PMプロの知恵コーナー
先号   次号

ゼネラルなプロ (18)

向後 忠明 [プロフィール] :4月号

 いよいよ今月号から具体的なプロジェクトの実行に入ります。その取り掛かりがプロジェクト計画となります。
 この計画がスム-スに、かつタイミングよく行われるかどうかによって、そのプロジェクトの成否が40-50%程度決まってしまうと言われています。
 物事を始める際には必ず計画を立てると言うことは誰でも知っていることです。しかし、具体的な計画書作りになると何をどうしたら良いのかわからない人も多いようです。

 ガイドブックの代表であるPMBOKでは“MBO(目標の管理)”そしてP2Mでは“プロジェクト目標マネジメント”の中で計画に関する考え方を述べています。
 PMBOKではプロジェクトプランとは「各種のプランニング・プロセスの成果を活用し作成されたもので、プロジェクトの実施及びコントロールのガイド」としています。
 一方のP2Mは「プロジェクトマネジャやチームメンバーが契約条件や資源などの制約のもとでその時点から完了までの工程を想定し、バランスのとれた路程図を提供する」ものが目標マネジメントの機能としています。
 このようにこの2つのガイドにもプロジェクト計画に関する表現に違いがあり、そしてプロジェクト計画についての説明もしていますが、それでは具体的にどのような項目で何を示したらよいのかを示していません。
 これらはあくまでもガイドブックであり、全産業を対象としたものなので、対象産業を決めて記述したものではありません。すなわち、基本的な指針を与えているだけであり、それぞれのプロジェクトに示すプロジェクト計画の項目や内容は示していません。
 プロジェクト計画の内容は対象となるプロジェクトの規模、および特性により千差万別です。よって、プロジェクト計画書に示される項目や内容も異なってくるのは当然のことと思います。

 よって、プロジェクト計画書はプロジェクトの進む方向を決める羅針盤としてもそのプロジェクトの特性を良く反映したものでなければなりません。
 そして、プロジェクト計画書はプロジェクトにかかわるステークホルダーの合意事項も含んだプロジェクト進行の意志決定の共通資料でもあり、プロジェクト目標の実現への計画と実施に当たっての管理の仕組みが定義されていなければなりません。
 そのためには、その実行に当たっては①プロジェクトの目標及び方針を明確かつ具体化する②計画そのものが信頼されるものであり、②プロジェクト関係者(ステークホルダー)との人間関係(相互理解)も良好なものにするものであり、③計画実行に関するコミュニケーションが効果的かつ適切に行われるものである必要があります。

 それではプロジェクト計画書にはどのような内容が盛り込まれなければならないのか?
 プロジェクト計画書はプロジェクトライフサイクルの内容を鳥瞰的に把握し、そして顧客要求、これまでの交渉内容、企業およびプロジェクトを取り巻く環境等を考慮し、何を優先するべきかそしてリスクはどこにあるかを分析し、洞察することが第一番です。その後、分析により得られた情報に基づき、必要な業務(スコープ)の内容、プロジェクト実行体制とその役割とその仕分け、仕分けされた作業の期間の優先順位、資源配分(人、もの、金)、およびコミュニケーション手段等々を示す必要があります。
 もちろん、契約書の内容も分析し、契約書で示しきれなかった潜在的な問題事項もプロジェクト実行中に起こります。その問題処理とその対処についても具体的に課題管理表による方法も顧客との軋轢を残さないように示しておく必要があります。
 そのプロジェクト計画書に示される項目の全体像の一例を表18-1に示します。

表18-1 プロジェクト計画書に示される項目
表18-1 プロジェクト計画書に示される項目

 なお、上記の表は筆者がこれまで手掛けてきたプロジェクトの計画においていつも座右において記述すべき項目の一覧として利用していたものです。
 プロジェクトによっては上記に示す計画項目で不必要な部分も、また足りなくなって追加した部分もありましたが、総じてここに示す項目で十分対応できると思っています。

 ここまでで読者諸氏もプロジェクト計画書にどのような項目を盛り込んだら良いか理解されたと思います。
 しかし、問題はその各項目に記述するべき内容ですが、それはプロジェクト計画をする人がプロジェクトの特性を考慮し、前述してきた考え方でまとめていく必要があります。
 さて、このプロジェクト計画をする人とは誰でしょう?
 基本的にはプロジェクトマネジャが責任を負って、プロジェクトチーム全体がさまざまな部分で担当しながらまとめていくことになります。

 プロジェクトマネジャの選定はすでに提案段階で決定されているはずです。
 よって、プロジェクトマネジャはプロジェクトの生成段階から対象のプロジェクトの内容を熟知しています。そして、プロジェクトライフ全体を見渡し、その本質を見抜き、将来リスクも考慮したプロジェクト計画をすることができなければなりません。
 すなわち、洞察力を持って、物事を計画的に設定し、行動できるタイプの人であり、“先または与えられた目的を考えた上で、今これから何をどのようにすべきか”を自然体で「考えられる」習慣を持った計画性のある人がこの役務に適任でしょう。
 「計画性とはプロジェクトを取り巻く環境や与条件を考慮し、プロジェクトに潜む潜在的問題を洞察し、将来リスクを念頭に、自分のやるべきことを認識し、プロジェクトの目標を設定し、その達成のため何をどのようにすべきかを習慣として持っている」ことと考えられる。
 しかし、このように洞察力と計画性の豊かな人材をプロジェクトの責任者として見出すことはなかなか困難なことです。

 しかし、実際のプロジェクト実行においての行動特性を見ると良くわかると思います。すなわち、以下に示すような行動を自然にとれている人と言うことになります。

計画策定に当たってはプロジェクトの規模、特性を考慮し、プロジェクトを取り巻く環境そして契約までの経緯を分析すると言った事前の策をとっている。
それをベースにプロジェクトライフサイクル全体を見て、方針および目標を明確に示し、その目標達成意識を持ってプロジェクト計画がなされている。
そこにある問題点や優先すべき事項を調整し、その方法や手順を示している。
計画内容がチーム員およびステークホルダー間での相互理解が得られるような行動をしている。
計画目標を達成すると言ったプロジェクトマネジャの信念と意志を示していると同時にプロジェクトスタッフの信頼感が感じられるものになっている。

 要するに、表18-1に示した項目がプロジェクトの規模やと特性を考慮し、各項目が適切にその内容が明確に示され、その内容が関係者に理解納得されていれば問題ないと思います。
 すなわち、プロジェクトマネジャの計画にかかわる原点はプロジェクトマネジメントスキル(知識+経験)、論理的思考(各種分析技法)そして資質としての計画性であり、これらを駆使し信頼性の高いプロジェクト計画を立てることができるのだと思います。

 プロジェクト計画の項目は表18-1に示した通りですがその内容についてはプロジェクトの特性や規模そしてそこに内在する各種の特殊事情を考慮して示していかなければなりません。
 一般的にプロジェクト実行計画の管理対象として良く言われているものには①スコープ②品質③スケジュール④コストが主なものです。
 確かにこれらの相反する管理対象をうまくまとめることはプロジェクト管理上非常に重要であり、これだけで小規模のプロジェクトの実行管理は十分です。当然プロジェクト計画も最低でもその範囲でまとめれば良いことになります。
 しかし、プロジェクト規模が大きくかつ複雑になるとそのようにはいきません。
 例えば、①プロジェクトの機能分割やインターフェース②そこに内在する各種問題、③スケジュール上の各アクティビティーの優先度合いとその関連性、④組織体制と人材⑤関係者間のコミュニケーションそして各種図書の管理等々を計画書で、方針を含めてまとめていかなければなりません。
 当然、プロジェクトマネジャの知識や経験外の事象や技術も発生するのでそれを補完するプロジェクトスタッフや関係者を社内外から発掘すると言ったことも計画を作る上で重要なことになります。

 以上プロジェクト計画はプロジェクトマネジャの重要な責務の一つであり、顧客要件を読み解き、まわりの状況を考え、自分なりの座標軸を持ってまとめていくと言った能力が必要となります。
 よって、プロジェクトマネジャは“プロジェクトの成功率がプロジェクト計画の良し悪しで50%以上になる“との意識を持ってプロジェクト計画をまとめていく必要があります。

 次はプロジェクト計画書に従ってプロジェクトの実行と言うことになりますが、プロジェクト実行管理に関する文献も多く発刊されているのでここでの詳細は省きます。詳細はそれらの文献にお任せします。

 来月号からはプロジェクトの実行に際して最初に行わなければならないプロジェクト体制作り、スケジュール作成、そしてプロジェクトコスト(予算の設定)に関連して筆者の経験を含め具体的な例の話をしていきたいと思います。
ページトップに戻る