PMI®2011北米大会に見るアジャイル最新情報
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。皆様のご多幸を心よりお祈り申し上げます。昨年10月22日から10月25日の4日間、米国ダラスで開催されたPMI®2011北米大会に参加し、米国におけるアジャイルに関する最新の情報を得ることができましたのでご報告します。
大会での発表論文は11の分野に分かれ、合計160件であった。分野別に発表件数をみると、①コンサルティング・営業スキル1件、②一般ビジネス・スキル7件、③政府部門のPM 9件、④業界におけるPM課題10件、⑤PMの課題20件、⑥人材育成10件、⑦PM支援ツール8件、⑧PMスキル27件、⑨研究トピックス7件、⑩ソフトスキル20件、⑪新しいPM動向41件、である。この中で『アジャイル』に関するタイトルがついた論文は12件、それを含めアジャイルに関する記述があった論文数は合計35件で、米国におけるアジャイルの関心の高さが感じられた。またPMI®としても、アジャイルの認定制度の導入などアジャイルに対して積極的に取り組む姿勢を示していた。
発表論文としては、大規模開発におけるアジャイル採用に関する示唆に富む発表が多くあった。これらは、1)米国政府内のIT化に関して、ウォーターフォールとのハイブリッドを前提に、効果のある分野はアジャイルを積極的に採用していく意向であること、2)要件定義など上流工程でのアジャイルの採用、3)4)ウォーターフォールに慣れた組織へのアジャイルを採用していく方法、5)固定価格契約の問題等であった。これらの内容は、日本でもエンタープライズ・アジャイルを採用する場合、同様の課題があり、大変参考になる内容であった。
1 ) Balancing Agility with Conformance on Complex Government Programs(③政府部門のPM)
政府の開発プロジェクトは、不確実かつ複雑な大型案件が多く、法律に基づいた規律で動かなければならないため、アジャイル適用は難しいが、アジャイルには多くの効果があり、政府のIT戦略として、アジャイルの導入はウォーターフォールとの共存(ハイブリッド)を前提に支持をしている。アジャイルの効果として、①非常に変化の多い動的環境に対応できる、②不確実なビジネス要求をユーザー側と開発側が協調することにより明確にすることができる、③プロダクトの品質が向上する、④リスクを軽減しできる、⑤早期に出荷できる、⑥継続的改善ができる、⑦チームをエンパワーできるなどをあげている。
2 ) Large Scale Program and Portfolio Management With Scrum and Kanban (④業界におけるPM課題)
2001年アジャイル・マニフェストが発表されて以来、ソフトウェア業界でアジャイルが導入され、効果が現れ注目を浴びてきているが、適用が開発チームレベルにとどまっており、企業としてのビジネスの効果を上げるためには、大規模開発において、企業戦略レベル(ポートフォリオ・マネジメント)から要件をまとめるプログラム・マネジメント・レベルそして開発チームレベル(プロジェクト・マネジメント・レベル)までの3層レベルにアジャイルの適用をすすめている。ポートフォリオ・マネジメントでは、実現するプログラムとして、期待されるROI、顧客、差別化、競合状況、マーケットの位置づけなどの情報をまとめ、プログラム・マネジメントに渡す。プログラム・マネジメントでは、それをベースに、開発要件をまとめ、プロジェクト・マネジメントに渡す。プロジェクト・マネジメントでは、それをベースに、反復的に、開発要件を詳細化、設計、コーディング、テストをしてプロダクトをリリースする。ポートフォリオ・マネジメント・レベルとプログラム・マネジメント・レベルにカンバンを使い、プロジェクト・レベルにスクラムを使った3層のアジャイルを適用し、企業全体として効果を上げることができる。
3 ) Agile: Still the Magic Bullet, or Do You Need a Blended Solution? (⑪新しいPM動向)
アジャイルの文化は、①コラボレーション・リーダーシップ(サーバント・リーダーシップ)、②価値のある変更を歓迎、③製品は漸進的に反復出荷、④人が大切、⑤重要な機能から出荷、⑥コントロールするよりファシリテーション、⑦ムダの排除である。
アジャイルは、計画よりもビジネス価値を重視し、革新的、試験的、経験のない分野で、顧客の積極的参加可能、チーム内および対顧客とのコラボレーションが可能などのケースで適用する。一方、ウォーターフォールは、プロジェクトが計画重視であり、変更管理が厳しく、広範囲なドキュメントや厳しい規律が要求され、顧客の参加が制限されるなどの場合に適用する。
ウォーターフォールに慣れた組織でアジャイルを導入する場合、次のような提言をしている。①経営者、マネジャー、PM、メンバーがアジャイルプロジェクトマネジメントをよく学習し、特にアジャイルの価値を理解することが重要である。②組織への導入に対してはレディネス・アセスメントをする。③既存プロジェクト・マネジメント方法との関連性を考慮する④プロジェクトマネジャーの変身が必要である。(サーバント・リーダーシップをベースに、従来の監視管理型からチームの自律性の促進、現場監督からチームの創造性を促進するような支援者に変わる)⑤ハイブリッド・アプローチ(ウォーターフォールとアジャイルの混成)をすすめる。
4 ) Integrating Agile in a Waterfall World (⑪新しいPM動向)
ウォーターフォール環境にアジャイルを導入するときは、複雑となる。アジャイル・プロジェクト・マネジャーは、アジャイル開発チームに対しては、自律的に動けるようプロジェクト進捗の阻害要因の除去につとめ、ウォーターフォール開発チームやその他の組織部門との関係を良好に保つことが重要である。そのためにアジャイル・プロジェクト・マネジャーは、サーバント・リーダーシップ能力が要求される。
5 ) Fixed Price Agile Projects: Making the Impossible Possible (⑧PMスキル)
ウォーターフォールでは、事前に計画したスコープは変わらないという前提でスケジュールと資源を見積もるため、導入前の契約は、固定価格が一般的であるが、実際は当初のスコープが変わることが多く開発側にコストリスクが発生し、トラブルが発生することが多い。一方、アジャイルでは、スケジュールと資源(コスト)を固定して、ビジネス価値が向上するためのスコープの変更は対応するというが基本理念であるので、変更により仕事量が増減する場合、仕事量に応じて支払うタイムアンドマテリアル契約のような契約体系で対応できるが、顧客は顧客側にリスクの少ない固定価格契約を強く望んでいる。そこで、アジャイル開発を固定価格で契約するために、顧客と次のような合意を取ることすすめている。アジャイルの価値は、顧客のビジネス価値を向上に重点を置いていることを理解してもらい、契約前に見積もった機能数やタスク数でなく、ビジネス価値を実現する機能やタスクを完了基準とする。そして機能の優先順位をビジネス価値に基づいて予め決めておき、開発途中変更要求の場合、優先順位のより高い機能が来たら、低い優先順位の機能のものと入れ替えるというような変更に関する条項を契約に盛り込む。
以上
参考資料
(1) |
Peter S. Zaleski, Christopher B. Bostian, Christtfer J. McDyer: Balancing Agility with Conformance on Complex Government Programs, PMI NA Congress paper(2011) |
(2) |
Mike Cottmeyer: Large Scale Program and Portfolio Management With Scrum and Kanban , PMI NA Congress paper (2011) |
(3) |
Nancy Y. Nee: Agile: Still the Magic Bullet, or Do You Need a Blended Solution? , PMI NA Congress paper (2011) |
(4) |
Joseph Fklahiff: Integrating Agile in a Waterfall World, PMI NA Congress paper (2011) |
(5) |
Jesse Fewell: Fixed Price Agile Projects: Making the Impossible Possible, PMI NA Congress paper (2011) |
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