い出も多いものだが、先進国だが素朴でのどかな同国に仕事で長期赴任できたことは今想い起こしても非常に幸いであり、楽しい思い出であった。
 ニュージーランドは国土の面積は日本の3/4程度だが人口は400万人強のみである。一方で羊は2000万匹以上居るといわれている。スーパーに行くと肉類のコーナでラム肉のスペースが鶏肉・牛肉と同じくらい占めているのがわかる。郊外を車で走っていても牧草地帯では牛よりも羊の群れを多く見ることができる。地元の人達の週末の過ごし方で特徴的なのは、ハンティングや釣りに出かける人達が非常に多く、我々の建設現場でも、「週末に獲ってきたぞ」と月曜日の朝現場事務所に鹿を一頭持ってきて1週間ほど吊るしておき(捕獲後肉を常温に晒してエージングさせたほうが美味しいと言う)スモコの時間(注:NZの現場では休憩時間のことをスモコと言う。Smoke & Coffeeが語源らしいが)にその肉を皆に振舞っていた人もいた。
 NZ人はどちらかというとみな自分のペースで働く人が多い傾向にあると思う。たとえば地方にある殆どのモーテルは朝はフロントの人が出勤してくるか起床するまでチェックアウトできない。早く出発したい人は前日に精算しなければならない。またチェックインもフロントの人が帰宅するか就寝するまでにチェックインしないと予約をしていても閉められてしまうことがある。顔見知りになっていると、夜9時頃になっても到着しない時などは、親切?!に電話がかかってきて「今日来る気あんのか」と。「いや遅くなるが今向かっているところだ」と言うと、「それなら、あなたの部屋は6号室だ、玄関マットの下にキーを入れておくから着いたら勝手に入ってくれ、私たちはもう寝るから。」といったやりとりが普通にある。ゴルフ場もおおらかなもので、平日休日も夕方5時くらいになると従業員は事務所に鍵かけて全員帰宅。それでも夏は夜9時まで明るいので夕方ゴルフしたい人は事務所の外に「HONESTY BOX」と書いてある箱があり、そこに料金を入れれば勝手にラウンドして良いことになっている。
 ところでニュージーランドといえばラグビーで有名だが、日本では滅多にお目にかかれない世界ランクNo.1オールブラックスのゲームや、南ア、豪州、NZの3国合計14チームでリーグ戦を行うスーパー14、シーズン最後に行う南ア、豪州、NZの三国対抗戦(Tri Nation Cup)などは必ず全国ネットで放映され、待中のバーも満杯になる。NZ最大の都市オークランド市中心部では、オールブラックスの試合の日は深夜まで酔っ払いの嬌声がよく聞こえるし、どこかで大騒ぎして海にでも飛び込んだのか、夜中の3時頃に背広のまま全身ずぶ濡れで俳諧している様な輩もいる。またNZはテレビチャンネルは元々少ないが、スポーツ番組でいえばオールブラックスなどナショナルチームレベルから大学・高校ラグビーに至るまで、放映しているスポーツの殆どがラグビーと言っても過言ではない。ラグビーの次に放映している他のスポーツといえばクリケットくらいのものである。
 仕事の接待といえばどの国でも夕食が定番だが、NZではラグビー観戦に招待することが非常に多い。そのラグビー観戦であるが、ラグビースタジアムの最上階には大抵宴会場があり、そこでゲーム開始1時間前ぐらいから会食をしてから観戦するシステムで、観戦中もビール・ワインは飲み放題。試合後に今度は皆でスタジアムから出ると、ちゃんと2次会用の立ち飲みテントが山ほど設営されてあり、そこでさらにビールを立ち飲みしながらゲームの感想を話してわいわい騒ぐのが定番のようである。ここまで付き合うことを想定した上でペース配分しながら飲み食いするのが肝要である。
 NZに居て気がつくのは、やはり世界の大部分から距離がある島に在住しているせいか、大くの人が大学を卒業直後か若いうちに1-2年の間、世界一周旅行や海外での在住などを経験していることである。当然ながらNZは旧英国連邦(The Commonwealth of Countries)に属しているため、それらの国々に次々滞在し自由にアルバイトなどで金を稼ぎながら旅する若者が多いようである。
 海外の現地に着任する場合、どんな国でも地元のものを食べ地元の酒を飲み、地元の習慣に極力あわせて生活し仕事することを私は一応是としているが、それを体験できることは海外プロジェクトに携わるものの特権であり、またある意味楽しみの一つでもあるとも私は考えている。それにしてもニュージーランドに関しては特に生活感も豊かで、しかも日本と同じ島国のせいか何となく親近感がもてた素晴しい国であった。機会があれば是非また長く滞在したいと思っているし、日本の皆様にも短期の観光だけでなく是非長期滞在などで出かけてみることをお勧めしたい国である。
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