PMBOK®ガイドはアジャイル開発をサポートしているか?
21世紀のグローバル競争環境下におけるソフトウェア開発でアジャイル開発の価値が益々増大している中、PMBOK®(Project Management Body of Knowledge)ガイドをウォーターフォール型開発のみサポートしていると思い込み、アジャイル開発に不安を持っているソフトウェア開発者や管理者がいることが、企業内にアジャイル開発を採用していく上で障害となっている場合がある。
PMBOK®ガイドは、プロジェクトを成功に導くためにプロジェクト・マネジメントのプロセス、ツール、技法等を記述した知識体系であり、ソフトウェア開発、建設、製造、研究開発など幅広いプロジェクトに適用できることを目的にして開発され、1996年に第1版(1)が発表されて以来、多くの分野のプロジェクト・マネジメントの事実上の国際標準となっている。
PMBOK®ガイドは最初から特定の方法論を押しつけていないが、当初、多くのプロジェクト・マネジャーは、ウォーターフォール型開発が主流であることもあって、ウォーターフォール型開発のみをサポートするものであるという誤解をしていた。2004年に改訂された第3版(2)のプロジェクト・ライフサイクルの項目の中で、「理想的なプロジェクト・ライフサイクルを定義する最善の方法というものはない」(P20)、さらに「与えられたプロジェクトに対してどのようなプロセスを選ぶのは、プロジェクト・マネジャーがプロジェクト・チームと協力して決定すべきである」(P37)と述べ、ウォーターフォール型以外の方法論を示唆した(3)。2008年に改訂された第4版(4)の中で、プロジェクト・ライフサイクルを構成するプロジェクト・フェーズ間の関係に、不確定なプロジェクトの開発に向いた反復関係があることが記述されている(P22)。ちなみにその他のフェーズ間の関係は、ウォーターフォール型開発のような直列関係、時間短縮を目的としたファストトラッキング手法のような重複関係がある(P21)。反復関係がアジャイル開発における反復のプロセスをあらわしている。
PMBOK®ガイドを開発しているPMI®(Project Management Institute:プロジェクト・マネジメント協会)は、ほとんどのプロジェクトに対して適用できるプロジェクト・マネジメントの発展を目指し1969年に米国で設立されたNPO(Non Profit Organization)で、プロジェクト・マネジメントの標準策定や資格認定、研修、セミナー、コミュニティー作りなどの活動をグローバルに行っている。
2005年に、PMI®が発刊する機関誌PM Network®の記事の中で、アジャイル開発導入により生産性の向上、品質の向上、顧客満足度の向上など大変な効果があったという事例が取り上げられた。それ以来、アジャイル開発に関する記事がどんどん載り、アジャイル開発の特徴である顧客との協調、チームのエンパワメント、プロジェクト・マネジャーのチームを支えるリーダーシップの重要性などアジャイル開発に関係する話題が多く取り上げられるようになり、PMI®のアジャイル開発へのサポートが鮮明になった(3)。
さらに、PMI®が主催する研修セミナーであるPMI Seminar World®、国際PM大会であるPMI Global Congress®での発表論文やPMI支部が開催する研修やセミナーのなかに、アジャイル開発に関する内容が多く取り入れられるようになった(オンラインジャーナルの1月号で取り上げたように2011年PMI Global Congress®でも多くのアジャイル開発関連の論文が発表された)。
そして2009年にはPMI Agile Community of Practice(5)が創設され、PMI®の中で、アジャイル開発に関心を持つメンバー同士がアジャイル開発に関する情報交換するコミュニティーが設立された。
2011年にはアジャイル開発のプロジェクト・マネジメントのスキル向上を目指して、アジャイル開発に対する認定制度PMI-ACP®(Agile Certified Practitioner)(6)を開始した。
以上述べたように、PMI®は、アジャイル開発の普及を支援し、アジャイル開発の促進にいろいろな面で積極的に取り組んできている。PMBOK®ガイドも、今後の改訂作業の中で、アジャイル開発に関連した知識体系がより充実されるものと期待されている。
以上
参考資料
(1) |
PMI®, PMBOK®ガイド 第一版(1996年度版), 1996 |
(2) |
PMI®, PMBOK®ガイド 第三版(2004年度版),PMI®,2004 |
(3) |
Michele Slinger &,The Software Project Manager’s Bridge to Agility,2008 |
(4) |
PMI®, PMBOK®ガイド 第四版(2008年度版),PMI®,2008 |
(5) |
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(6) |
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